第29話 29、奴隷国の反乱
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搭載艇で辺りを偵察すると山を二つ越えた平原に大集落があった。
山からの水が湧いている池があり、池から流れ出る小川の周辺には多くの女達が炊事の支度をしていた。
男達は今夜の襲撃の準備をしているようだった。
空を飛ぶ機械がまだ無い世界らしく平原で生活していても大丈夫らしい。
数人の男達が山に連なる小高い丘に登って下の集落を眺めていた。
男達は言葉を交わすことなく集落越しに町のある山の方を眺めていた。
修一と千と蓮は搭載艇のモニターで男達を見ていた。
「修一様、何かリーダーっぽい人達ですね。集音マイクを向けてみましょうか。」
「そうしてみて、千。それで出来上がった通訳機が働いたら同じ言葉だし通訳できなかったら別の言語と言うことになる。」
「通訳できないようですね、修一様。」
「そしたら、下に行って対面しなければならない訳だ。フライヤーで行く。蓮さんも一緒に来て。神様で対面する。」
フライヤーは上空から五人の男達の前に降りて来た。
男達は小さな崖の上に立っていたのでフライヤーは崖の先の空中に浮かんでいる状態で止まった。
四人の男達は直ぐさま肩から銃を外し、フライヤーの方に銃口を向けた。
「異星の神だ。発砲するな。私の声が聞こえるか。異星の神だ。発砲するな。発砲した者は消える。」
男達は身構えたまま動かなかった。
「私の声が聞こえるか。聞こえたら左手を上げろ。」
四人の男達は銃を右手でフライヤーに向けながら左手を上げた。
銃を持っていない一人も黙って左手を上げた。
「言葉が通じたようだな。目の前の四人、銃口を下げよ。」
リーダーと思われる男が四人に銃口を下げるように命じた。
「なかなか素直だ。今ドームを開ける。敵対するな。」
ドームは縁に埋め込まれるように消え、芝生の真ん中に置いてある透明なテーブルの後ろの椅子に二人の男女が座っており、その後ろには素晴らしい美形の女が立っていた。
男の頭の後ろには光輪が浮かんでいた。
「私の名前は修一と言う。シューと呼んでもいい。正面の銃を持っていない男。名は何と言う。」
「私の名前はズーと言います。」
「ズー、お前を何人と呼んだらいいのか。」
「ゾーア人と呼んで下さい。」
「ゾーア人のズーか。」
「そうです。」
「この星の名前は何と呼ぶのか。」
「特に定まった名前はありません。国によって呼び名は異なります。」
「それならお前と話す時にはゾーア星と呼ぶことにする。」
「名誉なことです。」
「お前達は奴隷か。」
「戦争に破れ、奴隷にされた者達だった者達です。」
「戦争に破れる前は何者だったのか。」
「ゾーア国の国民です。」
「ゾーア国はどこにあったのか。」
「まさにこの地です。山の向こうの町はゾーア国の首都でした。」
「それほど大きな町ではなかったがゾーア国は小さな国だったのか。」
「人口50万人の小さな国でした。」
「戦争の相手は誰だ。」
「ケルト国です。」
「ケルト国の首都は北半球の大陸中央にある都市か。」
「その通りです。」
「ケルト国の首都では電気が使われ、自動車が走っていた。ゾーア国では電気が使われているのか。」
「使われておりませんでした。」
「武力における彼我の差が大きかったようだな。」
「その通りです。」
「畑での襲撃を見た。反乱を企てようとしているのか。」
「反乱ではありません。国土奪還戦争を試みております。」
「そうだったな。すまなかった。お前にとっては反乱ではなく戦争だったな。」
「質問してもよろしいですか。」
「質問してもいい。すまん。聞くだけだったな。」
「貴方はどこから来たのですか。」
「夜空の星々の一つからだ。ここからは特定できない。」
「どうしてゾーア語を話すことができるのでしょう。」
「まだゾーア語を話すことはできない。私の言葉は相手の脳にイメージを送り、相手が勝手に自分の言葉に変える。逆もそうだ。どこの国の言葉でも通じる。動物とも通じる。暗くなって来た。今日は止める。明日の夕方ここに来い。」
「必ず来ます。」
「明日な。」
ドームが閉じてフライヤーは落下するような加速で上空に消えて行った。
「千、あの五人は悪者かい。」
搭載艇に戻って修一は千に訊いた。
「いいえ、悪者ではありません。銃を持った者の中に少し不安定な者が一人いるようです。不意を襲って発砲しようと思っておりました。」
「それは恐いな。防ぎようがないね。」
「銃口が別の方向を向いていさえしたら大丈夫です。こちらに向けている間に消すことができます。」
「国土奪還戦争って言っていたね。『奴隷の反乱』ではなく『奴隷国の反乱』ってところかな。」
「助けるお気持ちですか、修一様。」
「助ける。相手が悪者ではなく声をかけたのは縁(えにし)だからね。」
「了解。」
翌日、丘の出張りの崖の上には五人の男達が三時過ぎから待っていた。
五人は銃を持っていなかった。
五人が1時間ほど待つと、上空から銀色に輝く円盤が下りて来て、男達の前の崖の空中に止まった。
「昨日の五人か。今日は銃を持っていないな。」
「あなた方は敵ではないと信じました。」
ズーが言った。
ドームが開き、昨日と同じように二人の男女が椅子に腰掛けておりその後ろに美形が立っていた。
「ズー、今日もお前に質問したい。いいか。」
「何でもお訊き下さい。」
「ゾーア国の人口は50万人だったと聞いた。下の集落はせいぜい2万人だ。残りはどうしている。」
「数万人は戦いで死にました。残りは奴隷としてこの周辺の耕作地や都市、そして外国におります。」
「ゾーア国の周辺の国はどのような国があり、どのようになっているのか。」
「周辺の国はゾーア国よりも大きく、およそ百万人の人口を持っておりました。ケルト国に帰順した国は自治領として存続しており、戦った国はケルト国になり、住民は他国に移動させられ奴隷になっております。」
「その先はどうなっている。」
「この大陸は南北に長い大陸です。北は熱帯で人はほとんど住んでおりません。南は寒く作物は穫れません。漁業だけの寒村が多くあるだけです。多くの国は中央に集中しております。」
「お前達はこの星の地形の全貌を把握しているのか。」
「実際に行ったことはありませんがこの星の、いやこのゾーア星の地理には興味を持っておりました。」
「豊かな国だったようだな。生活に余裕がなければ学問に興味は持てない。」
「港にすることが可能な海岸線と広い耕作地となだらかな山に恵まれておりました。」
「周辺の国とは争いは無かったようだな。」
「あまりありませんでした。同じくらいの大きさでお互いに困った状態ではありませんでしたから。」
「そこにケルト人が攻めて来て、あっという間に征服されたわけだ。」
「その通りです。全く戦いの準備をしておりませんでした。」
「ケルト人の武器は銃の他に何があった。」
「鉄張りの軍艦と大砲を持っておりましたがこの国が征服されたのは歩兵の持っている連発銃の威力でした。」
「強力な銃があればお前達は国を取り戻せるのか。」
「一時的には取り戻すことができると思います。この地にいる大部分の人々はゾーア国民ですから。その後はケルト国あるいはケルト国に命じられた属国との戦いになります。」
「そうなるな。果てのない戦いになる。ケルト国を無くさない限りはな。」
「そう思います。」
「分った。縁(えにし)だ。神が手助けしてやろう。お前達が国を取り戻すことができたら、ケルト国の首都を消してやろう。数秒しかかからない。後は深い穴になる。」
「神様、それは良くないと思います。ケルト国は確かに憎い国ですが首都やそこに住む人々を一緒に消すのは良くないと思います。なぜだか理由は明確に言うことは出来ませんが良くないと思います。」
「ケルト国は大きいのか。」
「非常に大きな国です。世界の多くの地を植民地にしております。多くの属国もケルト国の言われるままです。」
「それではゾーア国は最終的には負ける。例え強力な銃を持ったとしてもな。」
「そう思います。我々には人数が足りません。ゾーア国に侵入して来た者だけを追い返すことしかできません。」
「しかしな、正規兵の軍隊は追い返すことはできても、スパイや工作員のような物で攻められたら持たないぞ。そんなものは本来、弱い国がすることだが強い国にそんな方法で攻められたら対処できない。強力な警察力も無いみたいだしな。」
「そう思います。でも今、世界に対するケルト国の影響を無くしてしまうと世界中に混乱が生ずると思います。それだけ大きな国なんです。」
「そうか。それなら別の方法を採るかな。とにかくとりあえず、お前達に適当な銃を百丁作ってやろう。少なくとも正規軍に勝てる銃だ。しばらく待て。正規軍に勝ったらその後の対処はそのとき考えよう。」
修一はそう言ってフライヤーのドームを閉め上空に消えた。
「ずっと待っております。異星の神様。唯一の希望。」
ズーはフライヤーが消えた後に呟いた。
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