店内放送
まぁ、大体の店に店内放送ってあるじゃないですか。
俺は有線とか、なんか安い感じの歌なしの邦楽の奴とか流しといてほしいんですけど、まぁ実際コンビニってそういうの流さないですよね。
やれ合宿免許WAOだの、やれ帝京平成大学だの、独自性があってインパクトの強いやつもあれば、まぁアニメとコラボした感じの商品紹介だったり、近所のコンビニとかよくわかんねぇんすけど、ずーっとアンダー・ザ・シーが流れてるんですよ?何の意図があんの?って感じです。
で、店内放送の話をするんですけど……まぁ、期待してもらったら悪いんですけど、多分アナタが想像したような話じゃないと思いますよ。
店内放送から意味のわからない音声が聞こえたとか、死ねという声が何度も聞こえたとか、知らない人間の葬式の情報が流れ続けたとかそういう話じゃないです。
えーっと、六年ぐらい前ですかね。
社会人になると、なんか時間の感覚がおかしくなっちゃうんですけど……まぁ、俺が大学二年だったってことは覚えてるんで、六年前で間違いないです。
俺の通ってた大学って結構山の方にあって、電車で通ってくる奴はいいですけど、俺ほんと家賃の安さと通学の楽さだけで選んじゃったせいで、もう大変……周り何もないですもん。
夜七時で閉まるスーパーが自転車を二十分ぐらい漕いだ先にあって……それ以外はほんと何もなし。買い出しミスったら絶食なんてこともありえましたよ。
まぁ、そんな山ン中だったんで、コンビニが出来た時は泣くほど嬉しかった記憶があります。
夜に酒を買いに行くことになるような事態が頻発するのが大学生っすから、やっぱ補給源は必要ですよ。
あ、話ずれましたね。
まぁ、そんなわけで毎日のようにコンビニに行ってたんですよ。友だちもバイトしてたんで、居心地も良かったし。
その日は雪がすごくて、おでんを買おうと思ってたことははっきり覚えてます。
店内には店長っぽい人と友だちだけがいて、俺以外の客はいませんでした。
その当時はそのコンビニがアニメとコラボしてたかなんかでテレビでもよく聞くような声で、なんかのキャンペーンを宣伝してました。
ただ、店内放送とか真剣に聞かないですからね、俺。
聞き流しながらおでんに合わせるチューハイを真剣に選んでたんですけど、なんか機械の調子がおかしかったのか、なんか店内放送がブツブツって途切れるようになって、まぁ雪すごかったですからね。
そのうち完全に聞こえなくなって……まぁ、そんなこともあるか、ぐらいに思ってたんですけど、五分ぐらい後に再開したんですね。
うわー、復帰早いなって思いながら、カップ麺持ってレジに行きました。
レジ二つあって、片方に店長、片方に友だちがいたんですけど、ずーっと俯いて微動だにしないんですよ、友だち。
店長が笑顔で「こちらのレジにどうぞー」って促してくれるんですけど、いや友だちがなんかそんな状況になってたら、様子見に行きますよ。
で、気づいたんですよ……店内放送、俯いた友だちがずーっと喋ってたんですよ。
店長、人の良さそうな笑顔で「あ、ごめんねー。友だちの方がいいねー」って俯きだして、そしたら店長の方から店内放送聞こえだしたんですよ。
んで、友だち顔を上げて、特に何もない感じで。
「何だ今の!?」って聞きますよ。
「いや、予備だよ予備……店内放送の機械、結構壊れやすくてさぁ……」
そういうことを平然と言ってて、いや怖いですよ……怖いですけど、まぁ無理やりそういうもんなんだって納得させましたよ。
そういうことがあってから数日、その友だち講義に来ないし、LINEの反応も完全に無くなって、しかもコンビニでも見かけない。
住所知ってたんで、病気にでもなったんじゃないかって、友だちんち行きました。
インターホン何度も押しても反応は無くて、ダメ元でドアノブ回したらあっさりドアが開きました。
家の中から店内放送が、聞こえてきたんです。
アイツ、俯いてずーっと店内放送やってました。
――店内放送の機械、結構壊れやすくてさぁ
アイツの言った言葉が今でも忘れられません。
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