第21話 第三の女、あらわる?
恋愛の達人こと
案の定、ふたりの女子がふくれっ
待ちくたびれたわと、言わんばかりだ。
「ごめんごめん、
ちょっと
もう用は済んだから」
平身低頭、ふたりをなだめようとする僕。
まずは屋敷
「まったく、どこに雲隠れしていたの。
わたしたち、もしかしたらホッシーはトモトモのところにいるんじゃないかと思って、放送室まで行ってみたんだから。
そしたらここには来てないって言うじゃない。
もしほかの女子のところに行ってたんだったら、絶対許さないから」
僕はあわてて、否定した。
「いや、それは絶対にないから。
男子の先輩のところだから」
すると今度は国貞
「それは、おかしいわね。
いつのまに友達、増えたのかしら?」
うっ……たしかに、僕には仲真ぐらいしか友達がいないのは事実だが、それを面と向かって言われるのはキツいなぁ。
でも、それにいちいち文句を言ってる場合じゃない。
ここはなんとかうまく誤魔化さないと。
「いやぁ、最近親しくなった先輩がいるんだよ。
仲真のヤツ
スピーチの達人ということで、紹介してもらったんだ。
その人について、喋りの練習をしてるとこなんだよ」
茂手木先輩と仲真を介して知り合ったのは事実だし、言ってること、おおむね間違ってないよね、僕?
「ふーん、そうなの?
じゃあ、いつかその人に会わせて欲しいものだわ」
国貞がちょっと意地悪な笑顔を浮かべながら言う。
「あ、あぁ、そのうちにね」
生返事をする僕。
な、なんか、ヤバいことになりそう。
なんの気なしに言った言葉が、命取り?
僕の額には、脂汗がにじんで来た。
「じゃ、まぁ、そういうことで」
何が「そういうこと」だかよくわからないが、とにかく気持ちを落ち着かせようと、僕はふたりの間に腰をおろした。
当然のように、ふたりが僕にピッタリと身体を寄せて来る。
僕の右側は屋敷、左側は国貞。
僕はまるで2枚の食パンに挟まれた、1枚のハムのようだった。
「じゃあ、始めましょうか」
国貞がそう口火を切ると、ふたりは持参して来た弁当の包みを広げた。
ふたりとも、きょうも実に豪華な弁当を用意していた。
屋敷はばあやさんに作ってもらったのだろうか、和風の幕の内弁当風。
国貞はそれとは対照的に、サンドイッチにサラダの洋風ランチだ。
心なしか、両方とも昨日のよりは量が控えめな感じがする。
それは昨日、僕が2食分の弁当を食べて苦しそうにしていたからかな?
それと、彼氏(と言えるのか?)を太らせちゃまずいという心遣いもあるのかも。
だとすれば、ありがたいことだ。
屋敷は箸を使って、国貞はサンドイッチは手で、交互に僕に「あーん」をさせて来る。
無抵抗で、それを受け入れる僕。
「それにしても」
屋敷が言う。
「わたしたちを30分近く待たせたという罪は、
国貞も同意する。
「そうよ。謝って済むんだったら、警察はいらないわ。
わたしたち両方に、償いをしなさい」
そこでふたりは、まるで示し合わせたかのように、揃って暴挙に出た。
屋敷は左足を、国貞は右足を伸ばして、僕の太
これって、いつかテレビドラマで観たことがある。
キャバ嬢が、馴染みのお客にやっている「サービス」の一種じゃないか?
いかにもジミな印象のふたりが、なんでそんなケバい女たちのやってることを知ってんだ?
とにかく、それまではただの「両手に花」状態だったのが(それはそれで周囲からかなり目立つ図ではあったが)、一気にいかがわしい風景となった。
ヤバい、これは誰にも見せられない。
特にわが妹には教育上、アウトだ。
兄の威信も、当然アウトだ。
「えっ、なにやっているの、ふたりとも……?」
ただただ、オロオロするばかりの僕。
「いいじゃない、このくらい。
それにこれ、相賀くんの償いというより、むしろわたしたちからのご褒美と言えなくない?」
「えっ、そう?
そう言えなくもないけど……」
僕が言葉を濁していると、不意に、
ピイィーーーッ!!!
鋭いホイッスルの音がした。
そう、体育の授業で担当教師がよく使っているアレ、
僕たちは思わず、音がした方向をむいた。
そこには、ホイッスルを口に
こちらを、厳しい表情で
髪型はショート、
よくよく見ると、腕には「風紀委員会」の腕章を着けている。
僕はその子の顔に見覚えはなかったが、制服の三角スカーフの色から判断すると、僕たちと同じ2年生のようだった。
「昨日何人もの生徒から情報が入ったので来てみたら、予想以上にひどいわね、これは。
あなたがた、自分たちがやっていること、分かっている?」
この3人の代表者(?)として僕が何か言わないとまずいかなと思い、口を開こうとしたとたん、国貞がこう答えた。
「わたしたち仲良し2人組は、ともにクラスメートの相賀くんとの友情を深めていたところですわ。
いたって健全な交際ですから、なんの問題もないと思いますが?」
おいおい、いつからふたりは仲良しになったんだ?
「これのどこが、健全な交際だというのよ。
女子のおふたり、足を上げているからスカートから下着が見え隠れしているじゃない。
これを厚顔無恥と言わずして、なんと言うのよ!」
「果たして、そうでしょうか?
あなたには見えてしまうのかもしれませんが、わたしたちには見えていませんから、別に恥ずかしくありませんので。
むしろ、それをわざわざ見ようとするあなたこそ、
国貞はまったく動揺することなく、風紀委員の子に反撃する。
ある意味、すごい。雄々しい。
対する委員嬢は「うっ」と言葉を詰まらせた。
彼女は女子陣を攻めるのは形勢不利と見るや、今度は糾弾の矛先を僕に向けてきた。
「男性のあなたも、あなたです。
どうして、女性ふたりから求められるがままに『あーん』したり、密着されたりしているのですか。
あなたは「断る」ということを、知らないのですか。
それとも、あなた自身がそれを彼女たちに要求しているのかしら?」
僕は、相手の気をなるべく損なわないよう、おどおどとした口調で答えた。
「いや、その、僕はひとの厚意を無に出来ない性格でして、つい……。
どうもすみません」
「ということは、あなたがそういった行動を女性に強いているわけではない、そういうことですね」
「はぁ、そういうことになりますね」
委員嬢はその返事を聞くと、キリッとした表情になった。
「となると、男性には非は無さそうですわね。
分かりました。
女性のおふたり、あなたがたにはこの
今後この学校内、ここ屋上に限らずすべての場所において、異性の生徒とのみだりな接触を控えていただきたい。
この要請を無視して、再び今回同様の行動をなした場合は、風紀委員が実力行使に及ぶこともあります」
実力行使って何?
ちと怖いんですけど。
「もし私のこの処遇に不満があるようでしたら、風紀委員会本体に異議を申し立てていただくしかないですね。
さあ、いかがされますか?」
そう言って、清河はドヤ顔を決めたのだった。
そこまで強気で言われてしまうと、さすがに国貞たちもとことん反抗する気力が失われてしまったようだった。
「とりあえず、ここは素直に従ったほうが賢明のようね、屋敷さん」
「ええ、そのようね」
ふたりはそして、僕の両腿に乗せていた足を下ろし、僕の身体に密着させていた身体を少し離すようにして座り直したのだった。
「よろしい。
そんな感じで結構です。
来週からもまた、私は定期的に校内を巡回してあなたがたを見張りますから、お忘れなく」
そう言うと、清河はこれまでの緊張した表情を解いて、ふんわりとした笑みを浮かべた。
まるで、別人のようだった。
一礼して、彼女は屋上から消えていった。
「一体、なんだったんだ……」
そう
「あの女、余計な真似を……」
国貞もこう言った。
「思わぬ伏兵、登場のようね。
清河澄美だったわね、覚えておくわ」
ふたりはそんな感じで、一気にテンションが低下していた。
一方僕は、これまで持てあまし気味だった屋敷と国貞の過剰サービスが、清河が登場したことで鎮静化したことに正直ホッとしていた。
だが、それはお人好しな僕が、ほんのひとときだけ獲得した、かりそめの平安に過ぎなかった。
この時すでに屋敷と国貞は、清河のそれを上回る知略・謀略を練り始めていたのだから。
もっとも、僕がそれを知るのは、かなり後になってからのことなのだが。(続く)
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