第2話 2、若い太陽系

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 青色の第9惑星と第8惑星の探査は短期で終わった。

質量や惑星軌道などの基礎的なデーターの他に調査者の主観による評価がなされた。

両惑星の利用価値は共に『良』で開発価値は『可』とされた。

利用価値は将来何らかの役に立つ可能性を持つか否かの判断である。

船長は両惑星が安定した最外殻軌道を持っていたので恒星系の監視には役立つだろうと考えたのかもしれない。

開発価値はホムスク人が星を開発する価値があるか否かの判断である。

両星はホムスク人が住むには適していないので『可』としたのかもしれない。

 第7惑星は美しい環を持ち、第6惑星は鮮やかな縞模様を持つ惑星であった。

船長は両惑星の利用価値を共に『可』とし、開発価値も共に『可』と評価した。

重力遮断装置があるので無人の探査機は惑星内部に入ることが出来るであろうがそれほど貴重な資源があるとも思えなかった。

重力を考えただけでも人類が住める惑星ではない。

両星の持つ衛星に僅かの開発価値が見出せたのかもしれない。

 第五惑星は素晴らしい惑星であった。

呼吸できる大気を持ち、地表を穏やかにする大洋があった。

太陽は小さかったが惑星自体が熱を持っていたため地表は人類が生活するのに適した環境になっていた。

植生は豊かで地表は変化に富んでいた。

驚いた事に明らかに人工的な町が所々に見られ、それらを結ぶ道も観測できた。

 「驚いたな。明らかに知的生物が住んでいる。もう少し近づけば発展程度もわかるだろう。」

船長はディスプレイに拡大された第五惑星を眺めながら興奮気味に言った。

「どんな知的生物なのでしょうね。我々と同じヒト型なのでしょうか。ワクワクします、船長。」

「今にわかるさ、修一。それにしても鬱陶(うっとお)しい衛星だな。惑星との距離が近すぎないか。」

「そうですね。惑星と比べると衛星としては異常に大きいし。あれでは惑星の潮汐は相当大きいですね。」

「まあ、そんな厳しい変化が知的生物を生んだとも言えるがな。」

 「船長。ここに暫(しばら)く留まって観測を続けますか。」

「いや、航宙士。ここは後にしよう。先に他の惑星を調べる。この星には優れた光学機器もありそうだしな。長居をすれば見つかるかもしれない。」

「船長、それが良さそうかもしれません。今、人工衛星が見えました。小さい人工衛星ですが、宇宙にも展開できるだけの科学力を持っているようです。」

「わかった、妙。航宙士、第四惑星に向かう。」

「了解、船長。第五惑星軌道に沿って進んで第四惑星に向かいます。」

 宇宙船G13号は太陽の向こう側にあった第四惑星に大きく迂回して近づいて行った。第四惑星は事前観測から予測されたようになかなかの星であったが第五惑星ほどではなかった。

海があり山もありそして植物も生い茂っていたが、植物はひ弱そうに見えた。

 「この星も住めそうだが小さ過ぎる。今は住み易そうに見えるがやがて大気は失われる。利用価値は『良』で開発価値は『可』程度だろうな。」

「船長、でも科学力は高そうですよ。ここも同じような人工衛星が飛んでいますよ。」

「そうだな。第四惑星と第五惑星にはいわくが有りそうだな。同じ知性体かどうかが重要だろうな。同じ知性体なら第四惑星が最初に発展してそこの住民が第五惑星に移住したのかもしれないな。その逆もあるかもしれない。」

「でも船長、第五惑星の方が住み易(やす)そうですから第五惑星から第四惑星に移住なんてあるのでしょうか。」

「今にわかるさ、修一。航宙士、ここも後で調査することにして先に第三惑星を調べることにする。」

「了解、船長。第三惑星に向かいます。」

 第三惑星は若い星だった。

酸素を含む大気はあったが炭酸ガスの割合が少し多かった。

大洋があり、大陸もあり、山や河があった。

「船長、この星には人工衛星は廻っていませんね。」

「そうだな。重力も第五惑星と同じで、ホムスク星とも同じだ。この星の病原菌に対する免疫ができさえすれば我々もここで普通に生活できそうだ。」

「なぜ人工衛星がないのでしょう、船長。」

「今にわかるさ。航宙士、第三惑星の衛星軌道に入れ。高度はとりあえず1000㎞でいい。概要がわかったら順次高度を下げろ。」

「了解、船長。おもしろくなりそうですね。」

 観測の結果、第三惑星は巨大生物の世界であることがわかった。

「船長、あれは恐竜ですよね。考古学の教科書に載っていました。ホムスク星にも大昔に住んでいたという恐竜と同じです。」

「修一、わしも驚いているよ。恐竜の星か。しかも大きい恐竜だ。この星の生物系の頂点に立っているのだろうな。ここまで大きくなっているってことは相当な年月がたっているはずだ。数千万年が経っているのかもしれない。」

 「第四惑星とか第五惑星とはだいぶ違いますね。」

「第四惑星とか第五惑星の住民は第三惑星の状況を知っているはずだ。知っていてもまだ進出していないってことは進出できるだけの技術力がまだ無いってことだ。100年もすればこの星にも植民するのだろうな。航宙士、ロボット3体を地表に降ろし大気成分を調べさせろ。大気を宇宙船に持ち込んではならない。ロボットは自己防衛機能を許可して地表に残しておけ。」

「了解、船長。」

「それが終わったら第二惑星と第一惑星に向かう。忙しくなりそうだ。」

「おもしろくなりそうです、船長。」

「今にわかるさ、航宙士。」

 第二惑星は人間が住めない惑星だった。

分厚い炭酸ガスの大気で地表の気圧が第三惑星の90倍と高く、地表温度も500℃と高い。

「この星はこのままでは住めないな。悪循環になっている。航宙士補、悪循環を説明できるか。」

「学校で学びました、船長。この岩石型惑星の大気は主に水蒸気と炭酸ガスで構成されております。炭酸ガスも温室効果に加担しますが水蒸気の温室効果は炭酸ガスよりずっと強いはずです。この状態になったのは太陽が近いせいかもしれませんが惑星が冷える機会を失ったためだと思います。惑星形成後に少しでも冷える機会があったら大気中の水蒸気は水となり海ができます。海ができれば大気中の炭酸ガスの大部分は海に吸収されて気圧が低下します。水蒸気と炭酸ガスがなくなれば温室効果は急速に低下し、地表の熱は宇宙に放出されますから惑星地表の温度は下がるはずです。温度が下がれば大気中に残っていた炭酸ガスも地表の岩石と反応し炭酸塩となるはずです。確か、炭酸塩から炭酸ガスを出すためには高温が必要なはずでしたから温度が低くなれば時間がかかりますが平衡は炭酸塩が形成される方に向かうはずです。大気中から炭酸ガスと水蒸気がなくなれば地表の気圧が下がり、反応性に乏しい窒素と光合成で生じた酸素が大気を形成します。ですからこの星はそんな冷える機会を失って悪循環になっているのだと思います。」

「そうだな。やはり恒星に近かったのだろうな。」

 「船長、それならこの星の評価は利用価値も開発価値も『可』なのでしょうか。」

「いや、航宙士。利用価値は『優』か『良』だよ。開発価値は『可』だがな。」

「なぜ利用価値が『優』か『良』なのでしょうか。」

「隠れるのに最適だからさ。この宇宙船なら90気圧500度の環境に居ることができる。浮力もあるから着陸しなくてもいいかもしれない。ま、それはないだろうがな。」

「そうですね。冷たい星に隠れるより見つかりにくいですね。」

「OK。手早く調査して第一惑星に向かおう。3、4、5の三つの惑星が気にかかる。」

「了解。」

 宇宙船G13号は第一惑星に向かった。

第一惑星は大気の無い高温地帯と低温地帯を持つ小さい星であった。

第四惑星と同程度の重力を持っていたが太陽に近いせいか大気を地表に繋ぎ止めることができなかったらしい。

船長は第一惑星には利用価値も開発価値も『不可』と評価した。

 宇宙船G13号の目的は大宇宙の宇宙地図を作成することだ。

母星のホムスク星は大宇宙の辺縁からさらに50億光年はなれた空間で一つの恒星の周りを単独で廻っている。

周囲には如何なる恒星も惑星も無く大宇宙を調査するには50億光年の大空間を渡らなければならなかった。

ホムスク星での夜空は星々で満たされた夜空もあったし、半分だけが星々で満たされた夜空もあったり、暗黒の夜空もあったりした。

 自分たちが大宇宙の辺縁のさらに先の暗黒の空間にあることは早くから判っていた。

しかしながら大宇宙に到達することができる宇宙船を作ることが出来るまでには数千万年もの時を経なければならなかった。

表面には決して出て来ない不死と思われる賢い為政者によってホムスク星の文明は一度も崩壊せずに発展し続けた。

ホムスク帝国の始皇帝の誕生から始まる帝歴85321100年頃、遷移の技術が偶然に発見され、大宇宙に到達できる巨大な宇宙船が建造されることになった。

 その宇宙船は1万光年もの距離を一瞬で遷移することができた。

しかしながら50億光年を踏破するためには少なくとも50万回の遷移をしなければならなかった。

その遷移には距離に応じた肉体的な苦痛が伴ったし、50万回もの遷移を行うには長時間が必要であった。

その頃には信頼できるロボットが出来ており、操船はロボットに任せ乗員は冷凍冬眠によって繰返される苦痛から遁れることができるようになっていた。

 大宇宙まで行った宇宙船が初めてホムスク星に戻って来たのは帝歴85331100年で遷移が発見されてから1万年後、その宇宙船が出発してから8千年後のことであった。

この宇宙船の帰還はホムスク星の科学に新しい考えをもたらした。

宇宙船のロボットが示した船内時間はおよそ8年であったからだ。

ホムスク星の8千年が船内時間の僅(わず)か8年であったということはホムスク星の時間進行速度が大宇宙の中の時間進行速度よりも千倍も早かったということを意味した。

 大宇宙から宇宙船が戻ったこの時からホムスク文明の大航海時代が始まった。

大宇宙へ出かけ、大宇宙の詳細を知り、ホムスク星に必要な資源を持ち帰るのだ。

例え宇宙船がホムスク星に戻って来て、知人は既に死んでいて文明は何千年も進んでいたとしても大宇宙に冒険を求めるホムスク人は絶えなかった。

 これまではホムスク星の外にでることが全くできなかったのだ。

宇宙船G13号はそんな冒険心を持った人々の宇宙船であった。

大宇宙のお土産を持って何千年も先の未来のホムスク星に戻るのだ。

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