第28話 28、賭博場での資金調達 

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 「この星の貨幣は金貨と銀貨と銅貨ですね。もう少しお金を稼ぎましょうか、修一様。」

千はもらった財布の中身を調べてから言った。

「まだ語彙が不足みたいだから稼いでもいいよ。でも出来上がった通訳機は汚い言葉を使うかもしれないね。」

 三人は近くの商店に入って店員に金貨一枚を渡して言った。

「ご主人様が賭博をお望みです。この近くに大きな賭博場はありませんか。」

「少し遠くだけど左五ブロック先に一番大きな賭博場があるよ。最新式の機械も入っているらしい。金持ちだけが行くみたいだ。ガス灯で昼間みたいに明るいからすぐわかる。」

 確かに大きな賭博場だった。

白い石造りの賭博場の入口は多くの電気照明で照らされ明るかった。

街路のガス灯よりずっと明るい。

中に入って行くと色々な賭博機械があった。

カードゲームをしているテーブルもあったし、サイコロの丁半博打もあったし、スロットマシンもあった。

広間の中央には他を威圧するルーレット台もあった。

しばらく見物するとルールもだいたいわかった。

この賭博場ではチップの代りに金貨が使われていた。

確かに紙幣がない世界なら金貨が分り易い。

 「修一様、賭博場はどこも同じですね。何に致しましょう。」

「千の力はスロットマシンでも効くのかい。」

「3リールマシンですね。試してみないと分りません。」

「OK。最初はスロットマシン。その後はルーレットにしよう。後がめんどうだから目立たないように勝たないとね。最後は目立つだろうけど。」

「了解。」

 スロットマシンでは四回ベットして一回揃い、その後三回ベットして二回が揃った。

千は二番目と三番目のリールを強制的に止めているようだった。

結果的に修一のポケットは金貨で膨らんだ。

ルーレット台では修一は奇数の前に立って奇数と黒だけにベットした。

もちろん偶数も赤も出たがその時には修一は賭けていなかった。

短時間で修一の前に金貨の山ができた。

千は係員を呼んで一掴みの金貨を渡し、台車と蓋付きの木箱を持って来させ金貨を箱に入れた。

 箱が金貨で満たされると修一はルーレット台を離れ出口に向かった。

入口のドアボーイに金貨数枚を渡し、歩道まで台車を運んでもらった。歩道を暫く歩いて石造りの家と家の間の路地に入って、上空に浮かび上がり、公園の樹冠に停めてあったフライヤーに大金と共に戻った。

「任務完了。千、搭載艇に戻って。」

「了解。」

 「奴隷か。厳しい世界みたいだな。」

搭載艇の操縦室で修一は呟いた。

「警察官が『外国人』という言葉を使いましたから外国があるということで、言葉が違うことにも違和感を持っておりませんでした。」

「千、外国にも行こう。奴隷も見たい。」

「分りました。でも修一様、もう少しお金を稼いでよろしいでしょうか。外国に行くにしてもお金が必要です。」

「もちろんいいさ。あの賭博場かい。変装して行くんだろう。」

「左様でございます。毎回容姿を変えて行こうと思います。」

 昼間は世界中を飛び回って観測を続け、夜になると都市に戻った。

千は宵の口から深夜まで賭博場に二回入った。

宵の口は若者に深夜前には中年の男性に扮して賭博場に入った。

その度に金貨のつまった木箱を台車に積んで帰ってきた。

 そんな状況が十日も続いたある晩、若者に扮していた千はルーレット台の前で数人の係員に声をかけられた。

「お客様、支配人がお目にかかりたいと申しております。ご足労願いませんか。」

「いいですよ。頼みがあります。台車に積んだ金貨を運んでくれませんか。重いのです。」

千と係員達は賭博場の周囲の回廊に至る階段を上がって二階の重そうな扉を入って行った。

部屋の正面には重厚な幅広の机があり、細身の男が座っていた。

一緒に来た男達は入口の前に立った。

 「お客さん、ルーレットでは大分儲けた様ですね。」

机の後ろの男が言った。

「あの、僕と話がしたいのなら椅子を持って来ていただけませんか。ずっと立っていたのです。」

男は横に立っている男に顎で指図して部屋の壁際に置いてあった椅子を千の前に持って来させた。

「ありがとう。貴方が僕と話をしたい支配人ですか。何でしょうか。」

 「最近、この賭博場は毎晩のようにルーレットで大損をしております。異常なことです。貴方も今晩ルーレットで大儲けをする方だと思い来ていただきました。どうして大儲けができるのでしょうか。お話願いますか。」

「そうでしたか。不正はありましたか。」

「それが見つからないので紳士的にお聞きしております。」

 「支配人としても不思議なのでしょうね。僕も不思議なのです。僕は黒だけに賭けています。頭の中で賭ける時には『黒』って声が聞こえるのです。言ってみれば感なのでしょうかね。声が聞こえないときは赤になります。僕の声は頭の中で聞こえると思います。僕は感が鋭いなのかもしれませんね。」

「分りました。お客さんには今後この賭博場に出入りして欲しくはありません。それでよろしいでしょうか。」

「いいですよ。手切れ金として今ある金貨と同量をいただけますか。」

「分りました。二度とここには来ないで下さい。」

「了解。そうします。」

 翌晩は別の男が一晩でスロットマシンのジャックポットを二度出して短時間で金貨二箱を持って帰った。

その次の日は別の男がルーレットで大勝ちをした。

男が大量の金貨を入れた箱を台車にのせて賭博場の玄関を出ると、道路の其処此処に黒服の係員らが立っていた。

彼らは別に近づくわけでもなく、ずっと向こうの道路の角にまで展開していた。

金貨を持った男がどこに行くのかを確めかったようだった。

 男は賭博場の前の歩道に立つと手を上げて控えていたタクシーを呼んで車に乗り込んだ。

「警察署に。」

男は金貨一枚を運転手に渡して言った。

「へい、ありがとうございます。」

タクシーはかなりのスピードを出して警察署に向かった。

タクシーの後ろからは2台の自動車が後をつけて来た。

タクシーが警察署の前で止まると男は金貨の詰った箱を運転手に手伝わしてゆっくり台車に積み、車用のスロープを騒々しい音をさせて台車を玄関まで運んだ。

 追いかけて来た車も警察署の前に停車し、中から男達が出て来たが、さすがに警察署の中までは追ってこなかった。

青年は男達に手を振ってから警察署の中に入って行った。

 警察署の玄関には二人の警察官が立っていたが玄関で青年が手を振る様子を見て何も誰何しなかった。

男が警察署の中でだれかに問われることはなかった。

男に話しかけようとする者はなぜか具合がしばらく悪くなった。

 警察署の中は街中の警察官より安全なのだ。

だれも思うが警官仲間だと思うのだ。

下手に誰何でもすればどんな反撃を受けるかもしれない。

警察官の警察官に対する反撃はつかまえることができない。

若者は台車を押して警察署を通り抜け、裏の駐車場で空に上がって消えた。

 「そろそろ賭博場でお金儲けをすることは難しくなったようです。賭博場の支配人が疑いを持ったようです、修一様。」

搭載艇に戻ってから千は修一に言った。

修一は蓮が淹れたクルコルを飲んでいた。

「見ていたよ、千。ごっつい男達が警察署までつけていたね。」

「お金も相当な量が貯まりました。足りなくなったらまたここに来ればいいと思います。」

「そうしよう。次の目的地は南半球の大陸だ。紛争が起っているみたいだ。」

「了解。」

 南半球の大陸は赤道から南極近くに亘(わた)って細長く伸びており西側は山々が連なっていた。

細長い大陸のためか、砂漠化している部分は少なく熱帯樹林から草原まで幅広い植生を持っていた。

町は東側の海岸線に沿って点在しており、町間を繋ぐ道路も繋がっていた。

一見すると大陸には工場らしい建物はどこにもなかった。

当然あったのだろうが、粗末な家内工場のようなものだったのであろう。

 ひときわ大きな町があり、立派な石造りの建物も建っている町があった。

都市と言えるかもしれなかった。

その町の周囲は他の町と同様に広大な耕作地となっており、多くの粗末な衣装を着た人々が農作業を行っていた。

農作業には馬や牛が使われていた。

町には自動車も走っていたが耕作地の大部分では馬が使われていた。

馬に乗った二人が組みになって耕作地を巡回しており、彼らは腰に拳銃を下げ、二人の一人は常に片手に銃を持っていた。

 「千、畑で働いている人が奴隷で馬に乗っているのは見張りかな。」

「そのようです。」

「畑はずっと先まで続いているけど見張りが二人では大丈夫かね。」

「遠くの小山近くの畑には別の見張りが見えます。町側にも見えます、修一様。」

「これだけ広大なら収穫量も多いね。」

海岸線には港があって大きな船が停泊しておりましたから、ここで収穫された物は船で輸送されているのですね。」

 その時、銃声が遠くから聞こえた。

山の近くの二人の見張りが馬から引き落とされていた。

それと同時に辺りの畑にいた白服の奴隷達は山の方に一目散に逃げ出した。

見張りが乗っていた2匹の馬には妙な服装を着た男が代りに乗り、遠くの見張りに銃を構えた。

周りの見張り達は馬を駆って畑中の道を近づいて来たが、相手が銃を射って、仲間が負傷すると速度を落とした。

 命を賭けるだけの給与をもらっている訳ではなかった。

山近くの畑にいた奴隷が山に逃げ込んだ後で馬上の二人は馬を山に向けて消えて行った。

見張りの男達は山の近くにまで追いかけたが山の中まで追うことはなかった。

奴隷はいくらでもいる。

それに、山には必ず賊の仲間が潜んでおり深追いは禁物だった。

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