第10話 10、第五惑星の大地震 

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 週毎の逢瀬(おうせ)を続け、修一は蓮を愛(いとお)しいと思うようになった。

二人の間に子孫を残すことはおそらく出来ない。

それでも若い二人は初めての性交の歓喜に飽くことはなかった。

 100日あまりの時が経ち、第五惑星の情報は十分に集まった。

対面しないで音声として会話できる通訳機も出来上がった

修一は母船に帰らなければならなかった。

修一は蓮に電話をかけ、出来上がったばかりの通訳機を通してこの星を去らねばならないことを伝えた。

 蓮は別れを悲しんだが、それは最初から分っていたことであった。

二人には別れの朝はなかった。

修一は二人の愛の巣のキャンピングカーと四輪駆動車はそのまま放置しておくことにした。

蓮には予備の鍵を渡してある。

 その日、夜になって搭載艇を月の裏の宇宙船G13号に帰投させようと修一が搭載艇の操縦桿を握ったまさにその時、下の方で閃光が光った。

下を見ると大地が揺れていた。

まだ消えていない町の灯りが大きく揺れている。

眼下の空中では雷の放電が連続的に起っていた。

その規模は見渡す限りの広い範囲で起っていた。

町の灯りはすぐに消え、道路を走っていた自動車のヘッドライトの帯はうねっていた。

道路がねじ曲っているようだった。

 「千、大地震だ。気にかけていることが起った。帰投中止。蓮が生きているなら助ける。」

「了解しました。搭載艇を降下させますか。」

「地上千mまで降下。それから第四基地の上空30mに移動して浮遊する。出来れば放電域にいたくはないが電撃を喰らっても搭載艇なら大丈夫だろう。放電域はもう少し上だ。」

「了解。地震雷の放電域以下ですが地震では落雷になりますから注意が必要です。」

「了解。急降下。」

修一は搭載艇をキャンピングカーの上空30mに浮遊させた。

 「千、電話は通じないだろうね。」

「やってみます。」

電話はやはり通じなかった。

「道路がねじ曲がっているのだ。電話は通じないだろうな。」

「フライヤーの準備をしておきます。」

「それからビーコンの発信位置を特定する準備をしておいて。ビーコンシグナルが入ったら、そこにフライヤーで急行する。」

「了解。」

 暫く何も起らなかった。

下のアッチラ山駐車場は夜だったので自動車はほとんどなかった。

休憩の小屋は倒壊しており、水道水が縦栓の根元から吹き出しており、駐車場には大きな亀裂が走っていた。

その時、再び地震が起こり、駐車場は入口と奥の方向に2mほど急速に揺れ、道路と入口の間に深い裂け目が生じた。

搭載艇は浮遊していたので地面が動くのがよく見えたし、キャンピングカーと四輪駆動車はその横揺れにも耐えてまだ立っていた。

 「千、フライヤーで蓮のマンションに行ってみるよ。」

「修一様、それは危険だと思います。」

「でもマンションが潰れていたら助けなければ。」

その時ビーコンのシグナルが入った。

驚いたことに発信場所は駐車場の入口の数十m先からだった。

「蓮様はすぐそこです。私がお連れします。」

千は修一の言葉を聞かずに搭載艇の気閘(エアロック)から飛び出し、駐車場の入口から100m先の地面の亀裂の中の連の自動車を見つけた。

自動車は頭から亀裂に落ち込み、車のドアは上から落ちて来た岩で塞がれていた。

亀裂は次第と閉じているようであった。

 千は自動車の後ろの窓を叩き、蓮に言った。

「蓮様、千です。お助けに来ました。最初に安全ベルトを外して下さい。自動車の後部を消して蓮様を持ち上げますから逆らわないようにして下さい。分りましたか。」

「ありがとう、千さん。安全ベルトはさっき外しました。」

「了解、ちょっと待っていてください。」

千は車の横に浮遊し車の後部を華奢な指先に仕込まれた分子分解銃で一瞬のうちに消し去った。

「今、後ろを消しました。蓮様を持ち上げますので怖がらないで下さい。」

千はテレキネシスで蓮を持ち上げ、そのまま亀裂の上まで運び亀裂の外に移動した。

「蓮様、自動車に貴重品はありますか。もう少し経つとあの亀裂は閉じて盛り上がります。」

「貴重品はありません。」

「了解。」

 千は蓮を空中に浮かべたまま移動し、地上から数十m上空にある搭載艇の気閘の中に入れてから連を床に降ろした。

「ここは搭載艇の内部です。操縦室で修一様がお待ちになっております。」

「千さん、助けてくれてありがとう。地面に潰される所でした。」

「蓮様がビーコンのボタンを押したから位置が分りました。」

「そうでしたか。死を覚悟して、死ぬ前にもう一度お会いしたいと思って押しました。」

「蓮様は我々とは縁(えにし)があったのですね。」

 操縦室に二人が入ると操縦席の修一は安堵の表情を見せた。

「千、操縦を代って。」

「了解しました、修一様。」

千がもう一つの操縦席に着くと修一は立ち上がり、蓮を抱きしめた。

「無事でよかった、蓮さん。」

「おかげで助かりました、修一様。」

「相当大きい地震だったようだね。上空から見ると大地が揺れて道路は曲がっていた。」

 「それでも私は幸運だったようです。マンションに居たら倒壊して埋まっておりました。山の道路から町を見たらほとんどの建物は崩壊していました。地震が多いので相当頑丈に作ってあったのです。これまでの地震ではびくともしませんでした。今回の地震は桁違いに大きかったと思います。」

「どうして山に来ようとしたのですか。」

「修一様との思い出がつまったキャンピングカーの横で夜空を眺めようと思って山に向かっておりました。」

 「修一様、また大きな地震が起きました。見て下さい。町が陥没して地面に飲み込まれています。」

おおきな月の反射を受けて町の様子が前部のモニターに映し出された。

修一達がいる山から町の方に向けて地面に数本の大きな裂け目が生じ、裂け目に囲まれた部分は陥没して地中に飲み込まれて消えた。

後は月光が反射しない黒々とした巨大な裂け目が見えるだけだった。

背後から突然轟音が響き、搭載艇は少し震えた。

後ろの山が地中に陥没してなくなって行く様子が背後のモニターに映し出されていた。

 「修一様、ここは危険です。星全体が外側から内側に向かって収縮しているようです。このままでは星の内部の圧力が高まります。いずれ逆作用が起こり、内部から外側に向かって爆発するはずです。いかに搭載艇の外殻が丈夫でも惑星の爆発には損傷は免れません。重力場にも変化が起っております。あっ、修一様、上空を見て下さい。月が接近しております。」

上空のモニターに映し出された月は通常の五倍以上に大きくなっていた。

 「千、月の方向に全速前進。月の重力を利用して月の縁に向けてスイングバイコースをとれ。とにかくバイだ。バイバイする。」

「了解。」

搭載艇は通常の重力制御推進に加えて粒子エンジンを作動させ推進力を高め、月の縁に向けて全速前進した。

搭載艇は高速で接近する月の縁を月の表面から数キロの距離で通り過ぎた。

「OK。良かった。月を惑星爆発の盾とする。距離をとって月の裏側に移動する。」

「了解。でも修一様、惑星の様子は観測できません。」

「観測は放棄する。出来る限り惑星から離れることが肝要だと思う。とにかく月の蔭に入る。それ以外に爆発を免れる方法はない。それに離れれば惑星の外縁は見える。」

「了解。」

 「千、近くに惑星はあるか。」

「木星は太陽の反対側です。火星も太陽の向こうです。白星は太陽の手前にあります。」

「と言うことは月は太陽方向に向かって進んでいることになる。確か満月だったからな。途中に恐竜の星の白星か。恐竜も大きな被害を受けるだろうな。マーさんのいる火星は遠いから大丈夫だろう。木星も無傷だ。」

 「千、月の裏に母船は見えるか。」

「見えますが月表面にまだおります。離脱行動は取っておりません。」

「船長はいったい何をしているんだ。妙もどうしているんだ。どちらかが常に操縦席についていなければならないのに。早く離脱しないと月が衝突で崩壊するか、逆なら周囲から惑星が包み込む。千、緊急信号を母船に送れ。」

「了解。送りました。」

「操縦室のロボットは船長に知らせるだろうな。」

「禁止されていない限りは知らせるはずです。」

「それを期待するしかないな。一応これで対処の準備ができた。でもまだ心配だな。千、ここから1光分の距離まで遠ざかって惑星を観測する。そこなら破片が飛んで来ても対応できるだろう。もっともそんな早い破片は無いけどね」

「了解。」

 修一は操縦席を立って操縦席の後ろでモニターを見ていた蓮の前に行った。

「蓮さん、悲しいことですが見た通り蓮さんの地球はなくなるかもしれません。月が地球に衝突しようとしております。惑星が粉々にならなければ生き残る人もいるかと思いますが、その可能性は少ないようです。しばらくはこの搭載艇で暮して今後の身の振り方を考えましょう。」

「よくわかりました。私は修一様に命を助けていただきました。感謝しております。」

「自分の星がなくなることは悲しいことですね。」

「そう思いました。」

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