第24話 24、宇宙船の修理 

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 ホムスク星の宇宙船が地球に降りて十年が経った。

修一の歳は35歳になっていた。

ホムスク砦の中はにぎやかになった。

人口は二百人を越えていた。

これから毎年20人以上が増えて最終的に千人以上になるはずだ。

船長と妙の間の男の子を最年長として、何人かの子供達も砦の中を駆け回っている。

全員の顔を覚えることはそれほど難しいことではなかったが、名前を覚えることは難しくなってきた。

 大人達は何らかの仕事を見つけていた。

ホムスク砦の将来のための仕事だ。

幼児のために絵本を描く者もおり、小学生の各学年の教科書も作らなければならない。

中学や高校の教科書を作ることはもっと難しい。

大学生用の教科書はもはや手に負えない。

知識は宇宙船の電脳に蓄えられているが、そこに入るには船長の許可を必要とした。

まだ先の話だが宇宙船の知識は受け継がれなければいけない。

 「船長、そろそろ宇宙船の電脳の知識を利用しなければならなくなったようですね。」

修一は砦の全体集会の後で船長に言った。

「そうかな。ワシにはまだ早いような気がするが。まだ子供は小さいぞ。」

「計算上はそうなるんですが最近は自分が変って来ているのに心配しているんです。」

「どういう変化だ。ん、神様。」

 「心の老化というか、無理にこれまでの知識を伝えなくてもいいような気がして来たんです。」

「それを心の老化って言うのならワシも老化しているよ。『なるようになるさ』って感じだ。本来の仕事は出来なくなったし、宇宙船の持つエネルギーでこれから何万年も楽で安心した生活ができる。何で向上心を持ち続けるのだって考えるようになった。何万年だぞ。百年だって長すぎるのに、千年なんて想像もできない。そこまでホムスク星に義務意識を持つべきだろうかって考えるのさ。」

 「僕より重症ですね。」

「修一より歳をとっているからな。」

「でも、毎年冷凍冬眠から起こされる若い乗組員はホムスク星で乗船したときの若い気持ちを持っている訳ですよね。若者の考えがよいのか老人の考えがよいのか分らないですね。」

「そうだな。わからん。だが、毎年20人を冷凍冬眠から起こすというのはいい事だと思う」。

「それには全く異議がありません。千はどう思う。」

 「船長様に仮定の質問をしたいのですがよろしいでしょうか。」

「なんでしょうか、千さん。」

「現在生きている人間とロボットは宇宙船G13号を修理することは出来ません。大型の交換部品が無く交換部品をつくることができないからです。仮に現在冬眠している乗務員の中に交換部品を作ることができるか応急処置ができる者がいて、その方が目覚め、宇宙船を修理して再び宇宙に出ることができるようになったとします。その時はどうするとお考えですか。」

 「難しい質問をしますね、千さん。どうだろう。乗組員は安楽の惑星に移住した。乗組員全員が目覚めてホムスク砦に住んだ。その中にはホムスク星の未来を見たい者が数人いたとする。もっと多くてもいい。宇宙船は数名の乗組員だけで動かすことができる。50億光年を渡るのは自動運転ができる。その時には乗組員は冬眠に入ってホムスク星に向かうわけだ。そんな時は。そうだな。やはり帰らないと思う。ここの生活を経験してしまうと帰ろうとは思わなくなる。老人病かな。」

 「それが答えだと思います。仮に宇宙船が動くようになっても本来の仕事には戻りたくないのです。」

「千さんはきついな。でも情報はホムスク星に渡して義務を果したいとも思っている。宇宙船が修理できたら乗組員の中からホムスク星の未来を見たいと思う乗組員に宇宙船を渡してもいいと思っている。彼らが調査結果をホムスク星に伝えるわけだ。」

「それはよろしゅうございます。」

「うむ、一応、船長だからな。」

 「船長、そういう考えなら宇宙船を修理する算段をしてもいいですね。今までは修理不能ということで全く考慮していませんでしたから。乗員リストを調査して次の目覚めの時にその人を目覚めさせたらいいですね。」

「そうだな、修一。そうしてくれ。わしも気が休まる。」

 修一は千と一緒に宇宙船を学んだ。

蓮もホムスク文明を学びたいということで一緒に宇宙船を学んだ。

最近では蓮の仕事は子供がいるホムスク人が替わって行っていた。

 「修一様、問題は粒子エンジンの放出孔ですね。分子分解砲は飛行には関係ありませんから放出孔だけ治せば何とかなります。遷移装置は粒子エンジンの向きを反対側に回すだけの装置です。リングが曲がって粒子エンジンを回転させることができないようになっています。遷移する時は面倒ですが宇宙船全体の向きを変えれば遷移ができると思います。遷移を初めて発見した宇宙船と同じ方法です。」

 「でも、千。宇宙船本体をリングのように正確に反転できるかい。位置が変ると遷移方向は変ってしまうよ。」

「そうなんですよね、修一様。ジャイロでも付けましょうか。」

「修一様。質問してもいいですか。」

「もちろん、蓮さんは自由に言ってもいいよ。色々な視点から検討できるしね。」

 「遷移方向は目視でしょうか。」

「そうだよ。1万光年を決死の覚悟で目視で飛ぶんだ。観測しているのは1万年前の画像だから実際には今がどうなっているのか分らないんだ。」

「目視で方向を決めるのなら目視で宇宙船本体を回転させてはどうでしょうか。」

「そうかその手があったね。ジャイロより正確かもしれない。後ろの画像が前の画像とぴったり合うまで宇宙船を回転させればいいんだ。千、どう思う。」

「ジャイロよりは正確だ思います。十字線を入れたらもっといいと思います。」

 「そうだな。後はエンジンの噴出口か。ばかでかいからね。」

「粒子エンジンってどうやって粒子を飛ばすのですか。」

「多連装サイクロトロンってとこかな。サイクロトロンで粒子を周回させ、とんでもないエネルギーを持たせてから打ち出すのさ。壊れているのは粒子の出口だよ。」

「それでエンジンを動かすとエンジンは爆発するのですか。」

「わからない。詰った石に高エネルギー粒子がぶっつかったらどうなるかね、千。」

「分りません。石が破壊されるか、破壊されなければ高エネルギーは熱になって噴出孔を破壊するかもしれません。」

「詰っているのは岩石なのですか。それなら溶かせないのですか。」

 「溶かす。そうだよ溶かせばいいんだ。噴出孔は金属だけど防御板と同じで酸に強い。岩の主成分の二酸化ケイ素を溶かすのはフッ酸だから、防御板がフッ酸に大丈夫なら噴出孔も大丈夫だ。岩は二酸化ケイ素以外も含んでいるから硝酸も使えばいい。最初のフッ酸には硫酸でも、いや、フッ酸だけがいいな。」

「噴出孔の穴は相当小さいですが液体は入りますか。」

「超音波振動させながら圧力と吸引をさせたら。いや、とにかくやっても問題はない。最初は防御板でテストだ。」

「了解。」

 結果的に噴出孔は治った。

宇宙船は宇宙を飛べるようになったはずであった。

もちろん試験運転をしなければならない。

 船長に試験運転の協力を求めたがやんわりと断られた。

妙に頼んでも危険だからいやだと言われた。

子供ができてから妙は変ったようだ。

妙(みょう)に保守的で危険なことはしない。

専門家でもない修一が宇宙船を勉強して治した宇宙船である。

危険は数えきれなかった。

 修一と千と蓮は宇宙船G13号に乗り、司令室で動作チェックを繰返した。

一応、分子分解砲と遷移リング以外は正常に作動した。

航宙士の修一は宇宙船の主スイッチを入れることをためらったが意を決っしてノブを倒した。

十年ぶりに宇宙船は有り余るエネルギーを宇宙船の隅々に行き渡らせた。

修一は宇宙船を上昇させ重力遮断装置では動かすことができなくなるまで進め、粒子エンジンを作動させた。

粒子エンジンは独特な振動を宇宙船に伝えたが、安定すると静かになった。

 「見た目は異常なし。千、他の所で変なことはあるかい。」

「ありません、修一様。」

「よし、加速する。よーそろー。」

宇宙船は加速を開始し修一は自由に宇宙船を動かすことができた。

「千、火星まで行くよ。」

「了解。火星位置を入力しました。」

「OK。最初は出力半開。その後全開にする。」

「了解。前部モニター、今の所異常なし。」

 「やはり、出力全開はここでは止める。」

「防御板のことでしょうか。」

「そうなんだ。宇宙船が動かせることができるって分っていれば防御板をロボットの盾にはしなかったのにね。」

「ロボットは盾がなくても圧倒的に強いですからね。」

「コースを変える。惑星軌道面から垂直に進み太陽系から出る。一光日の位置で慣性飛行。」

「了解。」

 太陽から一光日の位置まで行くのに二日がかかった。

「出力全開。光速90%で遷移に入る。遷移一光日。」

「了解。異常なし。」

「さあ、遷移できるかな。後方と前方の画像確認。固定。船体回転。ゆっくり、ゆっくり。そこだ。ぴったり。1光年分の転移開始。」

 修一は操縦席に埋め込まれた赤いボタンをカバーを開けて押した。

ほとんど苦痛は生じなかった。

「千、星を観測して。どうだい。」

「1光年を正確に転移しております。成功です。」

 「よし、そのまま三光年の遷移を行う。船体反転。出力全開。光速90%で遷移する。あと10分。2分前に船体反転。」

「了解、自動遷移にしますか。」

「そうして、千。ホムスク星に帰るときには自動が必要だ。」

「了解。自動遷移に切り替え。遷移まで1分。」

「よし。行け。」

修一は安心して赤いボタンを押した。

死ぬほどの苦痛が修一と蓮に襲いかかった。

千は珍しくあわてて修一を介抱し、落ち着くと蓮を介抱した。

 苦痛が収まると修一は言った。

「こんな苦痛は無いはずなんだが。大距離を遷移してしまったのかい。」

「そのようです。周囲のモニターに映る星々は未知のパターンです。」

「宇宙の迷子になったかな。千、あの苦痛には耐えられなかったよ。あれくらいの苦痛はこの宇宙船の最大遷移距離での遷移だよ。1万光年かな。だとしたら銀河系からは出ていない。銀河系は十万光年以上だ。天の川は見えるかい。あれか。全周に星はある。天の川は太陽系の天の川よりはっきりしている。分った。おそらくここは外側の渦状腕だ。とんでもない所に来たな。千、銀河系の外観図を出して。太陽系から1万光年でサークルを描いて。そう、ここしかないだろ。天の川がはっきり見えて1万光年移動したのなら外側の渦状腕の先端しか無い。この辺りから見える天の川とめぼしい星の推定図が描けるかい。」

 「やってみます。電脳で描かせます。しばらくかかりそうです、修一様。」

「クルコルでも飲んで待とうか。」

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