第16話 16、地球のホムスク人 

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 基地の調査を終えると修一は搭載艇を地球の大気に浮かべた。

高度を300mにとって地上を観察した。

惨憺たる有様を想像していたが森は青々とあり、湖は澄み切っていた。

山の中には崩れた山もあったがほとんどの山は無傷であった。

海には海岸線にそって津波の跡もあったが内陸には津波の跡はなかった。

もともと恐竜達は海岸線をそれほど必要としなかったのだろう。

彼らの獲物は内陸にいるのだ。

恐竜の星は軽微な損害だけで岩石雨を乗り切ったようであった。

 「千、恐竜達は無事だったようだね。」

「そうみたいです。第五惑星の崩壊で脱出速度に達した岩石は質量の小さい物だったと思われます。爆発の力は同じですから物体質量が小さい物ほど速度は早くなります。今回の第五惑星崩壊では岩石集団の引力が最後まで働いておりましたから、崩壊前の引力とほとんど変らなかったのかもしれません。大きな岩石は元に戻ったと思われます。」

「そうだね。でもそれが悲劇の素になるのかもしれないよ。」

 「どうしてでございましょう、修一様。」

「小さな岩石は地球の大気で燃え尽きて地表には到達しない。でも燃え尽きたと言っても物は残るわけだろ。細かくなって落ちてこない塵になる。少量の岩石ならそれで終わりだが大量の岩石であれば無視できない量の塵が大気中に浮遊することになる。地上に落ちた岩石だって地上の土を細かく砕いて空気中に撒き散らすかもしれないが、厄介なのは何と言っても流れ星になって空中で燃え尽きた岩だよ。落ちて来ないし空の雲のようにある高さで塵の雲を作ることになる。もちろんそこが雲の高さより低ければ問題は生じない。雨でみんな落ちてしまう。この辺りの空気のようにね。でも塵は雨粒よりもずっと小さい。雨が出来るときの核が塵だからね。そんな小さな塵は雲よりもずっと高い位置で塵の層を作る。成層圏の上部辺りかな。重いからもう少し下かな。そうなったら太陽の光が地上まで届かなくなるだろ。そりゃあ、恐竜達は大変になるよ。塵の層の上は冷たい成層圏だ。塵を暖めた太陽の熱はすぐに宇宙に放射される。寒くなるだろ。植物は枯れ、雪が降る。餌の草食恐竜も餓死する。恐竜達も餓死だ。まずいことに逃げ場がない。赤道まで逃げてもそこも寒い。」

 「説得力ある説明だと思います。私もそう思うようになりました。ありがとうございます。」

「今は青々と元気な植物だが二年もすれば植生は変るよ。」

「どうなるのでしょうか。」

「小動物の世界になるだろうね。弱い太陽の光で育つ草を少量だけ食べて寒い場所で生きることが出来るのは体の小さい動物だけだ。それと知性のある動物かな。寒さは洞窟で防ぎ、動かないで効率よく小動物を捕食して生きることが出来る動物だね。翼竜辺りかな。」

「そうでした。翼竜には知性がありました。」

「そう言っていたね、千。」

「とにかくもう少し地表を観察しよう。」

「了解。」

 河に沿って内陸部に入ると山あいの谷で恐竜と翼竜の争いに出会った。

「知性の翼竜だよ。どんな戦いをするのだろう。少し眺めていよう。」

「了解。」

「千は手を出したらだめだよ。翼竜の心はどんなだい。」

「了解。翼竜は冷静ですね。リーダーの指令で動いているようです。」

 翼竜は恐竜の上空を編隊を組んで飛んでいたが1列になって次々に急降下し、恐竜の10mで水平飛行に移り、恐竜の頭の頭上を飛び越えて数十m先に着陸し、割れた石を掴んで再び上空に舞い上がった。

水平飛行に入る直前に脚に持っていた小石を離した。

石は連続的に恐竜の頭に当り、恐竜は怒りに燃えて上空を見た。

その時、間断無く落とされていた石の一つが恐竜の片目を潰した。

恐竜は咆哮をあげ首を左右に振ったが小さい手は恐ろしい目には届かなかった。

 その間も角が尖った石は間断無く恐竜の頭に落とされ続けていた。

恐竜がもう一度上空を見上げた時、石の一つが恐竜の残った目に突き刺さった。

恐竜はもう一度咆哮し、やみくもに前に駆け出した。

それでも翼竜の急降下爆撃は止まなかった。

恐竜は山肌に当り、方向を変えて再び走り出したが今度は絶壁に当り、再び方向を変えて駆け出し深い谷に落ちて行った。

 翼竜の集団は巨大な黒色の搭載艇に気が付き近づいて来た。

搭載艇の上空に展開し攻撃の態勢を取ったが、リーダーが発する鋭い声で攻撃態勢を解き、前方の空中に整然とならんで搭載艇を見ていたが、リーダーの鋭い声で急降下して樹間に消えた。

「まるで軍隊みたいだったね。連続した急降下爆撃だった。別に恐竜を食べたかったのではないね。まるで訓練だ。」

「たいした攻撃力ですね。」

「確かに知性は高いようだ。あれなら環境の変化に対応できるかもしれないね。」

 搭載艇は地球を十数回廻って地表の状況を画像に収めて母船に戻った。

「航宙士、修一はただいま偵察員と人体実験被験者としての決死の仕事を終えて帰艦しました。報告書は提出しません。収録した地表の画像と口頭の報告で終了したいと思います。」

「決死の仕事、ご苦労だった。報告を聞こう。」

「はい、先ず独立峰に作った第三級基地は無事でした。何者も入った形跡はなく、どこも損傷はありませんでした。地表の状況は撮影画像で説明致します。雲の下の大気は清浄でどこにも粉塵はありませんでした。地表を覆う樹木への損害は多少ありましたが問題になる規模ではありませんでした。海岸線には津波の跡が見られましたが海岸線近辺だけでした。海は収まっており前回訪れた時と同じ色をしておりましたが内部は観察しておりません。岩石群が襲来したとき何カ所で雲が膨らみましたから衝突があったことは間違いありませんが現在は癒えていると思われます。ここまでは好ましい結果です、今の状況では地表に降りるのに問題があるとは思えません。でも今後が問題です。搭載艇で気圏を通る時に塵の層を突き抜けました。かなり厚い層です。前回にはそのような層はありませんでしたからその層は流星となって燃え尽きた岩石の塵によって形成されたと推測しました。地表から見える太陽は黄色ではなく赤色に変っておりました。以上の事実から今後地球は冷えると思われます。太陽の光が塵の層で止められ、その熱は宇宙に放出されるからです。そこの大気密度は小さいので対流圏のような温室効果も期待されません。数年で植生は変わり、草食恐竜は死に肉食恐竜も死に至ると思われます、移住するなら現在の状況で判断せずに、それなりの予測を持って準備することが肝要だと思います。以上です。」

 「ご苦労だった。よく調べてくれた。それでどうしたらいいと思う、航宙士。」

「その点はまだ考えておりません。船長が考える課題です。」

「逃げたな、修一。」

「でも船長。我々の状況では地球に移住してホムスク族を作るしかありませんよ。」

「妙はどう思う。」

「私も地球への移住しか道はないと思います。問題は人数です。三人、いや四人では先が見えています。宇宙船の資源を食べ尽くしたとしても滅亡は明らかです。宇宙船に眠っている千名の男女を起こし、子孫を作り、ホムスク族としてこの地に根を生やさなければ死ぬ時に惨めな気分になると思います。眠っている乗組員の英知を集めれば宇宙船の修理も出来るかもしれません。我々四人だけでは50年後にはのたれ死にです。」

「そうかもしれんな。」

 「蓮さんはどう思う。」

「船長様、私のような者にも意見を述べる機会をあたえていただきありがとうございます。私は多くの人達の中で生活することを希望します。」

「そうか。ワシも眠っている乗員を起こして地球に移住するのが良いと思う。」

「千、千はどう思う。これは僕が千に聞いている質問だ。」

「分りました。私は全乗組員を眠りから起こすことは良くないと思います。」

「どうしてだい。」

 「先ず、食料問題です。宇宙船の食料は限られております。皆を起こす時は起こした人間の食料が確保されている状況になっている必要があります。そうでなければ食料をめぐって争いが生じます。同じ力を持った者同士の争いですから全員が死にます。次に修一様がご指摘したように状況が変わり植生は変ります。でも宇宙船にある種子がこの星の気候に適しているかどうかはわかりません。これまでの気候でしたら必ず種子は芽を出し食料を得ることができますがこの先の気候は正確には予測できません。ですから宇宙船の種子は育たない可能性があります。そんな状況で賭けに出るのは無謀だと思います。状況の変化を見極めた上で乗務員を起こすか否かを検討しても遅くはないと思われます。」

 「そうか、千の意見は説得力があるなあ。僕は主張を変えるよ。数年待ってから決めても問題はないと思う。しかも全員ではなく数人ずつ起こすべきだと思う。人数が少なければ説得が容易だし、先に起きた乗組員は状況を理解している長老の役目ができる。ホムスク族ができるとしてもそこには年寄りと若者が混在している部族がいいと思う。船長、どう思います。」

「そうだな。反論できないよ。全員起こしたら大混乱だ。ワシにも制御できんよ、殺しあいだ。」

「妙はどう思う。」

「食料のことを考えると状況を見極めた方がいいわね。私たちは若いのだし、数年待っても問題ないわ。」

「蓮さんはどうだい。」

「私は修一様の意見に従います。」

「よし、船長として決定する。今後数年はこのまま状況を見る。宇宙船は基地の近くの空中に浮遊させておく。しばらくは地表を観測して今後の状況を推測して行く。」

「了解、船長。」

皆は答えた。

 翌日、宇宙船は塵の層を通過して爽やかな香りが漂う清浄な地表近くに降りて来た。

乗組員は基地の中には入らず、宇宙船内でこれまで通り生活した。

違うのは毎日のように地球の地表近くまでフライヤーで降り、辺りを偵察することだった。

植物を採取して調理を試み、小動物を捕獲して食べることができるかどうかを試した。

宇宙船に保管されていた種子の一部を地表に作った畑に植え、成長を確認した。

そして今の状態だったらホムスク人はなんとか地表で生き延びることが出来るだろうことを確認した。

 基地は2500mの標高に位置している。

この高さまでには恐竜は登って来なかった。

翼竜もここまで上がって獲物を捕る必要も無かったのであろう。

いつも下の方の雲の下で捕食していた。

地球のホムスク人は次第に下方にそのテリトリーを広げて行った。

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