第31話 31、熱気球での攻撃 

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 ズーは都市が落着きを取り戻した晴れた日、神様と会った丘の端の崖に行き、大きな焚き火を焚き多量の煙を出させた。

空で見ている神様に知らせるためであった。

1時間ほど焚き火を続けるとフライヤーが上空から降りて崖の前の空中に止まった。

「ズーか。何用か。」

「お礼を言うために御呼びしました。それとお教えを乞うためにも火を焚きました。」

「礼はいらない。何を聴きたい。」

 「それでも私は感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。神様にお教えを乞いたいのは今後のこの国のありようです。ケルト人は属国の兵士と共に攻め入って来ることは必定です。ケルト陸軍に対してはあの素晴らしい神経銃があれば勝利できると思います。問題は鉄板を張った軍艦です。神経銃は軍艦のような金属で囲まれた物には威力を発揮しませんでした。」

「そうだろうな。」

「どのように撃退すればいいのでしょうか。」

「千はどう思う。」

 「修一様、ホムスク帝国始皇帝の周平様の兵器を利用したらどうでしょうか。」

「周平始皇帝がお使いになった兵器は気球か。空を飛べる機械がないこの星では有効かもしれないな。でも自動車が出来ているのだから飛行機もすぐにできる。」

「この戦いは過渡的一時的なものだと思われます。熱気球の見本を一台作って差し上げれば戦いに使えますし類似品を作ることも容易です。燃料は原子電池一個で間に合います。」

「そうだね。ズー、お前達に空に浮かぶことが出来る乗物を一台与える。熱気球という名前だ。その一台で上空から軍艦を攻撃したらいい。それが終わったら似たような物を作ってこの星の空を制したらいい。」

 「どんなものか想像できませんが空を飛べるとは夢のようです。」

「簡単な理屈だ。そこの焚き火の煙は上に登っている。熱い空気は軽いからだ。だから熱い空気を集めれば人も持ち上げることができる。」

「なるほど、思いもつきませんでした。」

「ケルト国では電気が使われ、自動車も走っている。やがて熱気球を越える飛行機が作られることになる。熱気球など一時的なものだ。ゾーア国はケルト国を平定したらケルト国の科学技術を出来る限り取り入れ、学び、ケルト国を越えなければならない。それ以外にゾーア国の生き残る術(すべ)は無い。」

「骨に刻んでおきます。神様。」

「明後日、ここに来い。それまでに熱気球を作っておく。」

 2日後の昼過ぎ、ズー達が崖で待っていると上空からフライヤーと熱気球がゆっくり降りて来た。

熱気球には通訳機のヘッドフォンを着けた蓮が乗っており、籠の横には空中に浮いたロボットが蓮を見守っていた。

ゾー達はフライヤーよりも熱気球を見つめていた。

フライヤーはいつもの位置に止まり熱気球はその横に少し流れながらも停止した。

フライヤーは黒い球皮で籐のゴンドラが付いていた。

ゴンドラからは四本の柱が立っており柱の上部には上に開いたバーナーとその周囲に並進用の旋回型のジェット吹き出し口が付いていた。

 フライヤーのドームを開き、修一はズーに向かって言った。

「ズー、熱気球を持って来た。乗っているのは蓮と言う。籠の横に浮かんでいるのはロボットだ。蓮を護っている。今から熱気球の操縦法を蓮が教える。ズーを含め三名がゴンドラに乗れ。今そちらに近づく。近づいたらゴンドラを掴んで固定せよ。よいか。」

「分りました。近づいたら籠を掴みます。」

「蓮さん、ズー達の方に移動して。」

「了解、修一様。」

 ゴンドラは崖の奥の草原で止まりズー達はあわててゴンドラを追いかけてつかまえた。

「私は蓮と申します。ゴンドラの掛けがねを外して三人乗って下さい。それ以上は重量超過です。入ったら掛けがねを必ずかけてくださいね。」

ズー達はゴンドラに入って掛けがねをかけた。

「それでは上昇します。ゴンドラの周囲にある手すりを必ず掴んでいて下さい。落ちたら死にます。手すりに結んである紐を腰に巻いておくのもいいと思います。上昇するには天井真ん中にある棒を上に押します。上にするほど熱い空気が吹き出して早くあがります。」

熱気球はかなりの速度で上昇して行った。

 「上昇を止めるのは棒を中間辺りで止めれば浮かんでいます。どこで止まるのかは実際に動かして知って下さい。高さによっても違いますから。ここまではいいですか。」

「はい、上下は中央の棒です。」

「横に進みたい時は天井の輪に付いたつまみを進む方向に向けてつまみを引きます。引いた分だけ早く進みます。でも早く進みすぎるとゴンドラが先に進んで危険ですから横に進む時には気球が横にならないようにゆっくり進んで下さい。ここまではいいですか。」

「はい、横は輪のつまみを少し引くです。」

「いいですよ。操縦法はそれだけです。今から少し移動します。下で待っているお仲間にはここで待つように命じて下さい。ここに戻って来ます。」

 熱気球は一旦下がってズーが伝言を伝えた後に上昇を開始した。

フライヤーはしばらく熱気球に並走したが、町に近づくと高空に消えた。

熱気球は千mの高度で畑を越えて町を越え港に出てから海岸線に沿って移動した。

下に人の姿が見えなくなると蓮はズーに熱気球の運転をさせた。

ズーは山に入ると熱気球を自在に操った。

「いいですよ。ここからが問題です。元の崖まで下の人に気付かれずに戻って下さい。できますか。」

「やってみます。蓮様。」

 ズーは賢かった。

熱気球を上昇させ、見覚えのある山間の高原を見つけ、一直線に崖に向かい、崖の奥の草原の上で停止させた。

「いいですよ。お上手です。運転を代ります。着陸を教えます。着陸するにはその場所に着いたらゴンドラの隅に置いてある錨を外に落として下さい。土が柔らかければ土に刺さるし硬ければ横に倒れて錨になります。落として。」

「次に上下の棒を止まるまで下げるとゴンドラはゆっくり下がります。そのままでは気球がゴンドラを覆ってしまいますから横方向にゴンドラを少し移動させてから止めます。ゴンドラは地面に降りて気球はその横に降ります。わかりましたか。」

「分りました、蓮様。」

「この状態から動かすのは中央のノブを引くだけで気球は広がり浮き上がります。気球が畳んであったら広げてから始動してください。気球の表皮は薄く軽いので気をつけて扱って下さい。」

「分りました、蓮様。」

 いつの間にかフライヤーが崖の先に浮いていた。

「ズー、うまく操縦できたようだな。蓮さん、フライヤーに戻って。ロボットも。その熱気球の燃料は原子電池だ。神経銃と同じように少なくともお前が生きている間は燃料は尽きない。この星ではまだ当分作れない。だが見た通り機構は簡単だから同じような物を作ることができる。そんな時は灯油を急速に燃やすバーナーとプロペラを付けたらいい。」

「ありがとうございます。神様。」

「ケルト人が攻め込んで来るまで熱気球の存在は秘密にしておいた方がいい。楽に勝てる。熱気球を多量に作って部隊を作ってもいい。だがやがて自動車で使っているエンジンを使った飛行機ができる。ケルト人の科学技術を軍事技術に取り入れよ。」

「そう致します。神様。」

「見ている。」

フライヤーは上空に消えた。

 ゾーア国からの連絡が絶えたケルト国は何人も使者を立てたが一人も帰って来なかった。状況を知るためにケルト国は数ヶ月後に大艦隊を率いて攻めて来た。

ゾーア国は相手に一発の大砲を射たせることなく一隻も洩らさず全てを捕獲した。

ケルト国の艦隊は上空に浮かんで哨戒していた熱気球に早期に発見されていた。

神経銃を持った二名の兵士と操縦士が乗った熱気球は艦隊の上空に飛んで行き、軍艦に向かって神経銃を念入りに照射した。

一隻一隻と順番に照射していったが、大きな音も出なく叫び声も出なかったので周囲の軍艦は自分たちが攻撃されるまでは全く気付かなかった。

全艦に照射し終わると港から多くの船が出て来て、ゾーア国兵士は戦艦によじ登り船を捕獲した。

 艦隊の情報が入って来ないケルト国はさらに大きな大艦隊を送り出したがその艦隊も全て戻って来なかった。

この艦隊は用心のため最初に数隻を偵察に送り出したが偵察艦は港に近づく前に神経銃の掃射を受け、多数の小舟に囲まれ港に連れて行かれた。

沖合に停泊していた大艦隊は沖の方から順に連絡が取れなくなり、乗組員がそれに気が付いた時には全身に痛みが走り、痙攣して失神していた。

 三回目の艦隊はさらに用心した。

ゾーア国の北の端に陸戦隊を上陸させ、陸戦隊を援護する形でゆっくり南下した。

陸戦隊が国境を越えると、大艦隊はその動きを止め陸戦隊は一人の敵も発見できない状態で失神し、1時間後に現場に到着した兵によって捕虜にされた。

大艦隊も漂流中、ゾーア国に奪われたケルト国の軍艦によって拿捕され曳航されて行った。

 ケルト国は四度目の艦隊を送ることはなかった。

情報も全く入って来なかったし軍艦の余裕もなくなった。

代りに大量のスパイを送り込むと、ゾーア国では情報統制がほとんどなく情報は容易に得られることがわかった。

ゾーア国はケルト国にとっては取るに足らない国であったのでゾーア語を話すことができる情報員はほとんどいなかった。

話す事ができない不具者にもなれるし、隣国の出身者となってもよかった。

ケルト語は世界に通じる言葉だったのでおぼつかないケルト語を話しても怪しまれることはなかった。

どの情報員も「ゾーア国には神がいる」との情報を送って来た。

 数人の情報員からの情報であったら一笑に付す情報であったが全員から同じような情報であるならそれは真実である。

情報員は一般人より賢く疑り深い。

全てのケルト軍の軍艦は大きな港にひしめいて停泊しているとの情報も入って来た。

 そんな状況下でケルト国はゾーア国から一通の宣戦布告状を受けた。

ゾーア国の首都で奴隷となっていた元ケルト国高官が解放を条件にケルト国に届けたのだった。

大艦隊の鹵獲から一年後のことだった。

宣戦布告状には無条件降伏をしない限り国土を消滅させると記されていた。

ケルト国にとっては一笑にふす要求だった。

しかしながら布告状を持って来た元高官が目に見えない恐ろしい武器でケルト国の大艦隊が三度も無傷で鹵獲されたことを語ると、真剣に対応を検討するようになった。

 布告状が届いた一週間後のそんな時、ケルト国の首都の横の山と野原が一夜で消えて、深50mの窪地になった。

人的被害はほとんどなかったが、穴の形と面積は首都と全く同じであった。

ケルト国は一週間後にゾーア国にとりあえずの無条件降伏をした

山や野原を一夜で窪地にできるような力に対抗できるはずがなかった。

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