第26話 26、修一の秘密と過去と未来 

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 修一はまさに奇跡の御落胤だった。

正確に言えば庶子でもなく正当な後継だった。

修一の父親はホムスク帝国の影の為政者の万であり、修一の母は万が自身の母の細胞から伴侶として造った5倍体人間の千だった。

2倍体人間の万と5倍体人間の千の間では本来、子供はできないのだが、奇跡的に千は妊娠し修一を産んだ。

 さらに驚くべきことは有限の卵母細胞の数の問題だった。

千の卵子の数も最初は有限だったのだろうが、千は数千万年生きてもなお奇跡的に妊娠することができた。

二人が当時行っていた延命処置に原因があったのかもしれなかった。

 それは細胞に刺激を与えてSTAP(Stimulus Triggered Acquisition of Pluripotency、刺激惹起性多能性獲得)化する方法だった。

千の卵母細胞の増殖が起こったのかもしれなかった。

生まれた修一は2倍体人間だった。

 修一の父の万は地球人川本千本とホムスク人Cとの間に生まれた。

万は幼少時からホムスク文明を越える教育を受け、寿命延長の処置を通して種々の分野の知識を学んだ。

当時のロボット人世界の科学技術はホムスク文明の技術を越え、その宇宙船は最終的なホムスク宇宙船を越えていた。

 万は大宇宙がビッグバンと反対の現象であるビッグクランチを起こす前に大宇宙が塵と見える広大な14次元世界にロボット人と共に遷移した。

14次元のその世界の時間進行方向はこれまでの大宇宙の時間進行方向とは逆だった。

万が14次元世界でロボット人と過ごしている間、万は塵よりも小さな大宇宙の過去に向かって進んでいた。

 その後、万は奇跡のような偶然で塵のような大宇宙に真正面から突っ込み、この世界の過去に入り込んだ。

万は最初に見つけた惑星に降り、最初に周辺の言葉をおぼえた。

驚くべきことにその言葉はホムスク語と同じだった。

万は父である川本千本との別れの時の言葉の意味を確信した。

 川本千本は息子の万に「将来、別の大宇宙に入ったら最初に見つけた惑星に降り、その星を大宇宙の支配者にせよ。その星はホムスク星だ。」と言ったのだった。

当時の万は父の言っている意味が分からなかったが、その惑星に降り立ってホムスク語を聞くに及び、父が万の未来を知っていたと確信した。

 万は父の言葉に従ってその星を大宇宙の支配者にしようと決意した。

万はそれが可能な科学知識を持っており、その結晶としての宇宙船をも所有していた。

万の宇宙船は川本千本の多くの発明を装備した、この宇宙では最強の宇宙船だったし、14次元に存在していたので更なる性能も有していた。

 大宇宙がビッグクランチを起こす前のホムスク文明では、何物も通さない7次元シールド、物体を原子に変える分子分解砲、物体を任意の場所に送り込む転送装置、宇宙船を遠距離や過去や未来や別世界に遷移させる7次元遷移装置、クローンを用いた延命処置が完成されていた。

 川本千本はそれらに加え、7次元位相界に物体があるか否かを見る7次元レーダー、6次元世界があるか否かを見る6次元レーダー、7次元での存在をなくす7次元常在性シールドなどを発明していた。

 万の宇宙船は14次元世界に存在したことがあったため、7次元と14次元が繋がり、多くの新たな性能向上が起こった。

7次元遷移は飛躍的な性能向上が起こった。

 それまでは数百万光年の遷移が限界であったが数百億光年の遷移が容易にできるようになった。

7次元世界では100億光年の距離も14次元世界では数ミリメートルの距離以下になるからだった。

これにより万の宇宙船は大銀河のどこでも一瞬で移動できるようになっていた。

 また、何物も通さないはずの7次元シールド内に物体を送り込むことができるようになっていた。

14次元に上げてから摂動を加えて7次元世界に下すからだった。

この機能は後にホムスク帝国で発明された何物をも通さない、絶対的に信頼できる7次元シールドを無効にさせる機能だった。

後に、万は影の為政者としてホムスク文明の発展に害をなす人物をこの機能を使って排除した。

 そんな状況で万はホムスク星に降り立った。

万はそこで妻としての千を作った。

細胞さえあれば女性を作ることは容易だった。

川本千本はホムスク人Cの破瓜の血液から後に万の妹になる椎(しい)を作った。

椎は母親であるCと同じ2倍体人間だったが千は5倍体人間だった。

万は保存されていたCの細胞(iPS細胞)を多倍体細胞にしてから人工子宮に入れたのだった。

 万は千が生まれると時間を早めた環境で千を育て、自分が持っている知識を千に与えた。

千が成人に達した時、千の容貌は母のCと妹の推に似ていた。

5倍体人間の千は2倍体人間よりも優れた資質を持っていた。

 写真的な記憶力や超人的な筋力と神経応答を持ち、テレキネシスのように離れた場所から人間の呼吸や心臓拍動を止めることができた。

人間の心も判るようだった。

 万は山中に自宅を作り、7次元シールドを張り、少しずつ惑星の人間と交わった。

万は後にホムスク帝国の始皇帝となる周平と懇意になり、周平に世界制覇を勧めた。

ホムスク星が大宇宙を支配するためにはその星の言語を一つにすることが重要だった。

千は周平の世界制覇を助け、周平は世界を制覇し、単一言語を持つホムスク帝国を創った。

 万と千は細胞活性化処置をすることで不死だった。

万はホムスク星の始皇帝時代からずっとホムスク星の自宅で過ごした。

大部分は時間を遅らせた部屋で眠った。

12時間の睡眠が外の世界での千年になることもあった。

千はずっと覚醒していた。

世間を観察し、問題点が生じたら万を睡眠から目覚めさせた。

万はホムスク文明が継続するように介入し、問題点を科学力を使って解決した。

 ホムスク帝国成立後8千600万年頃、ホムスク帝国は大航宙時代に入っていた。

重力遮断技術を駆使して宇宙空間で巨大な宇宙船を作ることができるようになり、高張力金属とそれを切断できる分子分解砲が発明され、大エネルギーを取り出すことができる原子電池が開発され、高性能なサイクロトロンエンジンで高加速ができるようになり、偶然に発見されたワープ遷移航法が確立されていた。

ホムスク帝国は50億光年離れた大宇宙に進出することができるようになっていた。

 多くのホムスク人は大宇宙に夢を求めて自分の生涯を捧(ささげ)て大宇宙への探検に参加した。

一度ホムスク星を旅立てば二度とホムスク星に戻ることはできなかった。

大宇宙への旅は長い時間がかかったからだった。

 大航宙の目的は最初は大宇宙の地図を作ることだった。

全ての恒星と惑星を評価し、その動きを記録し、数千万年後の位置を予測できるような地図を作ることだった。

 そんな宇宙船では大部分の乗組員は冷凍冬眠状態で過ごし、わずかな乗員が地図作成作業を進め、寿命の限界が来れば冷凍冬眠の乗組員数人を覚醒させ、最終的には情報をホムスク星に報告した。

宇宙船がホムスク星に戻った時、ホムスク帝国は既に数万年もの時間が経過していた。

ホムスク星の位置が大宇宙から離れていたため時間の進行速度が大宇宙の時間進行速度よりも早かったからだ。

とにかく何十万年をかけてホムスク帝国は大宇宙の情報を把握した。

 千はそんな時代に奇跡的に修一を産んだ。

千は狂喜した。

その時代、万は影の為政者としてホムスク帝国を掌握しており、千は実務を担当し、実質的な女帝になっていた。

千は自分の子供が事故で亡くなることを恐れ、修一を無事に育てることができる施設を作り、修一が成人するまで母の存在を隠させたまま育てさせた。

 修一が宇宙船G13号で大宇宙に出発することを決断すると、千はG13号にまだ開発されていなかった超空間ビーコン装置を秘密裏に装着した。

修一の安否を知るためだった。

 千はさらに万の宇宙船にあったロボット1体を修一に与えた。

そのロボットは経験を通してロボット人になることができる7次元チップを頭蓋内に組み入れた最終型のロボットだった。

 宇宙船G13号からの超空間ビーコンが事故で途絶えると千は直ちに万の宇宙船で銀河系に遷移した。

千は太陽系に行ったことがなかったし、銀河系は広かった。

宇宙船G13号の実際の航行が実際どのようになされていたかは知る術(すべ)もなかった。

 千は銀河系の第3渦状腕にいた宇宙船と無線連絡を取り、地図作成を中止して宇宙船G13号の救出に向かうように指示し、ホムスク星に戻った。

千に指示された宇宙船G14号、G15号、G16号はホムスク星にいた女帝に遠く離れた異郷の地で指示されたことを不思議に思ったが、指示に従って宇宙船G13号の調査予定宙域をくまなく捜索した。

 最終的に宇宙船G14号、G15号、G16号は太陽系の地球まで追跡できたが、その後の行方は皆目見当がつかなかった。

結局、宇宙船G14号、G15号、G16号は地球に行き、宇宙船G13号の乗組員達と共に地球人の神の種族となった。

 千は我が子、修一が亡くなったと思っていた。

だがおよそ5万年後、それは現地時間では50年後であったが、千はロボットの千からの超空間通信を得て宇宙船G13号の事故の顛末と修一がゾーア星で冷凍冬眠していることを知った。

 生きていさえすればいくらでも若返らせることができた。

千は最新型のロボットを修一の救助に向かわせた。

最新型のロボットとはホムンクと呼ばれ、ホムスク文明の全ての科学技術を受け継いだスーパーロボットだった。

ホムンクの乗る宇宙船は万の宇宙船と同じ形だったが、性能は7次元が限界だった。

 修一の救出に向かったホムンクはゾーア星に向かったのだが、誤ってゾーア星から10光年離れた惑星に行ってしまった。

その星には修一が過ごした痕跡がどこにもなかった。

ホムンクは命令を成就(じょうじゅ)できず、失意の内にその惑星に留まった。

 時が過ぎ、ホムスク文明は1億年を越えた。

その頃からホムスク帝国の住民は生活に飽き、電脳の中に入って楽しむようになってきていた。

だれでも生きるために働く必要がなく、誰でも永遠の生命を得ることができるようになっていた。

 人々は趣味に生き、不死の人生を謳歌していた。

自分のために仕えてくれるドアマンはいなくなった。

人々は全員が平等になり他人を支配できなくなった時、人々は趣味に入る以外には楽しみがなくなっていた。

ホムスク文明の進歩は停止した。

 為政者の万も電脳に入った。

千は万の妻としての役割が無くなり、万の宇宙船で万の父の故郷である地球に向かった。

川本千本に会いたかったのだ。

修一の生存はとっくに諦(あきら)めていた。

あまりにも時間が経ち過ぎていたのだ。

 千は地球に降りた。

地球は千本が生まれる数十万年前だった。

千は地球人となって千本が生まれて来るのを待つことにしたのだった。

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