第12話 12、宇宙船の救出 

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 月は惑星の中にゆっくり自転しながら次第にめり込み惑星の核に達した。

月は惑星の核に達しても自転の動きを止めなかった。

惑星の核を構成していた鉄のような重金属は月の表面の岩石と融合し月の重力中心を前方に次第に変えていった。

月の自転は月が地球の核に達した頃に止まった。

月の自転の莫大なエネルギーは月表面と接する惑星側にも解放され、惑星岩石は赤熱し、赤熱した岩石は月の表面に溶着していった。

 結局、月は球形を保ったまま惑星を貫通した。

第五惑星の核の重原子の多くが月の進行方向前面に局在的に取り込まれた後、溶融された周辺の惑星岩石を取り込んで月の表面は高い流動性を持つ溶岩の海になった。

月の重力は流動性のある溶岩の海を平らにし、月は球形になった。

月の質量は以前よりもずっと大きくなった。

 月に貫通された惑星はその核が崩壊し、星の重力中心を形成できなくなった。

惑星の自転はなお存在していたので惑星が持っていた莫大な自転のエネルギーは惑星岩石を自転方向に吹き飛ばすことに消費され消滅した。

四季のない第五惑星の自転軸は太陽軌道面に正確に直角であったので自転エネルギーをもらって飛ばされた岩石は惑星軌道面に広がった。

それらの岩石はもともと公転エネルギーを持っていたので多くは元の公転軌道に留まり、岩石帯を形成した。

 修一は第五惑星での動きが収まったようなので搭載艇を慎重に近づけていった。

搭載艇の方に飛んで来る岩石はほとんどなかった。

惑星の様子が観測できる距離に近づくにつれて月の衝突の様子が明らかになった。

原因となった月は既に惑星があった場所にはなかった。

第五惑星の公転軌道に沿って動いている。

その動きは次第に太陽の方に方向を変え、新たな軌道を作っているようであった。

どの位置まで太陽に近づくのかは現在の月が持つエネルギーに依存する。

月の遠心力が太陽の引力と同じになるまで近づけば月は新たな惑星になるのであろう。

 第五惑星も厖大(ぼうだい)な岩石の集団として存在し惑星軌道を動いていた。

もともと第五惑星の破壊は巨大な爆発を伴うものではなかった。

惑星の密度が小さく、地表では頻繁な地震があった。

惑星は内部が不安定で多数の亀裂構造を持っていたのかもしれない。

巨大な硬い衛星が脆弱な惑星に衝突した時、惑星は容易に崩壊したのかもしれない。

爆発は起らずに分解したのだ。

惑星自体が容易に分解したので衝突した月は破壊されなかったのかもしれない。

『月の衝突』とはいっても原因は惑星にあったのかもしれなかった。

 第五惑星の岩石集団は次第に惑星軌道に沿って広がっていた。

岩石の持つ速度の違いで次第に拡散して行くのであろう。

岩石同士の衝突もあり得る。

月は岩石群から先を進んでいた。

月の周囲には既に岩石はなく、全ての岩石は月の表面に落ちていた。

岩石の下は赤黒く冷えつつある溶岩でそこに多数の岩石が溶けない島を作っていた。

 修一は搭載艇を月に近づけ表面を観測した。

「千、宇宙船の位置はわかるのだろうか。」

「いずれ分ると思いますが今は困難です。月は何千㎞と大きく、宇宙船は僅か300mほどですから。それに今は自転しておりませんから見当がつきません。現在、重力分布を調査しております。月は自転軸を前にして惑星を貫通したようですから惑星核の重金属を大量に地殻に埋め込んでいるはずです。ですから重力中心の反対側に宇宙船が埋まっている蓋然性が高いと思われます。そうでなければ生き残っているはずはありません。」

 「惑星のコアを表面に埋め込んで重力偏心が起った球形の星か。珍しい星になるね。」

「そう思います、修一様。」

「月の状態は落ち着いている。もうすぐ地表は冷える。そうすれば宇宙船から地表までロボットが穴を開けるだろう。」

「乗員が生きていればです。修一様。」

「千、搭載艇を重力中心の反対側の上空10㎞に移動し待機する。」

「了解。」

 宇宙船G13号の中は重苦しい雰囲気になっていた。

周囲は岩石で囲まれ身動きがとれない。

周囲の岩石は不安定な状態を解消するため少しずつ動いていた。

周囲の岩石は宇宙船を圧迫しつつあった。

「船長、どうしたらいいのでしょう。周りの岩が宇宙船を潰そうとしております。」

「妙、どうもできんよ。ロボット1体に上部への穴を掘らしたが途中からは溶岩だった。溶岩が冷えるまではどうにもできない。」

「でもそれには時間がかかります。それに溶岩が冷えれば収縮しますから宇宙船への土圧は増加していきます。早く何らかの手を打たねばなりません。」

 「何もできんよ。それより今のうちに二人で楽しんでおこうか。」

「いやです。もうしたくはありません。こんなことになった原因ですから。修一に申し訳なくて。」

「そう言わずに楽しもう、妙。」

「いやです。船長とはもうしません。そうだ、修一は地表地殻にいるはずです。岩石の落下音がしなくなったので地表は収まっているはずです。修一は宇宙船の位置が分らないから何も出来ないのです。位置を知らせる何らかの合図を送ればいいのです。派手な合図です。」

 「どんな合図だ。」

「この宇宙船で合図に使えるのは核爆弾だと思います。トンネルを掘って溶岩の下で爆発させれば溶岩は柔らかいから吹き上がると思います。それなら修一は気が付くと思います。」

「核爆弾だと。宇宙船が潰れるだろう。」

「トンネルを塞いでおけばトンネルからの圧力は来ないと思います。宇宙船の周囲は岩石が守っています。それにこのままでも宇宙船は潰れますから。」

「いいかもしれんな。とにかく修一に宇宙船の位置を知らさなければ助からん。」

 船長は三体のロボットに小型の核爆弾を持たせ、数百mのトンネルを溶岩の下まで掘らせて爆弾を設置させ、時限装置を起動させた。

ロボット達は大急ぎでトンネルを埋め戻しながら宇宙船に戻って来た。

ロボットにも身を守る基本ソフトは入っている。

船長はいやがる妙をベッドで後ろから抱きながら結果を待った。

爆風が宇宙船まで届いたら死ぬしかなかったから。

そして核爆弾は予定の時刻に爆発した。

 核爆発は千が見つけた。

「修一様、宇宙船の位置が判りました。核爆発です。前方の地表で溶岩が円形に吹き飛ばされております。あれは明らかに地下での核爆発です。」

「そうか、地表が落ち着いたので僕がここにいることを予想して合図を送ったな。位置を知らせる合図だ。宇宙船の近くで爆発はさせないから宇宙船から数百mから1㎞離して爆発させているはずだ。あの穴の周囲1㎞以内に宇宙船があって乗員はまだ生きているってことだ。」

「そう思います、修一様。」

 「千、宇宙船を救い出す。最初は穴を中心に半径1㎞、深さ10mで溶岩を消去。次に半径500m、深さ10mで溶岩を消去。その後、様子を見る。周辺の溶岩が迫って来たらその分を消去する。ここらの溶岩は玄武岩タイプだから流動性は少ない。冷えて来ているし、ほとんど動かないだろう。」

「了解、実行します。」

溶岩の消去は短時間で完了した。

周囲からの溶岩の移動はほとんどなかった。

切り取られた表面は宇宙の冷気で急速に冷えて黒くなっていった。

 「OK。次は半径300mで深さ1mだ。以後、溶岩が岩石に変るまで続ける。」

「了解しました。修一様。」

溶岩の層は表層30mで岩石に変った。

「OK。岩石層に達した。千、中心から伸びるトンネルはないか。」

「見つけました、修一様。埋め戻されたトンネルがあります。斜め下に向かっております。」

「いいね。これからは慎重にやらないと宇宙船を消してしまう。千、ロボット数体を地表に降ろし、トンネル跡に沿ってトンネルを掘らせる。必ず宇宙船の気閘(エアロック)に達するはずだ。」

「了解。」

 地上に降りたロボットはトンネルを広げて進み、宇宙船の外殻に達した。

「千、宇宙船は球形だ。気閘のある位置も判る。防御板も出ているはずだ。どこまで消去すればいいか判るか。」

「判ります。後は容易です。その前に宇宙船を中心に円形に溶岩を消去させておきます。それから宇宙船の周囲の岩石を消去します。それで宇宙船への土圧は無くなります。通信も確立します。」

「了解、やって。」

 全てが終わってから修一はおもむろに、少し威張って通信を開始した。

「あーあ、宇宙船G13号、こちら搭載艇の修一。あー、まだ生存者があれば返答せよ。」

「こちら宇宙船G13号。船長だ。良く来てくれた。」

「生きておりましたか、船長。宇宙船周囲の岩石は消去しました。ロボットを出して宇宙船に付着している岩石を消してくれませんか。」

「了解。今する。」

「妙もまだ生きているかい。」

「まだしぶとく生きているわ。助けに来てくれてありがとう、修一。」

 「どういたしまして。船長、宇宙船は自力で飛べますか。」

「航行不能だ。船体に亀裂が入って特定の部屋以外は真空状態だ。」

「了解。それなら穴塞ぎは宇宙空間がいいですね。浮遊できますか。衛星の重力があるので浮遊できれば動くことは可能です。」

「今確認した。浮遊は可能だ。」

「了解。周囲モニターは無事ですか。」

「今、外部の様子が映るようになった。全部生きている。」

 「了解。宇宙船が地表に浮遊して外壁の亀裂を修理できるようになるまで周囲の溶岩の流入を阻止しております。宇宙船が地表に浮かんだら、その後は第五惑星の岩石の衝突を防いでおります。」

「了解。助かった。ありがとう、修一。」

「どういたしまして。これで安心してクルコルを飲むことができます。以上。」

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