第23話 23、男神修一と女神千 

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 修一はホムスク砦の周囲の人間部族を神に従わせた。

ホムスク砦の旗を防御板の薄板に彫り込み、ステンレス棒に取り付けて部族に配布した。

「この旗は神の部族の旗である。明後日の朝、この旗を掲げて十名の男達は森の端まで出よ。神の砦までの道を示す。他部族とは争ってはならぬ。」

旗は金色に輝いており、決して曲がらなかった。

旗のデザインは太陽系の絵で第五惑星は無くなって細かい点の集合になっていた。

 当日、十数グループが森の端に旗を掲げて現れた。

遠くにホムスク砦の石壁が見えたがそこまでは何の足跡も無い一面の雪原であった。

修一と千はフライヤーに乗って現れ、最初にホムスク砦の周囲を分子分解砲と熱線砲を使って雪を消し、地面を乾燥させた。

次にグループの前に行きグループの前の雪を分子分解で消し熱線で土を乾かしてホムスク砦までの道を作った

 全てのグループの前からホムスク砦への道ができると修一はグループに前進を命じた。

命令はヘッドフォンではなくヘッドフォンに繋げた大型のイメージ拡大機で伝えられた。

修一の言葉のイメージがグループの各人の脳の中で大声の命令として作り上げられた。

グループは胸まである雪原に作られた乾いた道を歩いてホムスク砦の石壁の前に集まった。

そこには他部族の男達も同じ旗を持って集まっていた。

 修一はフライヤーを石壁の中程に浮かべ、ドームを開けて千と共に立った。

「ワシは神じゃ。皆の者、跪(ひざまず)いて神の旗を立てよ。」

男達は跪き、前列の者は旗を立てた。

「よし。皆の者、良く聴け。ここに集まった部族は神の僕(しもべ)じゃ。神の旗を持っている。神の僕の間での争いは起こしてはならぬ。不満があれば神に申し出よ。神が裁定を下す。その道は先ほど作った。分ったか、分ったら旗を前に一度倒せ。」

全ての旗は前に倒された。

 その時、遠くから50羽ほどの翼竜が急速に近づいて来て急降下し、遠く離れた石壁の前の地に整列して降り立った。

人間グループは動揺したが動こうとはしなかった。強い神を信じていた。

修一は翼竜の群れを見つけ、その方向を見つめて言った。

「ワシは神じゃ。そこの翼竜の者達はクワーワーの部族か。クワーワーがそこにいたら神の前に現れよ。」

 一匹の翼竜が飛び立ち、フライヤーの前の地面に降りて頭を下げた。

「クワーワーか。神の呼びかけが聞こえたか。クワーワー、そち達にも神は危害を加えない。神の旗を与えよう。ここに取りに来い。」

翼竜はフライヤーに舞い上がり修一の前に降り、頭を下げた。

千は旗が付いたステンレス棒を翼竜の嘴にくわえさせた。

「よし、クワーワー、群れに戻れ。」

翼竜は後ろを向いてフライヤーから飛び降り羽ばたいて群れに戻った。

 フライヤーの前の人間達は驚いた。

神はあの恐ろしい翼竜も手なずけている。

人間にとって翼竜は恐竜よりもずっと恐ろしい存在だった。

組織的で、手が出ない空中から攻撃する。

 その時、森の端から咆哮が聞こえた。

巨大な恐竜が森の端に立っていた。

森の梢に届く高さだった。

「修一様、あの時の恐竜です。拡声器の声に応えて来たようです。」

千が耳元で囁いた。

「むむむ。弱ったな。ワシは神だ。そこの恐竜、わしの声が聞こえたら頭を下げて二回咆哮せよ。」

恐竜は頭を下げて恐ろしい声を出して二回咆哮した。

「今日は意図せず呼んで悪かった。この地から離れ、生活を楽しめ。」

恐竜は一瞬悲しそうな目をしたが、もと来た木立の道を足音を響かせて帰って行った。

 この頃になると森から続く雪原の中の乾いた道には多くの動物が集まっていた。

強い獣もいたし、その餌となる小動物もいた。

「皆の者、今日はこれで終わる。道にいる動物達はもとの暮しに戻れ。砦の前の人間達は通路の動物がいなくなったら村に戻れ。」

修一はフライヤーのドームを閉じて上空高くに登りそこに留まって下を眺めた。

道の動物がいなくなると人間は与えられた旗を掲げて森に戻った。

翼竜は皆がいなくなった後で編隊を組んで森に帰って行った。

中の一体は羽ばたきながら上空のフライヤーの方をしばらく見つめ『クワー』と甲高い声を発した。

修一の耳には「神様」と聞こえた。

 「修一、見ていたよ。凄いことをしたな。人間部族を従え、翼竜を従え、恐竜にも意思を伝え、多くの動物を集めた。いったいどうしたらああなるんだ。」

船長は修一が砦に戻ると出迎えて言った。

「僕もあんな風になるなんて思わなかったんです。第四惑星や第五惑星で使った通訳機を拡声器に繋いだらああなったんです。」

「通訳機って最初に蓮さんが被っていたヘッドフォンか。」

 「いいえ、あれは二代目なんです。最初の通訳機は千が作ってくれました。僕が発した言葉を僕の脳波イメージとして相手の脳に届けると、そのイメージに従って相手が自分の言葉で組立てるんです。だから言葉が違う相手でも同じ通訳機で会話が出来るんです。相手の言葉がたくさん集まると蓮さんが被っていた音から音への通訳機になるんです。今日は言葉の違う多くの部族の人々が大勢いたのでヘッドフォンを拡声器に繋いだんです。そうしたら出力が大きすぎてこの辺りの動物まで集まってしまったんです。翼竜や恐竜は知り合いでしたから駆けつけたのでしょう。」

 「お前は翼竜や恐竜に友達がいるのか。たまげたね。」

「たまたま一度出会っただけですよ。」

「それにしても、やったことは神の行為だぞ。争い合っている部族と恐竜と翼竜と多くの動物が殺し合い無しで一堂に集まるなんて神しかできんよ。」

「神の部族、ホムスク族ですね。」

「まあ、そうなったのは確かだがな。」

 各部族から派遣された十名の男達は部族に戻るとホムスク砦の前で起った奇跡を熱く語った。

全く分らない言葉を持つ別部族の男達にも同時に同じ言葉が語られたことは明らかだった。

それも耳からではなく脳の中で明瞭に語られた。

神を通せば他部族と話しが出来るわけだ。

神の声は翼竜にも恐竜にも通じた。

 あの恐ろしい動物も神の言葉に素直に従った。

道路を満たした動物達もいた。

ネズミもウサギも野豚もオオカミも熊も隣り合って遠くの神の方を見つめていた。

神が解散を命じた後でも目の前の獲物を襲うことはなかった。

部族の語りべは神の話しを次代を担う子供達に何度も語って聴かせた。

 部族間の諍(いさか)いの調停は千が行った。

不満を持つ部族の代表が神の旗を掲げてホムスク砦の石壁の前に立つと千は空から石壁の前に降りて来た。

「何用ですか。」

「女神様、調停をお願いします。」

「調停の内容を語れ。」

「隣の部族の男が私の部族の女を襲ってから殺しました。アナは裸で殺されておりました。」

「襲ったのが誰かは分るのか。」

「はい。一緒にいた女が男を見ております。その女は逃げて無事でした。」

「わかった。調停してやろう。その女はここにいるのか。」

「はい、後ろに控えております。」

 「女、前に出て来なさい。お前は男の顔を見たのか。」

「はい、神様。見ましただ。」

「想い出すのは辛いだろうが、男の顔を想い出しなさい。心に顔を描くのだ。」

「はい。神様。」

「分った。髭が生えていて左頬に傷がある男だな。」

「その通りでごぜえます。女神様。」

 「話は分った。お前達はうそをついていない。調停してやろう。男の首を持ってくれば満足か。」

「それで十分でございます。」

「よし、今日は帰れ。そして結果を待て。」

 石壁に来た者達が帰った後、千は件(くだん)の部族の集落上空に飛び、村の中央に降りて空中で浮かんだ。

「神です。皆の者、外に出て私の前に集まりなさい。」

おおきな声ではなかったが部族員全員の頭の中で明瞭に聞こえた。

五分もしないうちに集落の全員が千の前に集まり片膝を立てて顔を伏せた。

 「顔を上げよ。そち達の中に悪者がいる。隣の集落の娘を襲い、強姦して殺した。その男は死をもって罪を償(つぐ)わなければならない。自ら罪を認めれば苦痛を伴わない死を与える。そうでなければ苦痛を伴う死を与える。罪を認めた者は立て。」

だれも立たなかった。

「分った。犯人は苦痛を伴う死を選んだ。」

 一人の男が浮き上がり千の前に降ろされた。

「私は心が読める。犯人がお前であることは分った。申し開きがあるか。」

「わしゃあ、悪者じゃあねえ、神様。そんなことは知らねえ。おとといはこの場所にずっといただ。」

「お前の背中には娘の引っ搔き傷があるはずだ。」

「そんなことはねえ。気絶してからやっ。」

「どうした。気絶させてからやったのか。それにどうしておとといだと知っている。私はいつのことだとはまだ言ってないぞ。」

「くそ。」

 それがこの男の最後のまともな言葉だった。

男の体は空中に浮き、両手が捩じれて間接が破壊され皮でぶら下がった。

次に足首がねじれ間接が破壊され皮でぶら下がった。

次に両脚が捻られ大腿骨が破壊され両脚は皮でぶら下がった。

一滴の血も流れなかったが体中に内出血が起こりふくれあがった。

叫び続けている頭が何回も捻られ、首がねじ切れ、胴体は地上に落ちた。

男の声はその時には止んでいた。

 「処刑は終わった。首は殺された娘の両親に渡す。犯人の遺体は私が消す。」

千は首を浮かべたまま首の無い遺体の方に腕をさし向け、血糊で汚れた周辺の土と共に遺体を指先に仕込まれた分子分解銃で消した。

「終わった。住民は解散せよ。」

千は首を浮かべたまま上空に消えた。

男のねじ切られた首は夜の間に部族の広場に置かれていた。

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