二人のアドバイス


 天音に再び告白をすると決めた俺はなにかサプライズをしてあげたいと考えて本屋にやってきた。


 だけどそこでバッタリ出会ったのは、月野さんと日七瀬さんだった。


 サプライズの話を聞いた日七瀬さんは心配そうに服の袖をチョイチョイと引っ張った。


「春彦様。真面目な話をするとサプライズは失敗すると黒歴史化しますので、本当に注意した方がいいですよ」

「そう言われると……心配になってくる……」


 サプライズって特別なことをしようとするあまり、変な行動に走ってしまう時があるんだよな。

 とはいえ、ありきたりのことをしてガッカリさせてしまうのも嫌だし……。


 月野さんと日七瀬さんは天音の友達だ。

 女子でないとわからないアドバイスをしてくれるかもしれない。


 ここは一つ、思い切って二人をアテにしてみようかな……。いやいや、どうも嫌な予感がする……。


 何も言わず黙っていると、月野さんが腕組みをして前に出た。


「春彦君、安心して。天音さん応援隊の私達が力を貸すわ」


 すっげードヤ顔……。

 頼もしいように見えるその表情が、トラブルを巻き起こしそうで怖い……。


 続けて日七瀬さんが横に立つ。


「ですね。本物のサプライズをプロデュースしましょう」


 日七瀬さんも意気揚々としている。

 目が爛々と輝いているけど、なんだか新しいオモチャを見つけた子供のような表情だ……。


「まずは……ホテルの予約からですね」

「コスプレセットは外せないかしら」

「はい。……となると天音さんの猫耳姿が!?」

「どこかに隠しカメラをセットして、のぞき見しましょう」

「いいですね、月野さん! ナイスアイデアです!」

「日七瀬さんのアイデアも素敵よ! 私達、最強のコンビよね!」

「はい!!」


 不安だ……。この二人に相談をするのは凄まじく不安だ……。


 どーしようっかなぁ……。逃げようかな……。

 よし、逃げよう。


 俺はこっそり距離を取り、本屋の出口に向かおうとした。

 だが、出口に向かおうと背を向けたタイミングで、二人に肩を掴まれる。


「春彦君。どこに行くのかな?」

「まさか春彦様……、逃げようとしてませんよね? お楽しみはこれからですよ」


 ひぃぃぃぃっ!!

 この二人が力を合わせると、無敵感がハンパじゃない!!!


   ◆


 二人に引きずられるように本屋を出た俺は、商店街通りを歩いていた。


 最近はコンビニが増えてしまったけど、宝石店やゲームセンター、アパレル店にスイーツ店と、いろいろな店が並んでいる。


 月野さんは雑貨屋の前で立ち止まった。


 白とベージュが印象的な店で、こじんまりとしているが女子高生ウケしそうなオシャレ感が溢れている。


 店の中に入ると、月野さんは陳列されている商品をじっくりと見回した。


「天音さんにサプライズをしたいなら、可愛いプレゼントが一番ね」

「具体的には?」

「んー、そうね。天音さんなら小さなオルゴールとか喜ぶんじゃないかしら。以前、一緒に買い物に行った時、オルゴールに興味深々って感じだったし」


 そうか。サプライズって驚かせるだけじゃダメなんだ。

 ちゃんと幸せな思い出にしてあげないといけないもんな。

 オルゴールなら音楽で思い出に浸る楽しみ方もできるし、サプライズプレゼントにはピッタリかもしれない。


 だけど……、それ以外のことで驚いている俺がいる。

 それは日七瀬さんも同じだったようで、こっそりと耳打ちをしてきた。


「春彦様、聞きましたか? 月野さんが真面目なアドバイスをしましたよ」

「うん……、驚いたよ。絶対にネタをぶっこんでくると思ってたからリアクションをどうしようかと困っていたくらいなのに……」

「私もです」


 こそこそと話をしていた俺達を見た月野さんは、にっこりと黒いオーラを放ちながら微笑んだ。


「二人共……。聞こえるように内緒話をするのはケンカを売ってるからなのかな?」


 こほん……っと、気を取り直すために咳をした月野さんは人差し指を立てて話を続けた。


「とにかく、小さくて受け取る時に負担にならないもの。そして思い出に残りやすいもの。サプライズプレゼントを選ぶコツはコレね」


 小さくて受け取りやすく、思い出に残るものか……。

 プレゼントを贈ることにそこまで考えたことなかったな。


 そうだ、水着なんてどうだろう。

 夏だし、プールに行くだろうし、ピッタリじゃないか!


 天音の水着姿、絶対にかわいいはず!!

 おぉー! 想像したらテンションが上がってきた!!


 水着……! いいな!!

 どうせならフリルのついた可愛い水着とか……。

 いやいや。ここは黒の大人な雰囲気も……。


 妄想の中で天音をコーデすることを楽しむ俺に、月野さんが話を続けた。


「最悪なのが男の趣味を押し付けるようなプレゼントね。下着とか水着とか絶対に嫌われるから」

「そ、そうなんだ……」

「どうして顔が引きつってるの?」

「えっと……。はは……、どうしてかな……」


 やべっ。ついさっき妄想で自分の趣味に走りまくっていた。

 そうだよな……。自分の趣味を押し付けるのはよくないよな……。


 するとここで日七瀬さんが話に入ってきた。


「そう言う意味なら、指輪はまさに理想ですね」

「指輪?」

「はい。彼氏から貰ったものを指にはめるという満足感もありますし、保管もしやすくて、眺めているだけでも貰った時の思い出に浸れますから」

「でも、指輪っていろんな種類があって選ぶのが難しいよね……」

「世代ごとに好まれるブランドがあるので、それを基準にしてもいいと思いますよ。オススメはここと……、ここのブランドですね」

「なるほど。すごく参考になったよ」


 指輪なんて今までの人生で欲しいと思ったこともなかったから、ブランドのことまで考えたことはなかった。


 やっぱり二人について来てもらって正解だったな。


「でも私達がアドバイスをできるのはここまでです。ここからどんなプレゼントを選ぶのかは春彦様自身の考えで行う方が、天音様は喜ぶはずです」


 日七瀬さんがそう言った後、続けて月野さんも応援をしてくれる。


「春彦君。頑張ってね」

「うん、わかった」


 こうして選んだサプライズプレゼントは、オルゴール付リングケースに入った可愛い指輪。

 これならきっと喜んでくれるだろう。


 明日の夏祭りが楽しみだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る