第17話 17、狩猟生活
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「妙、今日の成果はどうだった。」
基地出入り口の滝の滝壺近くの河原にフライヤーを降ろした航宙士補に航宙士が言った。
「恐竜の子供1匹よ。」
「分子分解銃を使わないでかい。」
「もちろんよ。自作のパチンコで捕獲したわ。」
「自作のパチンコって何。」
「私のフライヤーを改造したの。あとでじっくりと見るといいわ。周りの柵に鉄棒二本を着けて鉄棒に船にあったゴムバンドを結んだの。ゴムバンドの真ん中に恐竜の革を通してそこに小石を置けるようにしたの。けっこう強力よ。大人の恐竜には通用しないけど子供なら気絶するわ。」
「なかなかやるな。」
「修一、そっちはどうだったの。」
「僕は小型恐竜1匹だ。」
「もちろん分子分解銃は使わなかったわよね。」
「もちろんさ。」
「どうやって捕まえたの。」
「僕は翼竜方式さ。大きな石をフライヤーに乗せて上から落とすんだ。ただ手で落とすんじゃあないよ。フライヤーにはちゃんと照準機と石置き台をつけてあるんだ。照準機は真下に照準されている。獲物が十字線に入ったら紐を引いて石を落とせばぴったり当る。今はフライヤーが動いていないのが条件だけど、次はフライヤーが動いている時にも狙えるように改良するつもりさ。」
「修一はいつも先を行くわね。」
「そんなことはないさ。僕の方式は森の中では役に立たない。木が邪魔するからね。森の中では妙の方式の方がいいよ。」
「そうね。私のフライヤーは戦闘機で修一のは爆撃機だわね。」
「そういうこと。基地には色々な種類の戦闘武器が必要だよ。」
「妙様、解体をお手伝いしましょうか。修一様の獲物は既に腑分けを終えました。」
「ありがとう、千さん。助かるわ。一緒にやろ。」
「了解。」
「僕も手伝うよ。」
「サンキュー、修一。」
三人は手早く子供の恐竜を解体し、臓物は川に流し、皮と骨は河原の置き場に捨てた。
まとまったら分子分解銃で消す予定だ。
肉は冷凍パックに詰め込んで河原の小屋に置いてある冷凍庫に入れた。
冷凍庫は原子電池で動いていた。
原子電池は物質の結合を変える化学電池と違い、物質自体を変える電池だ。
電池の本体は原子番号の大きな重原子で、原子核の中性子を陽子と電子に変化させて電子を取り出す。
原子番号の増えた原子は充電で元の元素に戻り二次電池が形成される。
原子電池の容量は莫大だ。
冷凍庫なら少なくとも1万年は使える。
もちろん充電にはとんでもない電力を必要とする。
宇宙船でしか充電できない。
「これで数日のタンパク質食料は確保できたわけだ。千、蓮さんの植物ハウスはどんな様子だい。」
「奮闘しているようでございます。滝壺から水を吸い上げ、高い位置の水桶に水を揚げる装置を製作しておりました。」
「蓮さんもなかなかやるな。それで野菜はできそうなのかい。」
「少なくともハウスの中では発芽して野菜は出来るようです。」
「そうか。それはよかった。温室を持たなかった未開人はどうやって野菜を食べていたんだろうね。千、想像できる。」
「いいえ、修一様。私は想像は苦手です。推測では周囲の草を食していたと思われますが草はおいしい物ではありません。従ってあまり食べなかったと思います。栄養に関する知識が無いので偏食となり、それで寿命が短かったのだと思われます。」
「千、それは想像ではないの。」
「いいえ、修一様。これは推測です。想像と推測は違います。想像は人間に独特な力だと思います。推定からはとても導け出せない事象を根拠に話しを造り出します。」
「とにかく千は凄いよ。」
「ありがとうございます。でも私から見ると修一様はずっと凄いと思います。」
「千はお世辞を言うんだ。」
「私の率直な感想を述べただけです、修一様。」
「修一、千さんて本当にロボットなの。今の会話を聞いていたら完全に人間同士の会話だわ。私のロボットとは全く違う。」
「それは分るよ。千は特別だ。僕の相棒だよ。」
地球の第三級基地を根城にしたホムスク人達の部落は活力に満ちていた。
とにかく楽しいのだ。
部落員の生活は狩猟生活なのだが部落員の後ろには何でも揃っている直径300mの大宇宙船が控えている。
この太陽系の端から端までの1光日を一瞬で遷移できる直径50mの搭載艇を1隻格納し、空中を自由に飛び回ることが出来るフライヤーを20台持っている。
航宙士と航宙士補の二人はフライヤーを使って狩りをして、肉を供給する。
第五惑星の女学生だった蓮は米や野菜や果物を供給する役割を担(にな)っていた。
船長は海を調査していた。
フライヤーを海面上空に浮かべ釣り糸を日がな一日垂らしていた。
時々魚が釣れる場合もあった。
「今日は皆さんにキャベツ食べてもらいたいと思います。」
蓮は宇宙船の食卓に山盛りのキャベツが盛られた皿を皆の前に並べた。
「このキャベツはハウスで初めて採れました。生で食べてもいい調味料をかけてもいい思います。」
蓮はホムスク語を話すようになっていた。
流暢ではなかったが、語彙は豊富であった。
通訳機を着け、ホムスク語で発音し、それが自分の耳にどんな第五惑星語に聞こえるかで正しい発音を覚えていった。
反対に、第五惑星語を発し、ヘッドフォンがどんなホムスク語を発するのかでホムスク語の語彙を増やしていた。
「蓮さんはホムスク語が話せるようになったんだね。上手だよ。」
「ありがとうございます。修一様。えーと通訳機のおかげです。」
「植物は元気に育っているかい。」
「はい、修一様。植物は元気の育っています。」
「それは『元気に』だよ。」
「はい、修一様。植物は元気に育っています。」
「それでいい。ハウスの仕事は辛(つら)いかい。」
「はい、修一様。ハウスの仕事は辛くはありません。重い物はロボットが持ってくれます。ロボットは役に立ちます。ロボットはハウスの仕事を楽にします。私は幸せで農作業をすることができます。」
「蓮さんはロボットに命令することが出来るようになったのかい。」
「はい、修一様。ロボットは言う通りに動きます。でも時々『意味がわかりません』と答えます。」
「ホムスク語の発音が上手になれば通じるよ。」
「私もそう思います。修一様。」
千と妙が肉が盛られた大皿を一つずつ持って来て食卓に並べた。
「はーい、皆さん。今日しとめた恐竜の子供の上肉よ。さっき味見したらけっこう美味しくできていた。千さんが持って来たのは修一がしとめた小型恐竜の肉よ。食べ比べて見てから感想を必ず言って。それによって今後の獲物を決めるわ。感想を述べない者は食うべからずよ。」
「了解、妙。でも、この前読んだ狩猟の本で、動物の死と細胞の死について書いてあった。動物はすぐに死ぬがその細胞はなかなか死なないんだって。細胞が死ぬまでには哺乳類では36時間ほどかかるみたいだ。肉の味も違ってくるみたいだよ。」
「そう言う意見が貴重なのよ、修一。今度、恐竜をしとめたら当日と、翌日と、翌々日に冷凍して同時に同じように調理するわ。みなさんはお毒味役よ。」
「あの、私も発言してもよろしいでしょうか、修一様。」
「もちろんいいよ。千は思った時にはいつでも発言してもいいよ。」
「ありがとうございます、修一様。私は調理している肉が皆さんに害を及ぼすのかどうかを判定できません。地球にいる動物はホムスク人にとっては未知の動物です。ホムスク星にも有害な毒を体内に持っている動物はたくさんおります。何人ものホムスク人の生命を奪って、有害な部位か安全な部位かをホムスク人は学んで来たのです。地球での動物の知識はほとんどありません。このように皆様が同時に同じ料理を食べることは全員が毒に当たって死んでしまう可能性があります。妙様が出来上がった料理を必ずつまみ食いなされるのは自らが毒味役をなされているのだと思います。妙様が危険です。私に提案がございます。犬を数匹、冷凍冬眠から起こしてはどうでしょうか。犬は狩りには役に立ちます。外部からの動物の侵入にも気が付きます。そして何よりも皆様のお毒味役になると思います。」
「千、すごいな。賢いよ。よく気が付いてくれた。全然考えてもいなかった。妙も毒味役サンキュー。」
「あら、私はそんな深慮でつまみ食いをしていた訳じゃあないわ。料理の味を見ていただけ。でも、千さんが言うのは正しいわ。私たちが知らない毒に当ったら全員が同時に死んでしまう。」
「ワシも千さんが言ったことはもっともだと思う。さっそく犬を番(つが)いで6匹くらい冷凍冬眠から起こそう。修一と妙は狩りに連れて行ったらいい。基地の番犬にも二匹残そう。いくらロボットが強くても人間がいきなり襲われたら防げないからな。蓮さんも気をつけてな。」
「はい、分りました。」
「そういえば犬は昔から狩猟生活では欠かせない存在だって狩猟の本にも書いてあった。」
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