第6話 6、第五惑星
<< 6、第五惑星 >>
第五惑星への接近は容易だった。
巨大な衛星があるので衛星に隠れて接近することができた。
衛星は自転していたので今回も自転と反対の方向に進むことで母星から見えないようにすることが出来た。
第五惑星は第三惑星と似ていた。
大気があり、大洋と大陸があった。
「航宙士、今回もモルモットになって偵察してくれんか。この前の報告書は良く出来たものだった。第四惑星の利用価値は『優』で開発価値は『可』にした。第五惑星の調査が終わればこの星系での調査は終わりだ。渦状腕の先端方向の恒星に向かう。」
「了解しました。航宙士は再び人体実験と偵察に向かいます。でも船長、なぜ第四惑星の開発価値は『可』なのですか。」
「理由は二つある。一つは知的住民が既に住んでいて文明を持っていることだ。そんな惑星に干渉してはならない。もう一つは重力の問題だ。引力が小さいので大気は失われつつある。やがて生活できない状況になるだろう。そうなるまでは数万年はかかるかもしれないから住民はそれまでに対処の方法を見つけ出すかもしれない。そういう状況だから開発価値は今の状況では低くなる。」
「そうですね。マーさんもそれは分っているのかもしれない。」
修一は搭載艇で惑星を大きく迂回し、衛星の反対側から第五惑星に近づき、前と同じように衛星の低軌道と成層圏の中間辺りに搭載艇を浮遊させた。
第五惑星は大気も厚く重力も大きかったので地表からの距離は第四惑星の場合よりも高かった。
「千、どうだい。放送の内容は解るかい。」
「いいえ、修一様。第四惑星の言語ではありません。でもテレビ画像は入るように調整しましたから大丈夫です。」
「それはよかった。どんな住民だい。第四惑星と同じかい。」
「それは修一様が実際に見られた方が良いと思います。驚かれますよ。」
本当に修一は驚いた。
第五惑星の住民はヒト型ではあったが細くて長い尻尾(しっぽ)を持っていた。
尻尾は自在に動くらしく、堂々と出して歩く者もいたし衣服の中にしまい込んでいる者もいた。
尻尾を除けば他の部分はホムスク人と同じであった。
もう少し印象を言えば、第五惑星の住民は全て美男美女であった。
老人もそこそこに威厳を持った男女であったし。幼児は本当に天使のように可愛かった。
「みんな美男美女だね。星別の宇宙コンクールでもあったらきっと優勝するよ。」
「この星はきっと相当長い連続した歴史を持っていると思われます。」
「何故だい、千。」
「男女の容貌は淘汰の最前線です。美男美女の方が子孫を残す割合が高いと思われます。」
「千の意見だけどそれは簡単には同意できないよ。自分に当てはめると相手はやはり心根(こころね)がいい人がいいよ。」
「申し訳ありません。差し出た憶測を申してしまいました。」
「いいさ。確かにそうかもしれない。ホムスク人だって大昔の人々の写真を見ると不美人が多かった。今の女の子の容貌は昔よりは良くなっているように思うよ。それにしても尻尾があるとはね。驚いた。ホムスク人は猿から進化したって教わったけど第五惑星人は何から進化したのだろう。」
「分りません。ホムスク星の動物に当てはめたらリス辺りだと思います。」
「確かにホムスク星のリスは立派な尻尾を持っているね。それでと。今回はどうやって第五惑星人と接触したらいいかな。前回が成功したのでだんだんと自信を持って来たよ。」
「町に出かけたらどうでしょう。」
「一人でかい。とても自信はないよ。」
「私も同伴できます、修一様。そうすれば修一様を危機からお守りできます。」
「千は確かに人間と同じくらいの背丈があるけど金属光沢は目立つよ。この星が千のようなロボットを作っているとは思えないよ。テレビでもロボットは出て来なかった。」
「私は完璧に変装できます。最近、新たな機能を発見致しました。」
「どんな機能なんだい。」
「表面を自在に変える機能です。私の表面は多数のナノロボットで覆われているようです。電脳で外形を想像すると想像通りの外形にナノロボットが作るようです。」
「そんな技術は出かける時にはホムスク星にはなかったよ。帝都大学の千さんが作ったのだろうか。」
「そうだと思います。」
「どんな風に変ることができるんだい。」
「初期設定の姿に変ってもよろしいでしょうか。」
「ちょっと待って。変った後でも今の姿に戻ることもできるのかい。」
「もちろんでございます。」
「OK。初期姿になってみて。」
「了解しました。」
千は金属光沢の頭から変り始めた。
豊かな黒髪ができ、左右対称な美しい顔ができ、肌理(きめ)の細かい透明感のある白い皮膚に覆われた豊かな乳房を持つ上体ができ、整えられた陰毛と形のいいお尻をもつ腰ができ、細身の長い脚が出来、小作りの足ができて下半身が完成した。
皮膚には透明な産毛まで生えていた。
修一は千の美しい裸体に目のやり場に困った。
すぐさま、パンティーとブラジャーが美しい皮膚から涌き上がるように作られ、真直ぐな脚は黒のストッキングで覆われた。その後、白いブラウスと紺色のタイトスカートが作られ、最後に黒エナメルのハイヒールが出来上がった。
「凄い。千、すごいよ。女性のホムスク人とそっくりだ。いや、女性のホムスク人よりずっと美人だ。」
「お褒めいただきありがとうございます、修一様。」
「分った。その顔は帝都大学の千さんの顔だ。やはり千さんが千を作ったんだ。それで初期設定を自分の姿をさせたのに違いない。」
「この姿なら修一様のお側にいても違和感はないと思います。」
「でも、第五惑星の女性が焼きもちを焼くかもしれないね。千は奇麗過ぎる。僕はまだ女性を見る目がないけれど、千が完璧に美しいことはわかるよ。」
「少しデフォルメしましょうか。」
「いや、そのままがいい。僕が誇らしい気持ちになる。」
「そのままにいたします。」
修一と千は大陸の大都会に会話するために出かけた。
搭載艇を大都会の上空に移動させ、夜になるのを待って都会の中央にある公園のような所にフライヤーで降下し、フライヤーを樹間に隠してから座席を外して座席ごと地上に降り立った。
フライヤーは上空3000mで浮遊させた。
座席には仮の車輪と補助用の取っ手が取付けられ、一見すると車椅子のように見えた。
修一は座席に腰掛け、膝には緑色の毛布をかけていた。
フライヤーの操縦席はそれ自体が重力遮断して浮遊できた。
肘掛けには小さな操縦装置が埋め込まれている。
操縦席一つだけでフライヤーも持ち上げることが出来る力を持っているのでフライヤーに何かあったら操縦席だけでフライヤーを動かしたり、脱出したりすることができる。
千は車椅子の後ろから車椅子を押し、人気のない公園の歩道を押して行くと正面から二つの懐中電灯の光が近づいて来た。
懐中電灯の持ち主は懐中電灯の光を修一と千に当て、くまなくまさぐってから千の顔に向けたまま言った。
「お前達は何だ。この公園の門限はとっくに過ぎている。逮捕されたいのか。」
「申し訳ありません。途中で気分が悪くなり、休息するように命じてしまいました。幸い回復しましたので遅くなりましたが退出しようとしていたところでございます。」
「病人か。分った、いいだろう。出口は分るのか。」
「それが、暗くなったので良く分からないのです。出口まで連れて行って下さいませんか。」
「しょうがないな。相棒、ちょっくら出口までこの連中を連れて行くわ。巡回は一人で続けてくれ。この二人を追い出したらすぐに追いかける。」
「しょうがないやつだな。おまえは美人に弱いからな。」
「二人ともついてこい。」
懐中電灯の光はようやく前方の歩道を照らしたのでようやく相手の姿がわかった。
体格のいい若者のように見えた。
「車椅子を押しているのはだれだい。」
「私の秘書でございます。」
「秘書さんか。結婚しているのかい。」
「いいえ、未婚でございます。千、ご親切な方にご挨拶をなさい。」
「はい、修一様。私は千と申します。ご親切に案内をして下さりましてありがとうございます。」
「どうってことはないさ。おれは散って言うんだ。」
「散様ですか。ほんとうにご親切にありがとうございました。」
「散様か。照れるね。出口に着いた。後はわかるだろう。」
若者は大鉄扉の横の通用口を開けて修一と千を出し、扉を閉じた。
修一と千は公園に沿っての歩道を明るい方に向かって行った。
「出だしは良かったですね。」
「はい、修一様。」
「千はヘッドフォンを着けていないけどどうして会話ができた。」
「ヘッドフォンと同じ装置を体内に組み込みました。私は脳波を出しませんから周平様の脳波をコピーして使っております。」
「千は僕の脳波を知っているの。」
「もちろんでございます。」
「驚いた。」
「知っていなければ修一様の望むことを知ることはできません。」
「他のロボットもそんなことができるのかい。」
「分りません。おそらくできないと思われます。他のロボットの応答を見ると応答は発せられた言葉に対してのみと見受けられます。」
「そうだよね。千は特別なんだ。」
「そう思います。」
「そう言えば僕らにはこの星のお金がなかったね。」
「そうでした。抜けてましたね。戻って計画を練り上げましょうか。」
「手っ取り早くお金を儲けるのは何だろう。」
「もちろんギャンブルでございます。でも元手がなければだめです。」
「スポンサーが必要だね。千は脳波を読むってことだけど良い人か悪い人か判るの。」
「分るかも知れません。私が脳波を読むのは色のパターンで読むのです。明るい色なら良い人。どす黒い色なら悪人です。もちろんパターンは常に変っておりますが。」
「僕の色は何色だい。」
「ヘッドフォンの光背よりもずっと明るく輝く光の色です、修一様。」
「いい人なんだ。」
「それ以上でございます。」
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