第27話 27、異星の都
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搭載艇は何度も星を廻って地表の地図を作った。
急ぐ必要も無かった。
惑星は3つの大陸に別れていた。
一番大きな大陸の内陸には大きな都市があり、ラジオ放送も流れていた。
言葉は全く分らなかった。
「修一様、蓮さんの第五惑星で作った放送受信機があって良かったですね。ラジオ放送です。テレビ電波ではありません。」
「この大陸の都市が一番進んでいるみたいだ。他の大陸ではラジオ放送がなかった。」
「一昔前の町を見ているようです。私の国でも二百年前はこんな生活でした。写真で見たことがあります。」
「蓮さんの国でも『古き良き昔』って言葉がありましたか。」
「ありました、修一様。」
「文明が進むと、いや、文化が進むと必ず出て来る言葉みたいですね。太陽系の地球の部族には無いでしょうね。」
「修一様、あるのかも知れません。老人は『今の若者は』と言う言葉を使います。そこにはその言葉の意味が入っているのではないでしょうか。」
「そうだね。」
都市の上空千mに浮いた搭載艇のモニターに拡大されて映し出されている町の様子を蓮とクルコルを飲みながら眺めていた修一は呟いた。
「とにかく地上に行かなければ先に進まない。病原菌に対する人体実験と言葉。それと尻尾か。」
「お悩みですね、修一様。」
「千、僕に尻尾を作ってくれない。ここでは尻尾が無いと生活できないみたいだ。」
「お任せ下さい、修一様。立派な尻尾を作って差し上げます。それと長めのコートと帽子もあった方がいいですね。」
「頼むよ、千。蓮さんはそのままでも大丈夫だね。今着ている服装は下の町の女性とほとんど同じ服装だ。千の格好は少し未来系だね。」
「もう少し現代型に落としましょうか。」
「それはどんな立場で地上に行くのかに依るよ。言葉が話せない外国人か、特別の能力を持った霊能者か、必ず勝つギャンブラーか、どんな病気も治してしまう医者か。どんな法律があるのか分らないけど、合法にしないとね。長くこの地で生活できない。」
「修一様、地球と同じように神様にもなれます。」
「それも候補の一つかな。宇宙船G13号なら都市全体でも大陸でも星全体でも一瞬で消すことができるからね。この搭載艇でも時間はかかるけどできる。」
「空から来た宇宙人ならそのままでも大丈夫です、修一様。」
「それもある。蓮さん、要は今後の生活に何を望むかだ。住民を支配して優越感に浸(ひた)るか、住民に溶け込んで平凡に死んで行くか。僕はもうそんなに若くはないからね。それと宇宙船にはまだ800人の男女が眠っている。この人達をどうするかも問題だ。ここは地球のような恐竜の世界ではないからね。文明を持つ人間の世界だ。ホムスク人を目覚めさせたらおそらくこの星の支配種族になる。でも、それがいいとは思わない。」
三人はフライヤーで夜の都市に降りた。
この星での免疫対策はしなかった。
死に至る病原菌があったらそれはその時のことだ。
大急ぎで搭載艇に戻って治療箱に入るしかない。
二人ともモルモットなのだ。
前のように夜の公園の樹冠にフライヤーを浮かべ、公園を出て町に向かった。
千は立派な尻尾を出した若者に姿を変えていた。
時々、辺りを払うように尻尾を振っている。
ロボットの千が楽しんでいた。
修一の通訳機の後光は背の高い帽子で隠れている。
歩道を歩いていると通り過ぎる人達の声が聞こえる。
通訳機はこの星でも働いていた。
石畳の歩道を歩いているといつの間にか背後から二人の警官と思われる大男が警棒をもう片方の手の平に打ちつけながら近づいて来た。
「修一様、警官みたいですね。ワクワクします。」
「おいこら、そこの三人、止まれ。どこに行く。」
「私達のことですか。」
修一は後ろに向き、近づく警官を待った。
「おい、お前達、どこに行く。」
二人の警官は警棒を手のひらに打ちつけて威嚇しながら言った。
「特に目標はありません。警察に行ってもいいですよ。飲み物でも出してくれますか。」
「なにい。貴様、警官をなめているのか。痛い目に会いたいか。」
「修一様。後はお任せ下さい。こんな立派な警察官様のご質問には誠意をもってお答えしなくてはなりません。立派な警察官様、お見回りご苦労様でございます。私達はこの立派な都に着いたばかりです。立派な町を見物しておりました。」
「お前達は外国人だな。変な声を出して。頭の中がガンガンする。どこから来た。」
「ずっと遠くの外国からです。私の国の言葉は頭に響くんです。すみません。」
「脱走奴隷じゃあないだろうな。鑑札は持っているのか。」
「今この都に着いたばっかりだと申しました。ご立派な警察官様。」
「おい、若造。貴様おれをなめてるな。」
警察官はいきなり警棒を千の顔をめがけて横殴りに殴ろうとした。
千はその警棒をたやすく耳の前で掴み、しっかり握った。
「無警告で顔を硬い警棒で殴るとはあまり立派な警察官様ではないですね。罰(ばち)が当たりますよ。」
その警官はもう片方の手を胸に押さえつけ痙攣して崩れ落ちた。
千は掴んでいた警棒を離してやった。
「おい、貴様。何をした。」
「私は何もしていません。急に倒れたんで。お怒りになって興奮したのかもしれません。どうもすみませんでした。心臓に病気を持っていたみたいですね。」
「さっきまで元気だったんだぞ。」
「心臓病は突然起るものです。早く介抱しないと貴方は同胞を助けなかったと罪に問われますよ。」
「むむ。おい、大丈夫か。おい。」
「仰向けにして心臓を上から鼓動と同じ様に押せば回復するかも知れません。」
「むむ。そうか。おい、目を開けろ。大丈夫か。」
「十分ほどそうして下さい。その十分間が生死の分かれ目です。肋骨があるので強く押さなければだめです。」
三人は警官が同胞を蘇生させようとしている様子を見守っていた。
十分ほど経って倒れていた警官は目をさました。
「おい、大丈夫か。気が付いたか。よかった。ほんとに良かった。」
「良かったですね。貴方は仲間を救いました。貴方の気持ちが神様に通じたのでしょう。」
「むむ、礼をいう。お前達はもう行っていい。このことは他言無用だ。」
「よく分っております。警察官様。それでは失礼致します。」
三人は明るい方に向かって歩いて行った。
「奴隷がこの世界にはいるんだ。それに鑑札か。厳しそうな世界だな。」
「まずお金が必要ですね、修一様。」
「でも町でお金を稼ぐことは大変だよ。まあ、どこでもだけどね。千、悪いやつをみつけよう。悪いやつならお金をたくさん持っていそうだし、カツアゲってのを一度やってみたかった。」
「修一様、それは悪いことです。合法的にしなくてはだめです。お任せ下さい。丁度カモがネギを背負って車を降りたようです。あの男は相当な悪人です。心が黒一色です。あの方からお金をもらいましょう。」
立派な洋服を着てステッキを持った男は立派な車を降り、歩道を数歩進んで胸に手をあてた歩道に倒れ込んだ。
千は急いで男にかけより半身を起こした。
しばらくして男は気付き千を見上げた。
「気が付かれましたか。よかったですね。心臓が止まっておりました。」
「お前が介抱してくれたのか礼を言う。」
男は千を邪険にどけて立ち上がり歩き始めたが、再び手足を痙攣させて路上に仰向けに倒れた。
千は今度は助けずじっと男を見ていた。
男は千の方を訴えるように見ていたが気を失った。
一分ほどして男は気付き千を見つめた。
千は男を見下ろしながら言った。
「今は急性心不全です。勃発期(ぼっぱつき)に入っております。貴方はこれから何度も心臓マヒを起こして苦しみながら死にます。」
「助けてくれ。医者に連れて行ってくれ。」
「私はこの町に来たばかりで医者は知りません。」
男は再び胸を掴んだ。
「助けてくれ。頼む。お願いだ。謝礼はいくらでも出す。」
「お金をくれるのですか。」
「そうだ。有り金を全部やる。医者に連れてってくれ。三ブロック先だ。」
男は再び胸をつかんだ。
「分りました。先にお金を出して下さい。それから自動車のキーを出して下さい。貴方を病院まで運びましょう。」
男は内ポケットから財布を取り出し千に渡した。
上着のポケットから鍵を掴み、それも千に渡してから再び胸を掴んだ。
千は男を楽々と持ち上げ、車の助手席に座らせた。
「修一様、蓮様。狭いですが車に乗って下さい。この男を病院に連れて行きます。」
千は自動車を巧みに運転した。
「恐ろしく加速のない車です、修一様。これでも自動車ですかね。でも歩くよりはましですね。」
千は病院らしい建物の前に車を停め、男を支えて玄関前に運んだ。
「病院はここですね。」
「そうだ。呼び鈴を押せ。」
「それは貴方の仕事です。私の仕事は貴方を運ぶだけでした。車の鍵をポケットに入れておきます。医者には心臓病用のジキタリスが必要だと言いなさい。ジキタリスです。それではお大事に。」
その男は呼び鈴を押した後で再び胸をつかんでしゃがみこんだ。
千は車の側(かたわら)で待っていた修一の所に戻って言った。
「修一様、元手が入りました。」
「千、すごいね。」
病院の中年の医者は男を診察し、問題は無いと結論した。
男から心臓用のジキタリスと言う言葉を聞いた時、医者はもう一度男に言った。
「その若い男は本当に心臓病用のジキタリスと言ったのだね。そうかジキタリスだったか。絶対に薬があると思っていたがジキタリスだったのか。ありがとう、君。助かったよ、君を運んだ男はそうとうな医者か研究者だよ。心臓病に有効な薬はこれまでなかったんだ。君はその男に感謝すべきだよ。私も感謝している、さっそく試してみる。」
男は医療費は後で必ず支払うことを約束して自動車に乗って走り去った。
約束は破るものだ。
「この車に加速が無いだって。最新型だぞ。くそ。」
男は車内の会話が聞こえていたのだ。
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