二度目の告白
夏祭りが行われている神社に来た俺と天音は、これから打ち上げられる花火が見える広場にやってきた。
だけどそこには花火を目当てに大勢の人が集まっている。
カップルだけでなく、親子や友達グループなどなど、普段は静かな神社がこんなににぎわっているなんて不思議な気分だ。
「すごい人ね……」
天音もこれだけ大勢の人が集まっていることに驚いていた。
この夏祭りは毎年開催されているけど、年々花火のレパートリーが増えていることが話題になり観客が増え続けている。
特に今年の来場者の数は去年よりはるかに多い。
これだけ賑やかだとお祭り感があっていいけど、とても告白という雰囲気じゃない。
そうだ!
「なぁ、天音。子供の頃、天音と一緒に遊んだ秘密の場所があっただろ? あそこなら花火が見えるだろうし、人も少ないかも……」
「あーっ! あったね! なつかしい!!」
「どうする? 行ってみる?」
「うん!」
こうして俺達は子供の頃に遊んだ思い出の場所に行くことにした。
神社の境内から細道に入り、石階段を歩いた先にその場所はあった。
秘密の場所とは言ったが、地元の人間なら誰でも知っている休憩スポットで、昼間ならお爺ちゃんお婆ちゃん達がベンチに座ってよく談笑をしている。
もう夜ということで人は誰もいない。
電灯もない場所ではあったが、月の光のおかげでそこまで暗いとは思わなかった。
「久しぶりに来たけど、変わってないね。ここってこんなに狭かったんだね」
「ああ。俺はたまに散歩で近くを通るけど、同じことを思ってた」
その時、ドーン!と、一発目の花火の音がした。
花火大会が始まったのだ。
見晴らしのいい場所に移動すると、二発目の花火が上がる。
街の光が背景となって、現実感のある幻想的な風景が目の前に広がっていた。
「綺麗……」
天音のその一言は、俺の心に気持ちよく響いた。
この数日、ずっと言おうと思っていた二度目の告白……。それを言うのなら、今この瞬間しかない。
そう決意した俺は用意していたプレゼントを取り出そうとして、ポケットに手を入れた。
だがその時、天音が寂しそうな声で訊ねてくる。
「ねぇ、春彦……。聞きたいことがあるの……」
「なに?」
「あのね……。もしかして私達って本当は恋人にならない運命だったんじゃないかな……」
一瞬、天音の真意がわからなかった。
運命というあやふやな表現なんて天音らしくない。
もしかして、俺は今からフラれるのか?
いや、今までそんなそぶりを天音は見せたことがない。
じゃあ、なぜ……。
その先を聞くのが怖いと思った。だけど聞かないと、天音の存在が遠くなる。
沸き起こる恐怖心を必死に抑えて、俺は訊ねた。
「どうしてそんなことを……」
「もし引っ越す前に告白をしていなかったら、私達はただの兄妹になってたでしょ……。でも別の街に引っ越していたら、きっと会わなくなっていただろうし……」
花火の光が辺りを明るく照らしたが、天音の瞳の奥には届いていないように見える。
「偶然が重なって、紙一重で付き合うようになったような気がして……。そう考えると不安になるの。もしかしたら、今の生活は夢なんじゃないかって……」
彼女の手が震えていた。声も震えていた。
「考えすぎだっていうのはわかってる。でも春彦と一緒に居て幸せを感じるたびに、この生活がなくなったらどうしようって思っちゃうの……」
きっとこの不安を口に出すことを恐れていたのだろう。
それでもずっと理性で抑えつけていたのだ。
こういう不安は理屈じゃない。
もしかして……、もしかしたら……。不安を考えだしたら止まらなくなるのは誰だって同じだ。
大切な人がいるほど、そう考えてしまうだろう。
それはもう人間の性かもしれない。
だけど、だからこそ……、俺は天音に言わないといけない。
「大丈夫。絶対になくならないよ」
はっきりとそう言った俺は、天音に近づいた。
「どんな状況でも俺が天音のことを好きなのは変わらないし、過程は違うだろうけど、何があっても俺は天音と付き合えるように行動していたと思う。いや、絶対にそうしていたはずだ」
ポケットからプレゼントを取り出した俺は、天音に差し出した。
それはピンク色のリングケース。
フタを開けるとオルゴールの音色が流れ、シンプルな指輪が姿を現す。
「ずっと前から天音のことが好きだ。これからもずっと好きだ。天音のことが全部好きだ。……だから、ずっとこれからも一緒に居てくれ」
「春彦……」
涙ぐんだ天音の声から、嬉しさを噛みしめていることが伝わってきた。
リングケースを持つ俺の手を、彼女は両手で包み込む。
「私も好き。めちゃくちゃ好き。これからも毎日、春彦の事を好きでいたい」
花火の光が天音の瞳を虹色に輝かせた。
綺麗だ。本当に綺麗だ……。
吸い込まれるようにキスをし、俺達は互いを確かめあうように抱きしめた。
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