第13話 13、移住計画
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周りに付着していた岩石を取除いた後で宇宙船G13号はゆっくりと上昇し、地表上空十mまで上昇して停止した。
多数のロボットが船外に放出され外殻の亀裂を塞ぎ、防御板を可動できるようにした。
その他、修理できる所は全て修理したが、遷移装置と粒子エンジンと分子分解砲はどうしても修理できなかった。
装置内の交換部品は宇宙船に用意されていたが、本体自体の交換はできなかった。
それらは大きかったのだ。
ホムスク星に帰ることと外宇宙を飛ぶことと相手を攻撃すること以外は宇宙船は元にもどった。
惑星岩石の接近がないことが判ってから修一は搭載艇を宇宙船の搭載艇格納庫に入れた。
修一は操縦席を離れ、ヘッドフォンを着けてから心配そうに修一を見つめる蓮に言った。
「蓮さん、大丈夫だよ。みんないい人だ。そうだ蓮さんに通訳機をあげる。この宇宙船で話す言葉はホムスク語だ。通訳機があればみんなと会話ができる。」
修一は操縦席の後ろのテーブルの上に置いてあった電話の横にあったヘッドフォン型の通訳機を取り上げて調整してから蓮に渡した。
「これが通訳機だ。僕が蓮さんと電話で話す時に使ったものだよ。今、調整しなおしたからスピーカーから出る言語はホムスク語になる。使い方は簡単でヘッドフォンを頭に乗せるだけでいい。スイッチはない。電池は長持ちするからほとんど永久に使える。頭に着けてみて。」
蓮はヘッドフォンを着けた。
修一は脳に話すヘッドフォンを外して操縦席に置いてから言った。
「蓮さん、僕の声が聞こえるかい。」
「はい、明瞭に聞こえます。今度は耳から聞こえます。」
「OK。成功だ。蓮さんの声はヘッドフォンの繫ぎの部分から聞こえるよ。ホムスク語だ。しかもスピーカーから出る声は蓮さんの声だ。千、いい物を作ったね。」
「お褒めにいただきありがとうございます。蓮様、私の声も聞こえますか。」
「はい、千さんの声も明瞭に聞こえます。いろいろありがとうございました。」
「どういたしまして。」
「それから蓮さん、蓮さんに尻尾があることはしばらく隠しておいてください。第五惑星は既に無くなってしまったし、第五惑星の人達に尻尾があったことを知っても詮無きことです。」
「わかりました。修一様とだけの秘密です。」
修一は千と蓮を連れて搭載艇の底の気閘から出て宇宙船の司令室に入った。
船長と妙は操縦席から立って修一を迎えた。
「ただいま航宙士はモルモットと忍者と外交官と救助隊と、えーと、その他多数の役割を終えて帰艦しました。詳細な報告書は後ほどお渡しいたします。概要を申せば第五惑星は大気中には危険な病原菌はなく、支配生物はホムスク人と同じ外形を持つ人間で、文明の程度は観測から判るように自由な惑星間飛行にはまだ至らない程度でありましたが、ご存知のように第五惑星は惑星は岩石群に変りました。以上です。」
「ご苦労だった。ところで同道している二人の女性は誰かな。」
「手前はロボットの千で後ろは第五惑星での協力者で蓮さんです。」
「手前の美人がお前のロボットの千だって聞こえたがそうなのか。」
「そうです。現在は千の制作者の形態である初期設定の姿をしております。千、挨拶して。」
「了解しました、修一様。船長、私は修一様付きのロボットの千です。第五惑星での偵察活動に必要なため表面を金属光沢から現在の姿に形体を変えました。このような機能を持つ事はお分かりだったはずですが。」
「うむ、そうだった。色々な機能を持っているとあの方は説明されていた。」
「船長は帝都大学の千さんをご存知なのですか。」
「知っている。出発前に呼び出された。あの方はワシ等がとうてい近づくこともできない高貴なお方だ。だれも逆らえない。顔を見ただけでもいつの間にか消されている。それでワシは最後まで絶対に顔を見なかった。そうか、そんなお顔をなされていたのか。これまで見た事も無いほどの美人だったんだな。」
「別の人かなあ。千と同じ顔をしていたけど、そんな人ではなかった。帝都大学の千さんはとても優しかった。僕の生い立ちを色々と聞いて手作りのお菓子までいろいろ振る舞ってくれました。三時間ほど話をして帰り際には強く抱きしめてくれましたよ。柔らかくて暖かかった。」
「信じられないな。普通、面会は一分以内だと聞いている。別人かな。ところで、もう一人の女性はだれかな。協力者と言ったか。」
「第五惑星の大学生です。偵察活動で知り合いました。おそらく第五惑星唯一の生き残りです。蓮さん、船長に挨拶して下さい。」
「はい、修一様。船長様、私は蓮と申します。首都大学の三学年に在学しておりました。町で暴漢に襲われそうになった時に修一様に助けていただきました。惑星崩壊の前の大地震の時にも修一様に助けていただきました。よろしくお願い申し上げます。」
「うむ、この宇宙船の船長です。えーと、蓮さんはホムスク語が話せるのですか。」
「いいえ、会話は頭に載せている通訳機を通して話しております。修一様にいただきました。でもホムスク語を話せるように勉強します。」
「蓮さん、船長の隣の女性は航宙士補の妙だ。挨拶して。」
「はい、修一様。航宙士補の妙様、蓮と申します。宜しくお願い申し上げます。」
「妙です。修一とは長い付き合いです。よろしくね、蓮さん。」
「蓮さん、巨大な宇宙船なのだが乗員はこれだけだ。蓮さんの部屋が必要だね。船長、乗組員室の一つをあげてもいいですか。」
「いくらでも空いているからどこでも使っていい。だが修一と妙の部屋の近くにしろ。その方が便利だ。分らないこともあるだろう。」
「了解。千、部屋を決めてから女性の蓮さんに必要な調度を整えてくれないかい。」
「了解いたしました。蓮様の趣味に合わせます。」
数日後、宇宙船の乗員は今後の方針を検討した。
月は少しずつ惑星軌道を外れて太陽に近づいている。
月の表面に浮いている宇宙船は飛行できない。
宇宙船で生活するには問題はない。
「さて、宇宙地図作製の仕事の継続は不可能になった。今後どうするかだ。自由に話していい。」
「それでは私から。第三惑星に移住するのが適切と思います。第四惑星は知的種族が既におります。それに将来的に人類が住むには困難な状況になると思います。」
「そうだな。妙はどう思う。」
「修一と同意見です。このまま宇宙を漂流していたら本船に眠っている千人の男女はそのままです。彼らの望みは適切な星に移住するのが目的でした。第三惑星は適切な星だと思います。」
「そうだな。ワシもそう思う。宇宙地図作製の仕事は終わった。後は移住だけだ。」
「宇宙船を搭載艇で引っ張りますか。動かすことは出来ると思いますが。」
「それでもいいが、ワシはこの衛星の動きが気になっておる。少しずつ軌道を狭めている。この状態が続くと仮定して計算するとぴったり第三惑星と衝突することがわかった。信じ難い確率なのだがそうなった。後で修一もシミュレートして確認してくれ。そうなると第三惑星への移住は今ではなく第三惑星がどうなるか判った後になる。」
「そうでしたか。僕は。この月はてっきり太陽を廻る惑星になると思っておりました。」
「今、『月』と言ったか。」
「あっ、すみません。第五惑星では衛星のことを月と呼んでいたのです。ついでに言えば第一惑星から順に、水星、金星、白星、火星、地球、木星、土星、天王星、海王星と呼んでいました。そうだよね、蓮さん。」
「その通りです、修一様。」
「自分達の星は『星』とは言わないのだな。ホムスク星は一つだったから星だったが。わかった。今後この呼び名を使おう。第五惑星は無くなったのだから数字で呼ぶのは混乱する。それと、白星は第五惑星の名前を使って『地球』としよう。我々が住む星だから地球だ。どうかね、蓮さん。」
「地球の名前を残していただいてありがたく思います。そうなさって下さい。」
「修一と妙はどう思う。」
「異議無し。」
「同じく。」
「よし、決定だ。それで地球はどうなるかね。月が地球と衝突すれば共に破壊されるだろうな。そうなるならもう一度計画を立て直す。それと第五惑星の破片の動きが気になる。惑星が爆発した時、地球はこちら側にあった。えーと、火星と木星だったな。火星と木星は太陽の向こう側にあった。木星と火星と地球の周期はどうなってる、修一。」
「記憶では地球はホムスク星と同じで1年、火星は2年、木星は12年だったと思いますが、千、どうだった。」
「はい、修一様。1年と1・88年と11・86年でございます。」
「ふむ、岩石がいつ頃それらの星の軌道に近づくのかはすぐには計算できないな。今は遅いが太陽の引力で加速されたり減速されたりするだろうからな。丁度1年後に地球の軌道に達したら悲劇だな。よく想い出せないが月が地球に接近するのも1年後辺りでこちら側だったような気がする。」
「計算しておきます、船長。」
「頼む、航宙士。本船はしばらくこの状態を保つ。宇宙船は第五惑星の破片が飛んで来る方向の反対側に浮遊させておく。安全だ。」
「船長、情報はどうしましょうか。」
「航宙士補、ホムスク星への報告か。それは無理だろう。遷移が出来なければ宇宙船はホムスク星に帰還できない。」
「何とかならないでしょうか。例えば搭載艇はこの太陽系の巾の一光日程度は遷移出来ます。自動的に遷移するように改造することはできます。もちろん人間が乗ったら乗員は寿命で死にますが無人ならエネルギーは十分ありますからホムスク星まで行けるのではないでしょうか。」
「しかしな、妙。判り易いように搭載艇が1日に2740回遷移できたとしても1年で僅かに百万光年だ。百年で1億光年、百億光年進むには一万年かかる。その頃ホムスク星は1000万年経っている。その頃にはもっと短時間で行き来できるようになっているはずだ。」
「でも何か義務を果たせないような気がして。」
「諦(あきら)めることだ。」
「修一様、発言してよろしいでしょうか。」
「なんだい、千。千はこの会議の出席者だ。発言してもいいよ。まあ形式的には僕に向かって発言していることにするよ。」
「ありがとうございます、修一様。私の電脳メモリーの中に『超空間通信機』という項目が入っておりました。まだそれを勉強していないので詳細は不明ですが設計図も入っているようです。装置の材料が宇宙船の中にあるかどうかは分りませんが、あれば製作が可能です。そのファイルは異星人と出会った時のヘッドフォンについてのファイルの隣でした。異境での遠距離通信のためのファイルだと推測しました。」
「千のメモリーバンクの中には色々な物が入っているね。『超空間』か。どんな空間なんだろう。当然、電波より早く通信ができるのだろうね。考えてみればこの宇宙船の遷移だって電波よりも早く移動するんだから超空間を通るのだろうね。OK。簡単に出来るなら作ってみて、千。使う使わないは船長が決める。」
「了解いたしました。」
会議はそれで終わった。
修一と妙と蓮と千は乗務員室に戻り、船長は司令室に残ってパイプをくゆらせた。
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