第22話 22、神の部族
<< 22、神の部族 >>
修一と千がフライヤーでいつもの偵察をしていた時、ホムクス砦の雪原の周囲を囲んでいる森の端に五人の未開人を見つけた。
「修一様、やはり見つかってしまいましたね。」
「そうだな。どうするか見ていようか。」
未開人はしばらく砦を見ていたが、やがて森に消えて行った。
砦の周りの広大な雪原にはどこにも足跡が無かったのだ。
「後をつける。神は何でもお見通しになるためだ。」
「了解、神様。」
「千、千は女神(めがみ)だよ。僕は男神(おとこがみ)さ。」
「了解、男神の修一様。」
修一は森の樹冠上空にフライヤーを浮かべ、垣間見える男達の後をつけた。
男達は1時間ほど歩いて小川の流れている木がまばらな広場のような場所に戻った
広場には木と草で作った屋根だけの小屋が多数建っており、二本の小木に渡された棒には解体中の鹿が逆さに吊るされていた。
石で囲んだかまどの様なものがあり、それは暖をとるためでもあるのか、数本の薪がくべられ、煙を上げていた。
かまどの近くには三角屋根に覆われた多量の小枝や小木が積み上げられていた。
「火も使えて、料理もできて、狩猟もするみたいだね。皮を裂くのは石器かな。金属は見当たらないな。武器は石槍かな。千、ドームを閉じて降りてみようか。小川の上3mにする。」
「修一様、楽しそうですね。」
「圧倒的な力の差があるみたいだからね。僕はいやな性格だな。」
「昔の神様もそんな気持ちで未開人に接したのだと思います。」
「今はそれしか言えないのだけど、その『未開人』って言う呼び方は気に入らないね。早く集団の名前を知らなければ。」
「そう思います、修一様。」
フライヤーは静かに上空から降りて小川の上の空中に浮いた。
フライヤーはすぐに見つかり、小屋から男達が槍を持って飛び出して来た。
女達も近くにあった小石を集めて粗末な衣服の中に溜め込んだ。
幼児や子供は一つの小屋に連れて行かれその周りを槍を持った若い女達が囲んだ。
襲撃には慣れているらしい。
「たいしたものだな。慣れている。千、なるべく殺さないでね。」
「心得ております、修一様。」
修一はドームを前だけ開けフライヤーの芝生の床に立った。
千もその横に立った。
槍や石が飛んで来たら防がなければならない。
「ワシは神じゃ。頭(こうべ)を下げよ。」
集団に動揺が走った。
頭の中で言葉が聞こえる。
この部族で使われている言葉だ。
「聞こえなかったか。ワシは神じゃ。頭を下げよ。」
「おまえはだれだ。」
「今言ったのはお前か。しばらく逆さになっておれ。頭が下がるからな。」
その男は槍を構えたまま2m浮き上がり、回転して逆さ吊りになったまま浮いていた。
「ワシは神じゃ。頭を下げよ。」
「妖術使いめ、これを喰らえ。」
一人の男が槍を修一に向かって投げた。
手練の一投だったのであろう。
その槍は真直ぐに修一の顔に向かって飛んで来た。
槍は修一の3m前で消えた。
「槍を投げたのはお前か。神に逆らったお前は頭を下にしたまま死ぬ。」
男は20mまで持ち上げられ、逆さになり、頭を下にして河原の石に落下し、頭が体にめり込んだ状態で死んだ。
「ワシは神じゃ。頭を下げよ。」
皆は頭を下げた。
「よし。この部族の長は前に出よ。」
後ろにいた一人の老人が杖にすがって仲間をどかして前に出て来た。
「お前がこの部族の長か。わしの言葉がわかったら右手を挙げよ。」
長老はすがっていた杖を左手に持ち替え、右手を上げた。
「お前の名前は何と言う。」
「チチと言います。」
「チチと申すか。この部族の名前は何と言う。」
「チチ族と言います。」
「チチ族と言うのか。長老と同じ名前だな。チチ族の皆に言う。神はチチ族には危害を加えない。神に逆らわなければだ。わかったか。長老はわかったか。」
「わかりました。」
「よし。今日は帰る。チチ族はこれまで通りの生活を続けよ。長老はわかったか。」
「わかりました。」
「よし。逆さになった男は許してやる。以後は神に逆らうなと伝えよ。長老はわかったか。」
「わかりました。神様。」
修一はフライヤーを上昇させ、逆さになった男は元に戻って地上に降ろされた。
「これで未開人からチチ族に呼び名が変った。その方がいいね。」
「そう思います、修一様。」
二日後の偵察で修一と千は別の部族を見つけた。チチ族と反対の方向の森の中に集まって生活していた。
人数はチチ族の2倍ほどであった。
おそらく最近ここに来た部族らしく、住処を作っている最中だった。
武器は槍の他に小さな弓を持っていた。
「この部族は弓を持っている。戦いには強かったかもしれないな。人数が多いって言うことは強くて勝ち残ったってことだ。」
「そうですね。恐竜には不向きですが小動物には威力があります。日々の肉にはこと欠かさなかったと思われます。」
「また神様になる。」
「了解。素敵な男神、修一様。」
修一はフライヤーを広場の中央の3mに位置に浮かべて住民が集まるのを待った。
30分ほど経つと周囲を囲んでいた男達は寒くなり待ちくたびれた。
後ろの方で見ていたがっしりした大男が言った。
「弓を数本射てみろ。」
前列の三人が矢を放った。
鋭い石の鏃を付けた矢であったがフライヤーの外壁で鏃(やじり)は砕けた。
「よし、槍を1本投げろ。」
弓矢を構えた男の横の男が助走をつけて槍を投げた。
槍投げ具を使っている。
槍の穂先はフライヤーのドームで弾かれて後ろに飛んで行った。
「よし、もう一本投げろ。下だ。」
次の男の投げた槍の穂先はフライヤーの外壁で砕けた。
「まだ試さなければわからないのか。神を試してはならぬ。試した者は頭を下げよ。」
五人の男が空中10mに浮かび、回転して逆さになった。
逆さになった男達は声が出なかったが支える力が急に無くなって落下すると悲鳴をあげた。
落下は地上50㎝で止まり、男達は手を伸ばして地面に触ったが、体はまだ逆さのままだった。
「ワシは神じゃ。頭を下げよ。」
全員の頭の中に声が響いた。
修一はドームの前面を開けて姿を現した。
「ワシは神じゃ。頭を下げよ。」
「お前はだれだ。何をするつもりだ。」
先ほど仲間に指示した大男だった。
「ワシは神だ。お前はだれだ。」
「おれは不死身のフシだ。」
「不死身のフシと申すのか。そうか試してみよう。」
男は突然胸を押さえ痙攣して地面に仰向けに倒れ気を失った。
「不死身と言ったので試してみた。心臓を三秒間止めた。やがて目覚める。」
男は五分後に気が付いた。
事情を悟って修一の方を向いて跪(ひざまず)き、頭を下げた。
「不死身のフシ。不死身ではないようだな。」
「降参する。皆、武器を置いて跪け。降参する。」
「よし。不死身のフシ、二つ目の質問に答えよう。神に従え。神に逆らわない限りこの部族に危害は加えない。これまで通りの生活を送れ。分ったら右手を上げよ。」
大部分のものは右手を上げたが二名は上げなかった。
「今、神に逆らった二名の者。そち達は土に帰れ。」
二名の男は30mまで持ち上げられ絶叫と共に落下して土に帰った。
「ワシは神じゃ。不死身のフシ、この部族の名前は何という。」
「フシ族と言います。」
「フシ族の者、神に従え。従う者は手を下ろせ。」
全員が手を下ろした。
「よし、今日は帰る。フシ族はこれまでの生活を続けよ。」
修一はフライヤーのドームを閉じ、上空に消え去った。
ずっと向こうの山の裾野に大量の煙が立ちのぼっていた。
修一達が行って見ると粗末な小屋が10軒ほど燃えていた。
辺りには上着を着ていない男達の死体が転がっていた。
数人の子供達は裸で頭を割られて燃えている小屋に投げ込まれていた。
男女の老人も上着を取られて頭を割られていた。
十名ほどの若い女は全裸で脚を体の上に広げたまま喉を突かれていた。
強姦されてから殺されたらしい。
明らかに人間に襲撃された跡だった。
「これはひどいな。襲撃された直後だ。小さな集団だったらしいな。」
修一はフライヤーを広場に降ろして辺りを見回した。
「年上の子供の女は死体にはないですね。捕虜になったみたいです。おそらく衣服と食料と少女が戦利品なのでしょうね。」
「神様としたら介入するのだろうね。」
「神様も人間ですから。神様は感情で矛盾する行為をするものです。」
「襲撃者を捜す。どうするかはそのときに決める。皆殺しにしていると思っているから安心して動いているだろう。」
フライヤーを少し上昇させると怒鳴り声が前方の林から聞こえて来た。
少女五人に奪った衣服と干し肉を持たせて後ろから追い立てている十人ほどの男の集団がいた。
一人の少女が転んで持っていた干し肉を地面に散らしたので、槍を持った男が怒鳴りつけながら少女の小さな尻を蹴っていた。
少女は涙を流しながら四つ這いになって肉片を拾っていた。
修一はフライヤーを木立をよけて男達の前にとめ、ドームの前を開いて言った。
「神じゃ。跪(ひざまず)け。聞こえるか、前の者。神じゃ。神の前に跪け。」
男達は槍を構え近寄って来たが、途中から胸を掴んで痙攣し仰向けに倒れた。
「神を恐れぬ者は死ぬ。そこの女達。神じゃ。跪け。」
少女達は唖然としてフライヤーを見ていたが男達が倒れて手足を痙攣させているのを見て草むらに平伏した。
「娘達、ワシの言葉がわかるか。分ったら左手を上げよ。」
五人の少女のうちの四人は左手を上げ、一人が右手を上げた。
「そこの幼い女、そちはまだ右と左がわからないのか。仲間を見てみよ。」
少女は左右をみてからあわてて左手を上げた。
「わかればいい。手を下ろせ。そち達の村の者は前の男達に殺された。知っているか。」
「しっております。」
「そち達はこれからどうしたいのか。」
「わかりません。」
「五人だけで生きて行けるのか。」
「狩りに出ている五人の若い衆がそのうちに戻ると思います。」
「それはよかった。ここから村に戻れるのか。」
「たやすい事です。」
「それはよかった。ワシは神じゃ。村に帰れ。わかったか。わかったら頭を下げよ。」
娘達は額を地面につけた。
「よきかな。」
修一はそう言ってフライヤーのドームを閉じ、樹間をぬってから上空に飛び去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます