第11話 11、第五惑星の崩壊 

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 母船の船長はそのとき裸でベッドで眠っていた。

母船の航宙士補も船長の横で全裸で眠っていた。

船長は修一が第三惑星で1ヶ月過ごしている間に妙との性的関係を持った。

妙は修一が好きだったので最初は抵抗したが船長は強引に関係を作り上げた。

 それ以後、船長は毎夜のように妙を抱いた。

妙はいつしかそんな関係が当然と思うようになった。

修一が第三惑星から帰ってからも船長との関係を修一に告白することはなかった。

船長は妙との性交を楽しむときにはロボットに何があっても干渉しないように命令してあった。

それで搭載艇からの緊急信号も船長には知らされなかった。

 月は第五惑星の地球に自転軸を地球に向けて回転しながらめり込んで行った。

もともと地球は大きい割に重力は小さく、星の密度は月よりも小さかった。

月が地球の内部に半分程入り込むと地球は爆発的に四散した。地球内部のマグマは四方に吹き出したが脱出速度を越えない物は再び地球と月に降り注いだ。

地球と月が合わさったために引力は前よりも強くなっていた。

いったん宇宙に吹き飛ばされた溶けた岩石は再び落下し、宇宙船G13号の周囲に降り注ぎ宇宙船を岩石の中に閉じ込めていった。

 船長は異常な音に目を覚まし衣服を羽織って司令室に入ったが司令室の周囲のモニターは焦点を会わせることができない状態で真っ暗だった。

「いったいどうしたんだ。」

船長は司令室のロボットに怒鳴った。

「第五惑星に衛星が衝突し第五惑星は崩壊しました。破片が本船を月の土中に埋めました。」

「なんだと。どうしてわしに知らせなかった。」

「何があっても干渉するなと命令されておりました。」

 「むむむっ。搭載艇は、修一はどうなった。」

「衛星が惑星に急接近している時に緊急信号が入りました。ご無事のようです。」

「宇宙船の損害はどうだ。」

「遷移装置が破壊されました。分子分解砲が破壊されました。粒子エンジンが破壊されました。外部モニターは見えません。搭載艇の格納庫の扉が破壊されました。船体に亀裂が生じております。その他、軽微な損害が多数生じております。」

「要するに、今は見えないし飛べないし動けないということか。」

「その通りです。さらにやがて惑星が粉砕されれば外は真空になりますから船内空気は外部に漏れることになると思われます。」

 「気閘の外扉と内扉は作動するのか。」

「外扉は作動しませんが、内扉は開閉できます。」

「船体の亀裂は内側から塞ぐことができるのか。」

「完全にはできません。多くの装置が外殻に接しております。」

「外からは塞ぐことが出来るのか。」

「完全には復旧できません。亀裂に詰め物をすれば応急処置ができます。」

「とりあえず空気だな。亀裂の箇所は分るのか。」

「見える所は分ります。それ以外は分りません。」

 「防御板はどうなっている。」

「熱い岩石が固着していると思われます。動かすことが出来ません。」

「無理に動かそうとはするな。」

「了解しました。」

「熱い岩石が固着していると言うことは周囲の岩石は頑丈なのか。」

「分りません。宇宙船の周囲の岩石を除けば崩落か再配置が起る可能性があります。」

「そうか。岩石を溶融して強化させてもこの宇宙船の規模だと耐えきれないな。」

 「どうしましたか、船長。」

妙が服を着て司令室に入って来た。

「衛星が惑星に衝突したようだ。衛星表面に浮遊させていた宇宙船は惑星の岩石で埋まってしまった。」

「ロボットは危険を察知しなかったのですか。」

「察知したがワシが干渉を禁止していた。修一からの緊急信号も入ったのだが、それも報告されなかった。」

「修一は無事なのですか。」

「緊急信号を発する余裕があったのだから無事だろう。」

 「良かった。それで宇宙船は損傷を受けたのですか。」

「飛べないし、外殻に亀裂が入っている。とても宇宙に出ることはできない状況だ。」

「外の状況が判らないと対処ができないですね。」

「何かいい方法があるか。」

「分りません。何をするにしても最初に外殻の亀裂を修理することが重要だと思います。」

「ワシもそう思った。だがいい方法が見つからない。ロボットに周囲の岩を消して亀裂箇所に辿(たど)り着いて修理させてもトンネルはすぐに周囲の圧力で潰されるかもしれない。どうしたらいいと思う。」

 「修一には連絡が取れるのでしょうか。連絡が取れれば修一は我々が生きていることが分ります。そうすれば救出の方法を考えてくれると思います。」

「ナビゲーター、搭載艇と連絡は取れるのか。」

「連絡は取れません。通常は搭載艇とは常に位置情報を自動的に交換しております。そのやり取りも本船が岩石に埋まった後は出来なくなりました。」

「船長、やはり何とかして修一に連絡するべきだと思います。搭載艇であれば本船の上の岩石を分子分解砲で簡単に消すことができます。そうすれば危険でしょうが宇宙空間に出ることができます。宇宙空間に出れば外壁の修理ができます。その間は宇宙服を着て過ごせばいいと思います。」

 「どうやって連絡する。」

「ロボット二体に通信装置を持たせて真上にトンネルを掘らせて地表に出させたらどうでしょうか。小さな円形の穴ですから崩落の可能性は少ないと思います。」

「穴が開いたら宇宙船の空気は無くなる。宇宙服生活になるな。」

「しかたがありません。この操縦室は無事みたいです。そうなったらこの部屋と隣接する無事な室だけを与圧させたらどうでしょう。エアロックになります。」

「それしかないか。そうしよう。」

 二体のロボットは気閘の外扉を丁寧に外し、外扉を押している岩石を分子分解銃で消した。

次に変調波を赤外に変えて周囲の岩を赤熱させて固めた。

しばらく掘り進んでから真上に穴を掘り進み、ようやく岩石で覆われた地表に出た。

上空からは大岩がなお降り注いでいた。

1体のロボットが通信機を設置し、もう1体のロボットは降り注ぐ岩を上空で消し続けた。

「通信装置の設置は完了しました。しかしながら、岩石が間断なく降り注いでおります。通信装置に当りそうな岩石を消去し続けております。ここを離れると通信機は破壊されます。どうしましょうか。」

「今、通信を送る。その位置に留(とど)まり通信機の破壊を防げ。」

「了解しました。」

 「宇宙船G13号搭載艇、応答せよ。こちら母船。修一、応答せよ。繰返す。宇宙船G13号搭載艇、応答せよ。こちら母船。修一、応答せよ。」

返事は5分後に入って来た。

「こちら搭載艇の修一。ご無事でしたか。今は第五惑星から太陽と反対側の1光分の位置におります。従って応答の一回を長くします。ここにいるのは惑星の爆発を避けるためです。母船はどんな状況にありますか。衛星が惑星に衝突しようとしていたのに母船に動きはありませんでした。緊急信号は発したのですが母船に反応はありませんでした。それで危険を回避しました。どうぞ。」

「宇宙船は現在衛星の表面で岩石に覆われて逃避不能の状況にある。岩石に穴を開けてようやく通信を確立した。現在は岩石がまだ降り注いでいるので救出はできない。岩石の落下が収まったら分子分解砲で上部の岩を消して救出してほしい。それまでがんばって生き残る。どうぞ。」

 再び五分後に連絡が入った。

「こちら搭載艇の修一。宇宙船の状況は分りました。動きが収まったら救出する予定です。現在、母船のいる衛星は自転しながら惑星にめり込んでいっている状態です。自転軸を惑星に向けております。惑星の爆発はありませんでした。惑星の崩壊です。惑星の自転エネルギーは惑星崩壊に使われたのかもしれません。衛星はまだ崩壊してはおりません。従いまして衛星の自転のエネルギーは接触部で消費され岩石を溶解するはずです。宇宙船周囲はマグマに覆われるかもしれません。幸運ならマグマは宇宙船の上部の岩石だけで済むかもしれません。自転のエネルギー次第です。妙は無事でしょうか。どうぞ。」

「こちら、妙。修一、無事よ。救助に危険なことをしないでね。」

母船では修一からの「了解」の返事を聞くことはできなかった。

巨大な岩石が降って来て二体のロボットと通信機を押しつぶしたからだった。

 「千、母船は大きな損傷を受けている。宇宙船G13号がまともだったらどんなに岩に閉じ込められても、たとえ溶岩に閉じ込められたとしても分子分解砲で簡単に脱出できるはずだ。惑星も簡単に消す事ができるんだから。なんでそんなドジを踏んだんだろう。」

「分りません。でも人的被害はないようですから一安心です。」

「そうだね、千。でも僕らはおそらくホムスク星には帰ることができなくなった。にげることが出来ないのだから母船は星間飛行もできなくなっているのだろう。我々はこの星系で生きて行かなければならなくなった。幸い母船には千人の男女が眠っている。生活できる星があれば搭載艇でその星に皆を運ぶことができる。冬眠をうまく回復できればね。」

 「その星は第三惑星ですね、修一様。」

「そうだ。第四惑星は既に文明を築いている人類がいる。移住は無理だ。第三惑星しかない。島のような場所を見つけて恐竜を排除すれば、そして翼竜の襲撃を防げば生活はできる。」

「翼竜は大丈夫です、修一様。彼らはとても賢い生物です。形体で判断してはいけません。彼らは人間と同じような心を持っております。私には彼らの心の色が見えるのです。知性があります。普通の動物とは違います。」

「それで千が分子分解銃で翼を切った後は襲って来なかったんだね。」

「そうだと思います。」

 「それにしても第五惑星はどうなるんだろう。」

「今は成り行きを見守るだけだと思います。」

「そうだね。今は宇宙船の救出は無理だ。危険過ぎる。それにしても船長も妙もなんてドジをしたんだ。対応できる時間は十分にあったはずなのに。」

「修一様はこれで『ドジ』という言葉を二度使いました。お気持ちは分ります。」

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