第30話 30、ゾーア国の反撃
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「千、どんな銃がいいのだろうね。機関銃だろうか。」
搭載艇に戻って修一は千に聞いた。
「ゾーア国には機械産業がありませんから例え機関銃と弾を与えても弾の供給が出来ません。機関銃は簡単に想像できます。もうケルト国ではできているかもしれません。神からの贈り物ですからこの世界では作れない物でもいいと思います。不思議ですね。私のメモリーバンクの中に銃の設計図が入っております。『神経銃』との表題があります。私の制作者は宇宙船G13号の未来が見えていたようです。『神経銃』は『通訳ヘッドフォン』と『超空間通信機』と並びで入っております。」
「どんな銃なのだい。」
「ちょっと待って下さい。分子分解銃と同じような原理です。γ線ではなくマイクロ波に変調波を三つほど乗せております。効果は神経組織を持っている動物です。神経に電流が流れ、癲癇(テンカン)状態になるみたいですね。痛そうですね。」
「死なないでしばらく動かなくなるんだな。あのリーダーの人間性には合っている。」
「それにこの銃の電波は反射や拡散をするようです。狙いをつける必要がなく、隠れた相手にだって回り込んで当るようです。」
「兵士でない一般人向きってことだね。それを百丁作ろう。」
「この搭載艇ではできません。修一様。宇宙船でしかできません。」
「宇宙船に戻ろう。そろそろ心配になったし、ゾーア星の衛星軌道に乗せるか重力遮断を使って上空に止めておこう。」
「了解。宇宙船はこの星の近くにまで来ているはずです。少しうっかりしておりました。もう一ヶ月経ってますよね。」
「ギリギリさ。」
搭載艇は無事に宇宙船に入ることができた。
もう少し遅かったらゾーア星に突入するところだった。
「私はロボットなのにドジですね。母船のことを失念しておりました。」
「それは千が人間に近いからだと思う。ロボットなのにときどきワクワクするだろ。」
「そうでした。」
「千は僕の相棒さ。」
「ありがとうございます。修一様。」
百丁の神経銃は宇宙船の工場で容易に作製できた。
銃のエネルギーには小さな原子電池が一個入っている。
普通に使っていたら1万年以上使うことができる。
そしてゾーア星で複製するのは当分難しい。
晴れた日の夕刻、修一と千はフライヤーでゾーア人集落の崖の上に降りて来た。
崖の端にはズーと四人の男が待っていた。
この前に会ってから五日も経っている。
五人は毎日の夕方にこの崖に立つことを習慣にしたらしい。
「ズー、毎日待っておったのか。」
修一はフライヤーのドームを開いてから言った。
「はい、しばらく待っておりました。」
「銃を持って来た。20丁だ。使い方に慣れたら残りを与える。使い方は簡単だ。相手の方向に向けて引き金を引くだけでよい。弾は出ない。ラジオ放送のような電波が出る。相手は痛くてしばらく動けない。動物でも鳥でも同じだ。電波は拡散するから狙いはいい加減でもいい。相手が隠れていても電波は反射したり曲がり込んだりするから相手に当る。注意しなければならないのは反射した電波が自分に当ることだ。痛いはずだ。そうならないように気をつけなければならない。威力を見せよう。さてっと。夕方だから向こうにカラスの群れが山の方に移動しているのが見えるだろう。見ていろ。上手く行くかな。」
修一が上空のカラスの群れに銃を向けて引き金を引くと、カラスの集団の中央部分を飛んでいたカラスが墜落し集団には穴が生じた。
「ワシも今初めて射った。カラスの集団にはなかなか効果的なようだ。距離も何とか使えるようだな。」
「凄い威力だと思います。」
「そうか。銃のエネルギーは気にしなくてもいい。お前達が毎日使っても死ぬまで使えるはずだ。戦争に使ったら千年くらいは持つはずだ。その頃には自分たちで作ることも出来るようになるだろう。とにかくこの20丁で町を奪還するがいい。千、運んで。」
フライヤーに積まれていた20丁の銃は静かに持ち上げられ移動して男達の脚元の岩の上に静かに置かれた。
「この銃なら一撃では人は死なない。連続照射すれば死ぬかもしれない。とにかく試したのは今日がはじめてだからな。敵はゾーア人に交じっているのだろう。ゾーア人を盾にしているかもしれない。普通の銃ではゾーア人を殺してしまうがこの銃ならとりあえず全員を動かなくさせてから敵だけを捕まえることができる。便利だ。」
「そう思います。早速使ってみます。」
「うむ。上から見ている。それから結索バンドもあげよう。本当は手錠がいいんだが、作るのが面倒だった。その結索バンドは刃物で簡単に切れるが引きちぎるのは難しい。」
数日後、都市の奪還作戦が始まった。
広大な耕作地の端から十名ほどが一つのグループを作り一列になって隠れながら町に向かってゆっくり進んだ。
最初に馬に乗った見張りの姿を見つけると遠くから神経銃を射った。
見張りと馬は同時に崩れ落ちて地面で痙攣した。
辺りにいた白い衣服を着けた奴隷も倒れた。
グループは見張りを後ろ手に縛り上げ、一緒に倒れた奴隷を介抱した。
介抱と言ってもただ見ているだけしかできなかった。
グループは時々神経銃を発射しながら見張りに近づき、近くに行くと見張りに連続照射して見張りを殺した。
意地悪で憎い見張りの一人だったからだ。
神経銃の発射音は全くなかったし、神経銃で射たれた人間はあらゆる神経に信号が走り、うめき声も出すことができなかった。
広大な耕作地を制圧したグループは道路に出て海岸沿いから道路までの地帯を制圧して行った。
建物があったら先ず遠くから神経銃を発射した。
一応物陰に隠れながら神経銃を発射したが、相手からの反撃はなかった。
建物に入ると全員が痙攣して苦しんでいた。
男も女も衣服で首を覆ってから頸動脈を切った。
何の憐憫も持ってはならなかった。
遁れる者がいたら味方に重大な損害をもたらす可能性がある。
道路の途中には検問所があり、多数の護衛の兵士が護っていた。
奪還グループは検問所が見えるところに出ると先ず神経銃を発射した。
一グループが神経銃を発射しながら検問所に近づき、何の応射も無いことを確認して検問所の中に入りさらに辺りを掃射した。
残念なことに神経銃の銃口がずっと遠くで待っていたグループの一部に当り、数人が痙攣を始め倒れ込んだ。
そのグループの何人かは神経銃の痛さを実感し、検問所に入ったグループは軽率さを皆から非難された。
奪還グループは町に入ると最初に警察署を襲った。
周囲を神経銃で掃射し、辺りが静かになると物陰から遠くの警察署に向けて神経銃を集中的に射ち始めた。
警察署からは何の応射もなかった。
検問所と同じように一グループが辺りに神経銃の掃射を行いながら警察署に入り、署内で掃射を続けた。
警察署の全員が死んでいた。
男も女も、そして捕われていたゾーア国民もだった。
神経銃の過度の神経刺激で心臓も機能を保てなかったようだった。
神経銃は人も殺せる武器だった。
武器庫が開かれ都市奪還グループのメンバーは高性能な銃で武装した。
次の目標の行政庁は警察署から2ブロック先にあった。
警察署に一グループを残し、その他のグループは道路に出て、周囲を掃射しながら行政庁に向かった。
行政庁の一ブロック前から神経銃を集中的に連続照射してから庁舎内に入り、入口で庁舎内を掃射した。
庁舎内の大部分の人間は死んでいたが市長は生きていた。
市長室はシールドルームになっていたのだろう。
入口のドアを開けたまま痙攣していた。
この頃になると山あいの集落から多数の増援が呼ばれていた。
神経銃のあまりの威力に多数の人間が痙攣しており、拘束がグループには負担になっていたからだった。
ズーとその護衛達も警察署に入って奪還グループに指示を与えた。
都市内の制圧は一日で終わった。
先ず神経銃で掃射し、動きが無くなると家に入り住民を拘束した。
拘束された人間は荷馬車で奴隷小屋に運び、白服の奴隷に銃を渡して管理させた。
ズーは奪還グループの一部を港に向け全ての船を占領するよう命じた。
奪還グループは港に目立たないように着くと物陰から神経銃を船に向けて照射した。
遠くの沖に停泊していた船にも照射した。
念を入れた連続照射であったので奪還グループが船に乗り込んだ時には全員が死んでいた。
港では多くのゾーア国民も死んだ。
港湾荷役を行っていた奴隷も海に落ちたり船員と共に心臓が止まったりして死んでいた。
新しく奴隷となったケルト人の最初の仕事は死体の処理であった。
都市に散乱する多数の死体を荷馬車で運び山の裾野に並べた。
大きな深く長い穴を掘り、死体の衣服を剥いでから投げ込んでいった。
男も女も子供も一緒だった。
腐敗が始まっていないので処理は容易だった。
奴隷達は涙を流しながら傷の無い裸体を穴に投げ込んでいった。
中には知り合いもあったのだろう。
死体の衣服を剥ぐことを拒否した奴隷もいた。
その者は頭を射たれ、衣服を剥がれる事無く穴に投げ込まれた。
血で汚れた衣服は不要だった。
最初、遺体は小屋に入れて焼却する予定であったが、遺体の数があまりに多かったので土に埋める事になった。
ゾーア人の遺体は火葬された。
海に落ちた遺体は引き上げられ木造船の一つに積み上げられた。
船で死んだケルト人も衣服を剥がされてから同じ木造船に積み上げられた。
木造船は沖合まで運ばれ、遺体のまわりに木造船の木板が積み上げられ、火が着けられた。
白色の粗末な衣服しか与えられなかったゾーア人の奴隷にとって最も必要な物は衣服であった。
死体から剥ぎ取った衣服は洗濯され、ゾーア人に配られた。
ゾーア国の奴隷は元々ゾーア国民で、各々が仕事を持っていた。
都市の施設のほとんどは彼らが作った物だった。
以前の仕事に着くことは容易であったし、新人を指導することもできた。
ゾーア国は国を取り戻した。
わずか十万ほどの国民人口で多数のケルト人奴隷のいる国となった。
あとは奴隷として外国に送られた多数の国民を取り戻せばよかった。
そしてそれは難しかった。
そしてケルト人との戦いは避けられないものとなった。
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