第21話 21、地球の人類
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当然、十人の新しく目覚めた乗組員は不満を言った。
船長は理由を述べたがなかなか納得を得られなかった。
修一は船長と修一が抱いた危惧を正直に話した。
「僕たちを信用しないとおっしゃるのですか。」
「まだお目にかかってからあまり長く話しをしたことがありません。信用しないのではなく信用して良いのかどうかが分らないのです。それに、現在、皆さんには仕事がありません。働かなくても生活できるのです。そのような状況はこの地にホムスク人の子孫を残すには好ましくない状況だと思いました。皆さんに子供ができてその子等にはホムスク人がこれまで積み上げた知識を伝えなければなりません。小学校や中学校や高校や大学を作らなければなりません。この砦の中の生活で得られる知識や両親が子供に教える知識は微々たるものです。そんな状況が数代続けば宇宙船の構造も、フライヤーの原理やこの砦を常春(とこはる)にしている原子電池の原理も忘れられていきます。故障したらその機械は終わりです。徐々に退化し、文明人から未開人になるのです。現在の便利な機械に過度に依存してはいけません。今の余力を利用して未来の発展に繋げることが大事だと考えました。」
「話と目的は分ります。でもそれは僕たちを信用していないことではないですか。」
「すみません。信用しておりません。今後、毎年20名の乗員を目覚めさせる予定です。千名の全員が目覚めるには50年がかかります。その頃には私も皆さんも老人になっております。皆さんの子供も成長しているでしょう。ホムスク族はいろいろな年齢の人間で構成されることになります。それがホムスク族をこの星で存続させることができる方法だと信じております。目覚めた者の中には搭載艇やフライヤーで外に飛び出したい者もいるでしょうし、人生に絶望してフライヤーの分子分解砲でこの町を一瞬で消滅させることを計画する者もいるかもしれません。そんな訳でフライヤーや宇宙船の使用を制限しました。」
「信用していないとはっきりおっしゃっていただいてありがとうございます。もっともな危惧だと思います。わかりました。従いましょう。生活を共にすれば次第に信用されるようになると思います。来年目覚める者も最初からそんなシステムになっていれば不満は生じないと思います。」
「ご理解いただきありがとうございます。」
これで新システムが始まった。
新しい住民は子供を作ることに力を注いだ。
五組の結婚式が同時に行われた。
子供が出来たとしてもこの砦では心配なく子供を育てることが出来ることは明らかであった。
水田や畑に建つハウスには穀物や野菜や果物が青々と育っていたからだ。
そんな中で船長と妙の間に男の子が生まれた。
千と蓮が妙の子供を妙の自宅で取り上げた。
千はお産に関しての十分な知識を持っており、蓮は初めての経験なので千の言う通り手伝った。
ホムスク砦の初めての男子誕生であった。
修一と千はロボット警察組織とロボット軍隊組織を作った。
警察官としては二体のロボットを任務に就かせた。
人口が少ない現状では警察組織は必要ではなかった。
警察官二体は町を巡回し、求められた助けを実行した。
頼まれれば重い物を運んだり、風で屋根に引っかかった物を取って来たりした。
頼み事がある人は巡回する時間が来ると家の前に出て援助を求めた。
ロボット警官は要請を断ることはなかった。
残りの48体のロボットは軍隊組織に組み入れた。
十体を一つの小隊として1体を小隊長として加えた。
小隊を統括する隊長を置き、司令官の命令を素早く小隊長に伝えることにした。
残りの三体は遊軍として司令部に待機させた。
船長に頼み込んで宇宙船から巨大な防御板を外し、分子分解銃で細分加工して兵士達の盾にした。
ロボットの表皮は防御板と同じ金属でできていたが、それは薄かった。
月の上で通信を行ったロボットは雨のように上から降りかかる第五惑星の大岩石で潰れてしまった。
銃弾は防ぐことはできても落下する大岩石は防げなかった。
盾をうまく組み合わせれば大岩にも対処できるはずだった。
丈夫な盾を持ち、なんでも消去できる銃を装備し、空中を自在に動くことが出来、分散して行動できる小隊を持つロボット軍隊は一応この惑星での最強の軍隊となった。
修一は自分用のフライヤーの外側に薄い防御板を張り表面を搭載艇と同じようにエッジ加工して暗黒にした。
ついでにロボットの盾もエッジ加工して暗黒にした。
宇宙船に積んであるロボットは千のように表皮を変えることが出来ず、金属光沢のままだったからだ。
盾を下にして高空を飛べば下からは黒いしみとしか見えない。
森に隠れれば樹間の黒は見つかりにくい。
ホムスク砦は赤道地帯にあり、そこは地球では一番暖かい所である。
多くの動物は暖かい赤道を求めて移動する。
恐竜はもちろん哺乳類動物も、そしてヒトも移動して来る。
ホムスク砦は集まって来た多くの動物を捕獲して家畜や家禽としていた。
修一は日常的に砦の周囲を偵察飛行していた。
偵察の仕事をロボットにさせることはなかった。
信用していない訳ではなかったが、自分の目で確認したかった。
その日、高空から下を観察していると下から何かに反射した光が届いた。
太陽の光は塵で弱まっているとはいえ、まともに見ることができないほど十分に強い。
その光は森の中から時々発した。
修一は下降し、雪を枝に乗せている木の間から下を見た。
人間だった。
尖った穂先の槍を持って荷物を積んだソリを引いている50人あまりの集団が森の雪道を黙って歩いていた。
きれいに磨かれた黒い穂先が光を反射したのかもしれなかった。
集団の方向は砦の方向ではなかった。
集団は山沿いに進んでいる。
山を越えて来たばかりなのか、あるいは山の方が獲物が多いと思っていたのか、あるいは雪原では動物に襲われた時には逃げ切れないと思っていたのかもしれなかった。
修一は驚いた。
恐竜の世界で人間がいた。
それも槍を持った人間だ。
修一は船長に人類発見を報告した後、偵察の範囲を広げた。
偵察の対象を人間に定めれば発見は容易になる。
別の人間の集団も二つ発見された。
それらの集団の人間も武器らしい物を持って黙々と歩いていた。
これまで地球の各地でおそらく密かに生活していた人間達が暖かい地域を目ざして移動して来ている。
これまで恐怖の対象であった恐竜が急に姿を見せなくなってきたのも危険な旅を決意させた要因の一つであったのかもしれない。
目的地には恐竜も暖かさを求めて集まって来ているだろうことは気にかけなかったのかもしれない。
それまで交流も無かった異なる人間集団が出会えば争いは避けられないだろう。
恐竜の恐怖を避けながらの人間同士の争いが始まる。
そしてホムスク砦が見つかるのは確実だ。
修一は砦に戻って詳細を船長に伝えた。
船長は夕食の後で人類発見を砦の皆に伝えて皆の意見を聞いた。
「と言う訳で、この星にはワシら以外の人間が住んでいることがわかった。彼らとどのようにつき合うかの意見を聞きたい。」
「我々は他の人間の助けを必要としない。おそらくだれも越えることのできない石壁で囲まれてもいる。人数も少ない。これから生まれる子供達にホムスク文明の知識を伝え、他の人間との関わりを断って生活すべきだ。」
「我々の原点は今は5組の夫婦で、来年は25組、再来年は45組の夫婦ができるかもしれない。そこには子供が出来る。子供達は子供達どうしで結婚する。宇宙船が千名の乗組員を乗船させたのは近親結婚による退化を防ぐための十分な人数だったのかもしれない。しかしながらそれはやはり限られた遺伝子プールでの交配になる。やはり、新しい血は必要だと思う。」
「それじゃあ、なに。未開人との間に子供を作るつもりなの。」
「いや、一般論だよ。子供達の話しさ。」
「我々は圧倒的な力を持っている。彼らを支配下においてしまったらどうだろう。別に彼らを働かすというものではない。必要ないから。皆を支配すれば部族間の争いはなくなる。調停者になればいい。」
「それで気に入った女の子がいたら子供でも作るわけ。」
「君もいい男がいたら近くに置いたらいいだろ。」
「どうも妙な雲行きになって来たな。千さん、千さんはどう思うかね。千さんなら中立の立場で考えることができるだろ。」
「修一様、発言してもよろしいでしょうか。」
「もちろん、いいさ。」
千はホムスク砦では特別の立場だった。
ロボットではあったが人間の姿形を採っている。
その高貴な美しさは砦の女性を何段も抜きん出ていた。
豊富な知識と深い洞察力があることは誰でも認めていた。
「人間が近くにいれば関わりは必ず生じて来ます。砦の周囲の人間はホムスク人を神と見るでしょう。神が卑劣な行いをすれば従いはしますが恐れ憎むでしょう。神が部族から離れていれば畏れ、敬い、喜んで従うでしょう。ホムスク人は神として彼らと交われば良いと思います。支配者ではなく神です。神としたらどう行動するかを考えながら未開人と接したら良いと思います。」
「千さんの意見はいつ聞いても説得力がある。そうしよう。支配者ではなく神か。いつもは引きこもっていて必要があれば出て行き圧倒的な力を示す神か。いいな。そうしよう。反対意見はあるか。」
反対はなかった。
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