第13話 告白スピーチ・コンテスト
スピーチ部の部室で、新入部員のひとり、
「あら、
奇遇ねぇ。
わたし、きょうたまたま、ここの部員募集ポスターを見て、興味を持ったから入部することにしたのよ。
これから、よろしくね❤️」
んなわきゃねーだろ。
なにが「よろしくね❤️」だ。
僕はしっかり覚えているぞ。
昨日の昼休み、僕は話題があまり多くないものだから、ついつい自分がスピーチ部に所属していることを国貞にしゃべってしまったことを。
それを忘れたとか、健忘症にもほどがあるだろ。
嘘がバレバレだろ。
まさか、昨日の話が原因で国貞にこの部にやって来られるとは、120パーセント思わなんだわ。はぁ(溜息)。
もうひとりの新入部員、
「わたしは前々からスピーチ部の存在は知っていて、興味もあったの。
ほら、わたし放送委員の仕事で、おしゃべりをすることが多いからね。
きょう、クニクニから誘われたんで、入ってみようと思ったのよ」
屋敷も、動機を正直に言わんかい!
僕が入部しているのを知っての行動だろうが。
絶対、
ただ、屋敷が国貞から誘われて、というのは案外と本当のことかもしれん、そうも思った。
あいつら、けさからなんだかいろいろと淑女協定を結んで動いているからな。
「機会均等厳守。抜けがけはダメよ」がモットーらしいからな。
あぁ、これでまたひとつ、校内における僕の
昼休みの屋上に続いて、またひとつ!
しかし、そんな僕のブルーな気分などどこ吹く風、
銀縁メガネを光らせながら、こう言う。
「いやー、気分は最高だなぁ。
部から同好会に落とされそうな状態だったこの部を、きみたちは救ってくれた。
まさに救世主だよ。
なにはともあれ、自己紹介から始めてくれないか、おふたりさん。
自己紹介こそは、スピーチのAであり、Zだからな」
部長に促されて、まずは国貞が自己紹介を始めた。
部室には、僕、部長、新入のふたり以外にもうひとり、2年生の男性部員がいた。
「わたしは国貞淑子と言います。
クラスは2Bで、屋敷さん、
わたしは相賀くんの
部活はこれまでやっていませんでした。
話すのはあまり得意じゃないので、ぜひこの部でスキルを高めたいと思っています。
よろしくお願いします」
拍手がパラパラと起こった。
続いて、屋敷の番。
「わたしは屋敷美禰子と言います。
クラスは2Bで、ホッ……相賀くん、国貞さんと同じです。
わたしは放送委員を務めていますが、よく知ってるひとと話すのは苦にはならないのですが、初対面のひととの会話はどうも苦手なんです。
それから、放送室から話すのはいいんですが、大人数の前だと緊張してしまいます。
それをこの部活動に参加することで克服できたらと思っています。
よろしくお願いします」
こちらにも、拍手が。
宮澤部長が続けた。
「さて、きょうは何をやろうかと考えていたんだが、せっかく新人、それも女性がふたり入ってきたのだから、これまでやらなかったこと、出来なかったことをやろうかと思う。
僕のインスピレーションも、いつになくこんこんと湧いてきたんだ。
僕に降りてきた啓示はこれだ。
きょうは、『愛の告白』をシミュレーションしてみようじゃないか?」
一瞬、その場が凍りついた。
ていうか、僕の頭がフリーズした。
「ええっ、それっていわゆる異性にコクるってヤツ、ですか?」
僕は部長に問い
「しかり」
部長はニヤリと笑った。
このひと、もしかしてわざとやってません?
僕を意識して、これを提案してません?
「ど、どうなんだろ。
こ、これってちょっと微妙な案件で、ハラスメントマターっぽいんですけど、女性の皆さん、本当に構いませんか?」
僕がしどろもどろに女性陣に尋ねると、国貞も屋敷も「大丈夫です」「ぜんぜん」という返事。
まるで意にも介さない様子だ。
結局、部長の提案は問題なく承認ということになった。
部長が言う。
「では、あなたがたそれぞれの、一番好きなかたを心に思い浮かべながら、愛の告白をしてください」
僕がそれに再度ツッコむ。
「えっ、今すぐにやるんですか?
せめて、原稿をじっくり練ってからのほうが……」
部長は頑としてこう答えた。
「相賀くん、僕は常日頃きみたちに言っているだろう。
僕たちがやっているのは弁論ではなく、スピーチ。
スピーチとは当意即妙こそ命。
アドリブこそ命。
『振り』を受けて即座に組み立て、その場で話すことこそ、スピーチにもっとも求められていることなのだよ。
だから、今やりましょう、ただちに」
このひとの怒涛のごとき説法を前にしては、僕に反論の余地など1ミリもないのだった、オーマイガッ!
「では一番最初は、新入部員の国貞さんでよろしいですか?」
いちおう、そのあたりは紳士的に確認するんですな、部長さん。
「は、はい。ふつつかなわたしですが、トップを務めさせていただきます。
コホン」
国貞が立ち上がり、咳払いをひとつすると、そこは告白の舞台に一変したのだった。
少し目を伏せて、神妙な面持ちで語り始める国貞。
「ごめんなさい、突然こんなところに呼び出したりして。
わたしが何を言い出すか、とても不安に思っていることでしょうね。
実はわたし自身、これからあなたに伝えることを、果たして言っていいのかどうか、とても悩みました。
何日も、何日も。
でも、言わなければ、言葉にしなければわたしの考えていることはあなたに伝わらない。
そういうことに気がつきました。
だから、今、この場であなたに伝えます。
あなたのことが好きです。
ほかの誰よりも。
それもずっと昔、一年も前から好きでした。
本当に好きでした。
でも、これまではあなたの気持ちが別のひとに向かっていることを知っていました。
わたしよりずっと綺麗で、華のあるひとに。
だから、わたしは自分の気持ちを伝えられずにいました。
ずっと、あきらめていたのです。
でもわたしは、つい先日、あなたがそのひとに求愛したものの、受け入れられなかったという事実を知ってしまいました。
あぁ、何という好機でしょう。
わたしはあなたに告白したくて、たまらなくなりました。
でも、ここで待ってましたとばかり愛の告白をするなんて、あなたの辛い状況につけ込むような、いやしい行為なんじゃないのか。
そう真剣に悩みました。
でも、それでもやはり、あなたへの強い想いを断ち切ることは不可能でした。
だから、お願いします。
どうか、わたしの想い、受け止めてください。
わたしを好きになってください」
そこで、国貞の声は途切れた。
そして、すっと黒縁メガネを外した。
どうやら、涙ぐんでいるらしく、彼女は
そして再びメガネを着けて前を向き、一礼した。
「失礼しました」
周囲の4人は
「素晴らしい。実に見事なスピーチだった。
真に迫るとは、このことだな」
部長はそう言って褒め讃えた。
が、僕の耳には「スピーチ」には聞こえなかった。
これはやはり、マジモンの「告白」じゃないのかよ。
それも、他ならぬ僕に向けての……。
本音を言うならば「お願い、聞いているとメンタルに来るから、もうこれ以上続けないで!」だったが、部長は無情にもこう言った。
「それでは、次は屋敷さん、お願いできるかな?」
屋敷は「はい」と答えて、立ち上がった。
相変わらず、長い前髪でその表情はよく分からない。
が、口元を見るに、少し震えているような気がする。
緊張でガチガチ、なのかもしれない。
屋敷の「スピーチ」が始まった。
「わざわざ、来てくれて、ありがとうね。
もしかしたら来てくれないんじゃないかって、思ってたんだ。
うれしいよ。
ホッ……あんたと知り合って2か月くらいになるのかな。
わたしたち、これまであまり話したこともないよね。
そう。2、3回、短いやり取りをしたぐらいかもしれない。
だから、あんたにとってわたしは、ただの知り合いに過ぎないんだろうなって思う。
どうでもいい、ちっぽけな存在なんだろうなって思う。
でもわたしは、あんたのことはほかの友人を介して、いろいろ聞いていた。
そのひととなりも、よく知っていたつもり。
だから、あんたとほとんど話をしたことがなくても、自然と好きになっていた。
だけど、同時に大きな障害があることも知っていた。
あの、あんたが一番好きな、とても綺麗なひとのこと。
彼女にはわたしは到底かなわない。
容姿にしても、才能にしても。
何ひとつ、勝てるポイントが見つからない。
でも、ひとつだけはあることに、最近ようやく気づいたんだ。
あんたのことを本当に好きだってこと。
それが彼女にはなくて、わたしにはある。
そのことを確かめられたので、わたしは賭けをしてみたいと思ったんだ。
あんたに、わたしの本当の気持ちをぶつけてみるという賭けに。
あんたが好きです。
あんたの一番大切なひとになりたいんです。
どうかわたしを彼女にしてください」
そう言って、屋敷は頭を下げた。
一瞬の沈黙の後、拍手が沸き起こった。
部長は言った。
「屋敷さんも、とても素晴らしいスピーチだったな。
感動した。
まるで、本番の告白のようだったよ」
部長さん、分かってててわざとそう言っているのでしょうか?
それとも天然?
ふたりの女子のマジな「告白」攻撃を食らって、HPは完全にゼロとなった僕なのだった。(続く)
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