第32話 32、ゾーア人の世界支配
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ゾーア人の動きは鈍かった。
ゾーア国への攻撃を止めさせるためにケルト国を無条件降伏させたのだったが、ゾーア国内にはケルト国を統治させるだけの力量を持った人物はいなかった。
ケルト国から見ればゾーア国は小さな発展途上国だった。
ケルト語を自由に話せる者もいなかったし、ゾーア語を話すケルト人もいなかった。
ゾーア国の都市ではケルト人はケルト語で奴隷達に命令を下していたのだが、ゾーア人の奴隷達はわからないケルト語を推測して仕事をしていた状態だった。
もともと奴隷の仕事とはそう言うものだ。
言葉はいらない。
ズーは神様にケルト国の執政官となってくれる様に懇願した。
相手があまりに簡単に無条件降伏をしてしまったので準備が整わなかったのだ。
このままでは降伏した相手に馬鹿にされることになる。
それだけはゾーア国の矜持にかけて避けたかった。
修一はズーの気持ちが解ったのでケルト国の執政官としてケルト国に行くことを受入れた。
修一達はケルト国への2週間の船の旅を楽しんだ。
甲板に出て鉄砲の標的射撃を楽しみ、船員の一人を引き抜いて毎日の3時のお茶に招いて会話を楽しんだ。
修一は鹵獲した一番大きな軍艦に百名のゾーア人と共に乗船していた。
50名が兵士で50人が技官や文官だった。
操船は当該軍艦に乗っていたケルト人の海軍軍人であった。
ゾーア人とケルト人は互いの言葉が全くわからなかったので修一は毎日のように会話教室を開かせた。
会話教室はゾーア人がケルト語を学ぶという形式で、通訳機を頭に載せた蓮が会話の糸口を着けた。
軍艦はケルト国の都に最も近い港に入ったが修一は上陸しなかった。
修一はケルト国が派遣する応接使節を軍艦で待った。
軍艦のような限られた乗員の間では修一は安全だった。
千は良からぬ心を持つ者を容易に見出すことができたからだ。
上陸して敵対心を持つ不特定な人達の間にいることは危険だった。
鉄砲で頭を射たれたら修一は死んでしまう。
例え千が怒ってケルト国を、あるいはゾーア星を消してしまったとしても修一は戻らない。
ケルト国の応接団は軍艦が港に入って2日後に軍艦に乗り込んで来た。
多数の黒塗りの自動車を連ねて港に入って来た。
修一は甲板にテーブルを出させ、そこで応接団と面会した。
「私はゾーア国からケルト国の執政官として派遣された修一という。代表は前に出て話せ。」
テーブルの前に整列していた20人の一人が進み出て頭を下げた。
「私はケルト国の中央政府から派遣された応接団の代表のケンと申します。降伏条件について話し合うために参りました。」
「そうか。ケルト国は無条件降伏したと聞いていたが降伏条件を話し合わねばならないのか。」
「いいえ、ケルト国はゾーア国の無条件降伏を受諾致しました。その上で今後の取り扱いを相談しようと参ったわけでございます。」
「そうか。無条件降伏の意味する事柄がケルト国とゾーア国では異なると申すのだな。」
「左様でございます。」
「分った。それなら仕方が無いな。同じ言葉でも意味が違うことは良くあることだ。そち達は暫く船上ですごせ。私はその間に無条件降伏の意味が同じになるように努力する。今日の会談は終わる。衛兵、彼らを部屋に丁重にご案内せよ。ケン、そちはここに留まれ。聞きたいことがある。」
応接団が甲板からいなくなると修一はフライヤーを上空から呼び寄せ甲板上20㎝に浮遊させドームを開けた。
「ケンさん、これは私の乗物です。乗って下さい。千、甲板にある椅子を入れて。」
「了解しました、修一様。」
修一と千と蓮とケンがフライヤーに入るとドームが閉まり甲板で吹いていた海風の音が止んだ。
「今からケルト国の都に行きます。都を少し破壊しなければなりません。残しておきたい建物を教えて下さい。」
「これは何ですか。空に浮いている。」
「フライヤーと呼んでいます。ケルト国の自動車と同じです。首都は南でしたね。」
15分も経たないうちにフライヤーはケルト国の首都に到着した。
「首都ですね。懐かしい賭博場もあります。賭博場から前方の山にかけて消そうと思います。この方向に重要な建物はありますか。」
「今。消すとおっしゃったのですか。そんなこと。まさか。」
「無条件降伏の意味を合致させるためです。千、千はボタンを押してはいけません。私が押します。死んだ人々には私が責任をとります。なるべく被害を少なくします。」
修一はフライヤーを賭博場の数ブロック先の道路近くに降ろし、最大出力、小拡散に設定してからガラスパネルに描かれた分子分解砲のボタンを押した。
音は聞こえなかったが、フライヤーから扇状に道路がえぐれ、それは山にまで達した。
山の山頂は無くなり巨大な半円状の谷となった。
「ケンさん、今日はこれで終わりです。数日続いたら首都の周囲の山は平原になります。そうなったらケルト国とゾーア国の無条件降伏の意味は同じになるかもしれません。」
「なんて恐ろしい。町も山も一直線に消えた。」
「軍艦にある大砲と目的は同じです。人を殺し、物を壊す。違いはありません。ケルト国とゾーア国の無条件降伏みたいです。程度の違いだけの問題です。」
フライヤーは軍艦に戻り、修一達が降りた後は上空に消えた。
「ケンさん。少し話をしませんか。クルコルでも飲みましょう。千、今でも軍艦でクルコルが飲めるのかい。」
「はい、大丈夫です、修一様。大量に保存してありますからただいまお持ちします。」
千が白磁のカップとポットとテーブルクロスを抱えて持って来て、カップとポットを空中に浮遊させておきながらテーブルにクロスを張った。
カップとポットは空中を移動してテーブルに置かれた。
ケンはあっけにとられて千の美しい顔を見つめ、千はケンに微笑んでポットの茶色のクルコルを白磁のカップに注いだ。
「ケンさんクルコルを飲んでみて下さい。コーヒーとも言われております。ケルト国では何と呼ぶのですか。」
ケンは修一が飲む前に飲んだ。
「おいしいと感じます。この飲み物はケルト国にはありません。」
「そうでしたか。植物の種から作るのです。暖かい国で栽培出来ます。流通が盛んになれば世界に広まりますね。」
「そう思います。ほんとにおいしい。」
「ケンさん、ケルト国の政治形態を教えて下さい。」
「はい、ケルト国は議員内閣制です。国民から選挙で選ばれた代議員の衆意で国の方針が決まります。司法は行政からは独立しており、行政と国民が作った法律に基づいて裁判官の考えで判断を下します。」
「軍と属国と植民地はどうなっていますか。」
「軍は内閣に属します。属国は独立が認められておりますが多額のお金をケルト国に貢(みつ)がなければなりません。植民地は行政の管轄で植民地の住民は奴隷となり生きるだけの生活を送らなければなりません。」
「ケルト国の威勢は世界のどの範囲に及んでおりますか。」
「この星の全ての地に及んでおります。もちろん人が住んでいない地は手付かずです。」
「それならケルト国は世界を支配しているのですか。」
「その通りです。ですから今回のゾーア国の反乱は驚きでした。名も知らないような小さな国で、あり得ないことが起りましたから。」
「なるほど。だから無条件降伏の意味が違ったんですね。政府はまだ半信半疑なんだ。」
「そうです。私もそうでした。でも今は違います。」
「あと何回消したら政府は本気になると思いますか。」
「もう消さないでほしいと思います。修一様が行えば政府も議員も首都の人民も全て一瞬で消えます。そうなれば世界は大混乱に陥ります。収拾がつきません。」
「面倒なことになりますね。どうしたらいいと思いますか。」
「私達を一旦首都に帰して下さい。起ったことと予想されることを首相に話します。早晩無条件降伏の意味が一致するようになると思います。だれも消されたくはありませんから。」
「暫く首都を消すのは止めましょう。早い方がいいでしょう。今から応接団は下船して首都に戻って報告して下さい。首相には首都に住む多数の人々を殺してしまったことを悔いていると伝えて下さい。」
「早速行動しようと思います、修一様。」
「自信を持ち過ぎている議員を黙らせるためのおまじないを首都の上空に浮かべておきます。だれも反対しようとは思わなくなるおまじないです。」
ケルト国の応接団は下船し、車列を連ねて全速力で首都に戻って行った。
修一は宇宙船G13号を首都の中央の上空200mに浮遊させた。
宇宙船G13号は直径300mの球体で二方が平らになっているとは言え偉容を誇った。
宇宙船の下は暗くなり都市のだれでも無言の圧力を感じた。
そんな中で応接団は首都に到着し、団長のケンは首相に経験したことを報告した。
首相は「にわかには信じられない」と言ったが頭上に覆う巨大な宇宙船と首相庁舎からも見える半円形に抉(えぐ)られた山の端を窓から眺め「だが、信じざるを得ない」と嘆息した。
数日後、新しい応接団が軍艦に乗り込んで来た。
団長はケルト国の首相で多くの閣僚が加わっていた。
修一は前と同じように甲板にテーブルを出し応接団を迎えた。
「団長は椅子に座って下さい。他の方は立っていて下さい。すぐ済むはずです。私はケルト国の執政官として派遣された修一と言います。団長は身分と名前を言いなさい。」
一人の壮年の男が前に出て椅子に掛けて言った。
「私はケルト国の首相のケトと言い応接団の団長です。」
「ケトさん、以前の応接団とは無条件降伏の意味において認識の相違がありました。両国で意味が異なっていたのです。無条件降伏の意味を合致させるため首都の一部を消させてもらったのですが今は少し悔やんでおります。ここに首相自らが来たと言うことは意味の合致には至ったのでしょうか。」
「はい、無条件降伏の意味はゾーア国での意味と同じになったと思います。私はケルト国執政官である修一様の命令を承るためにここに参りました。」
「ありがとう、ケトさん。そう言っていただくとスムースに事が進みます。最初に私の住む場所を作って下さい。あなたのいる庁舎の後ろ辺りがいいですね。半径500mの円形の平地の敷地で一面に芝生を敷いて下さい。家屋の位置と構造は後ほど示します。とりあえずその場所にある建物から必要な物を全て移動させて下さい。一週間で済ませて下さい。整地には協力します。数秒で建物も道路も更地にできます。後の命令はその場所から行います。分りましたか。」
「ご命令、確かに承りました。全力で行います。直ぐさま首都に戻り準備したいと思います。連絡員としてケンを残しておこうと思います。それでよろしいでしょうか。」
「了解。」
応接団はそそくさと帰っていった。
ケンは港に仮の住居を定め、毎日のように軍艦を訪れ修一と一日中話し合った。
修一はケルト国の詳細を知らねばならなかった。
ケルト国を支配するためであった。
そしてそれは世界を支配することでもあった。
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