第4話 4、第四惑星
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フライヤーは直径が5mの円盤形をしている。
円盤の周囲には乗員が落ちないように金属の柵が廻らされている。
円盤周囲から透明な羽がせり出しドームを形成する。
乗員は二人で運転は中央のテーブルの上に置かれた制御板で行う。
制御盤には小さなノブが付いておりノブを傾ければその方向に加速度がかかる。ノブを上下に移動させればフライヤーは上下に移動する。
このフライヤーの原型は帝都大学で大昔に作られたのだが改良の余地が無かったのでデザインも機能も何千万年も変らなかった。
修一は第三惑星の地表で一ヶ月を過ごした。
フライヤーに乗って原始の森に出かけ、恐竜の吠え声を聴いたり恐竜同士の争いを上空から見物したりした。
翼竜に目をつけられた時には高空に逃げた。
翼竜は高空までは追いかけてこなかった。
穏やかな池の中にも大型生物もいたが概要さえもわからなかった。
海にも行ったがその様子はホムスク星の海と変らなかった。
1ヶ月の間、惑星表面を探索したがどんな人類も発見できなかった。
地上は鬱蒼(うっそう)とした森で覆われていたのだ。
フライヤーで森の中には入れない。
「船長、モルモット修一はまだ生きております。体に異常は見あたりません。防御服なしで既に30日を過ごしております。つがいのウサギもつがいのカナリヤも異常はありません。山の中腹に第三級の基地を作りました。搭載艇を入れることができます。現在の結論ではこの惑星での生活は問題無しです。どういたしましょうか。」
修一は搭載艇から母船の船長に連絡した。
「航宙士、ご苦労だった。基地を残して母船に戻れ。母船に入る前には搭載艇を洗浄しておけ。外壁を成層圏で赤熱させるだけでいい。」
「了解。基地にビーコン装置を残しておきますか。」
「残しておけ。発信はさせるな。それとロボット一体を基地の維持を命じて残しておけ。この星系を去る時に回収する。」
「了解。帰艦します。」
船長に第三惑星の報告を済ませた後、修一は展望室で拡大された第三惑星を映し出しているモニターの前で妙と第三惑星の話をした。
「とにかく恐竜は凄かったよ。十mもあったかな。フライヤーに乗っていたので安全だったのだけど地上にいたら恐怖だね。目が恐ろしいんだ。こっちを向いて睨(にら)むんだ。知性も相当高いのだと思う。獲物が手の出せない空中にいるので悔しがっているのがよくわかるんだ。意思で獲物を麻痺させているのかもしれない。」
「翼竜は襲って来なかったの。」
「もちろん最初は襲って来たさ。空は彼らのテリトリーだからね。でも、十匹ほど撃ち落とすと襲って来なくなった。」
「撃ち落とすのにフライヤーの分子分解砲を使ったの。」
「いや、それは千に止められた。第三惑星は観測されている蓋然性が高いんだって。惑星表面での高エネルギーの放出は容易に観測できるって言っていた。」
「それじゃあ修一が分子分解銃で撃ち落としたの。」
「僕にはそんな腕はないよ。千が撃ち落とした。ドームを開けてね。かなり離れていたのにあっという間だった。空中のガンマンってとこかな。周囲の全ての翼竜の片方の翼の半分を切り落としたんだ。翼竜はバランスを崩して落ちて行ったよ。」
「修一がロボットに撃ち落とすように命じたの。」
「いや、千が『私にお任せ下さい』って言い出したよ。考えてみればロボットから言い出すなんて珍しいね。」
「修一のロボットは帝都大学製の特別製だからよ。」
「そうかもね。テレキネシスの機能も持っているよ。搭載艇のフライヤーは固定されているだろ。千は僕の前から動かないでフライヤーを搭載艇の外に出したんだ。」
「テレキネシスの原理なんて学んでないわ。どうして物を動かせるの。」
「僕も知らないよ。何と言っても作ったのが帝都大学だからね。」
「そういえばそうね。」
「妙は何をしていたの。」
「ほとんど何もしなかったわ。」
「退屈だったろう。」
「そうね。」
妙は何か言い淀(よど)んでいた。
言えないことがあったらしい。
「次はおそらく第四惑星だね。船長はどこまで調査するつもりなのだろう。」
「人工衛星を飛ばせることができる文明を持つ星に出会うのは初めてね。」
その時、天井のスピーカーから船長の声が響いた。
「航宙士、航宙士補。司令室に戻れ。第四惑星に向かう。」
「了解しました。両名は司令室に戻ります。」
修一は天井のスピーカーに向かって答えた。
二人が操縦席に座ってから修一が言った。
「船長、第三惑星の評価はどうなりますか。」
「利用価値は『優』で開発価値も『優』になる。」
「お毒味役のモルモットになりましたからね。優でよかったです。働き甲斐があったというものです。次は第四惑星ですか。」
「そうだ。どうやって近づいたらいいかな、航宙士。」
「人工衛星を飛ばしている文明ですから大型宇宙船の接近は見つかる可能性があります。この宇宙船の装甲板は完全な鏡面ですからレーダーにはかからないと思いますがとにかくこの宇宙船は大きいですからね。第四惑星の衛星ほどもあります。やはり衛星の蔭に隠れたらどうでしょう。衛星の地表に降りるのではなく、地表付近に浮いて常に惑星から見えない位置を保ったらどうでしょうか。小さい衛星ですから惑星の住民は関心を持っていないかもしれません。惑星の調査は搭載艇でしたらいいと思います。搭載艇の外壁は暗黒処理してありますから夜側では発見されないと思います。」
「それが良さそうだな。また行ってくれるか。」
「はい、妙を連れて行ってもいいですか。細かい調査はフライヤーを使うと思います。今度の世界では基地を作るのが難しそうですから搭載艇に誰か残っていることが必要だと思います。」
「それはだめだ。母船には常に二人以上がいる必要がある。誰かを冷凍冬眠から起こそうか。」
「それでもいいですが環境に慣れるのには時間がかかります。わかりました。今回も孤独なモルモットになって行きます。」
「うむ。大変だがそうしてくれ。」
「了解。」
宇宙船G13号は高速で飛行し第四惑星の衛星を衝の位置に保ったまま衛星に近づき衛星の地表千mの位置に浮遊した。
衛星の自転時間が短かったので宇宙船は常に相対的に移動していた。
もっとも、衛星の重力はほとんどなかったので移動に必要なエネルギーは大きくはなかった。
修一は搭載艇を惑星とは反対側に大きく迂回させ夜の側から第四惑星に接近していった。
「さて、何から調べたらいいかな。先ずは言葉だな。何を話しているのか分らなければ。千、隠れる場所はどこがいいと思う。」
「搭載艇は大きくありませんから情報が十分に得られるまで衛星軌道に留まってはいかがでしょうか。高さは低軌道と成層圏の中間辺りが適当と思います。搭載艇はレーダーでは探知できませんし航空機はそこまで昇って来ることができません。肉眼ではもちろん見えませんし、よほどの幸運がない限り望遠鏡ではみつかりません。夜側にいれば最適です。見つかるとすれば人工衛星からです。」
「そうしようか。見つかっても真っ黒なシミだしね。」
それから一ヶ月、搭載艇は高空に留まって地上の放送を傍受し修一は言語の習得に励んだ。
ホムスク星では一つの言語しか使われていなかったので他言語を学ぶ通訳法は確立していなかった。
「どうも弱ったね。取っ掛かりができないよ。声は聞こえるんだが意味が全く分からない。幼児用の絵本でもあればいいんだけど。」
「修一様、僭越ではありますが通訳装置をお作りしましょうか。幸いなことに私の電脳の中には通訳機の設計図が入っておりました。ここが終われば第五惑星にも行くことになると思います。そこでの言語も習得しなければなりません。また一つの惑星で一つの言語とは限りません。それらを習得するのは莫大な時間が必要だと思われます。どんな言語でも意思は共通です。相手の意思をホムスク語に置き換えればどのような言語でも意思疎通が可能と思われます。もっとも、翻訳はできないと思いますが。」
「そんなことができるの。千、ぜひとも作ってほしい。僕はこの一ヶ月で自分の無能に打ちのめされていたんだ。」
「それは修一様の体に良くありません。私も通訳機の原理は分りませんがとりあえず電脳にある設計図の通りにお作りしようと思います。一日お待ち下さい。」
「相手の意思をホムスク語に替えるなら相手がいるね。放送ではだめだろう。誰かに会わなければならないね。第四惑星人ってどんな人だろうね。一人でいる人間を捜しておくよ。」
一日後、千が作り上げた通訳機は小型のヘッドフォン型で頭に掛けるとヘッドフォンの後方に光輪が生じた。
周囲の装置に映る自分の姿を見て、修一は鏡を覗いて驚いた。
「後光が出ているじゃないか。何だい、この光は。」
「装置の説明によれば空中総合アンテナとのことです。微弱な相手の脳波としての意思を受け、修一様の意思を相手が使った脳波に会わせて相手の脳に直接伝える役割を持つそうです。」
「千との会話もこれが使われているの。」
「分りません。私は脳波を出しておりませんし、修一様の声は私にはいつものように聞こえております。」
「そうか、同じホムスク語だもんね。」
「通訳機にはその他の機能もあるようですが私にはよく分りません。その通訳機の周囲には良く分からない場が出来ているようです。先ほど修一様にお渡しする前に私もヘッドフォンをかけてみました。使い終えた道具を片付けるのにテレキネシスを使おうとしたのですが使えませんでした。ヘッドフォンの周囲には何らかの力を遮断する場が働いているようでございます。」
「これを作ったのに機能は分らないの。」
「ロボットの電脳とはそう言う物でございます。私を作成した方が私の電脳に知識を入力した時に通訳機の設計図を入れたのだろうと思います。」
「わかった。ありがとう。早速試してみよう。相手の目星は付けてあるんだ。いよいよ異星人との接触だね。ワクワクするよ。」
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