サプライズを考えてみよう
夏祭りに改めて告白することを決めた俺は、とりあえず近くの本屋さんへ向かった。
「ただ告白をするだけじゃ以前と同じだし、なにかサプライズをしてみたいんだよな」
初めての時は告白をする用意ができていなかったので勢い任せで思ったことをそのまま言ってしまったけど、振り返って考えるとかなりカッコ悪い。
やっぱりこういう時は彼女が驚くようなサプライズをしてあげたいものだ。
でも、サプライズってよくわからないんだよな。
今まで他人と深く関わらないようにしていたし、陽キャのようなテンションも俺にはない。
そんな事を考えて迷っていた時、すぐ横で女子の声がした。
「男子が考えるサプライズは注意したほうがいいよ~」
「うわっ!」
驚いて声の方へ振り向くと、黒髪とメガネが印象的な月野さんがいた。
「つ……月野さん!?」
「こんにちは、春彦君。驚いた顔もかわいいね」
屈託のない笑顔で挨拶をする月野さん。
見た目は真面目そのものの女子だけど、本当は腹黒いところがあるのを知っているので、さっきのようなイタズラっぽい行動は月野さんらしいと思ってしまう。
月野さんは俺が見ていた本棚をチラリと確認した後に訊ねてきた。
「こんなところでどうしたの? 探し物?」
ここで『天音へのサプライズを考えて、参考になる本を探していました』なんて言ったら、きっといつものようにイジラレてしまうだろう。
よし……。それとなく誤魔化そう。そうしよう。
「あー、えーっと……、いい本がないかなー……なんて? はは……」
「天音さんにサプライズを考えて?」
「うっ……」
しまった! さっきの独り言を聞かれていたんだった!
俺がサプライズをする相手って言えば、天音しかいないもんな……。
さらに困った状況が重なることに……。
「聞き捨てなりませんね」
後ろからまた別の女子の声が聞こえてきた。
もちろん知っている声だ。
「日七瀬さんまで!?」
「今日は月野様とブラブラしていただけなのですが、まさかこんなところで会うなんて。やっぱり私と春彦様は運命で繋がっているんですね」
普段はいがみ合ってばかりいる月野さんと日七瀬さんだけど、こうして一緒に買い物をしたりするんだ。
ちょっと意外だな。
もしかして、本当は仲がいいとか?
ケンカするほどなんとか~っていうし……。
ここで月野さんが会話に入ってくる。
「偶然出会うのが運命なら、私も繋がってることにならない?」
さも当然のようにサラリと言う月野さんは、すかさず腕を組んできた。
たっぷんたっぷんの胸に腕が沈んでいく。
不意打ちの出来事で俺は思考が上手く回らず、体を硬直させてしまった。
って! 天音という彼女がいるのに、こんなことで心を乱しちゃダメだろ! 無心になれ俺!
するとここで助け船が入る。
俺と月野さんの間を、日七瀬さんがチョップで切裂いたのだ。
はぁ……、助かった……。と思ったら、今度は日七瀬さんが胸の谷間で俺の腕をホールドするように抱きつく。
「月野さんはオマケなのでノーカウントです」
挑発を受けた月野さんはピクリと眉を動かした。
あ、ヤバい。これはスイッチが入っちゃったよ……。
月野さんは空いている俺の腕を再び胸で挟み込んでにっこりとわざとらしく笑った。
「うふふ、三下のほざきは面白くて愉快ね。地獄……見せちゃおうかしら」
「私に三途の川を渡って欲しいなら、運賃はあなたの命になりますがよろしいですか?」
「へぇ~。じゃあ、試してみる?」
俺を挟んで月野さんと日七瀬さんのいつもの修羅場が始まった。
すごく居心地が悪いのに、両方からぷにぷにとした感触が伝わってきてすごく気持ちいい……。
って! だからダメだって!!
俺には天音がいるんだって!!
もうちょっとこのままでいたいという本能に抗い、俺は二人を強引に引き剥がした。
「ちょっと! ちょっと! ちょっとぉぉー!! 二人ともケンカはダメだよ!」
すると二人はキョトンとした表情で顔を見合わせる。
あれ? 俺、なにか変なことを言ったかな?
日七瀬さんは右手を左右に振って、答える。
「いえいえ、これはケンカではありません。ですよね? 月野さん」
「そうよ。こんなの挨拶みたいなものよ。ねー、日七瀬さん」
「ですです」
さっきのやりとりがケンカじゃない?
どうみてもそう見えたけど……。
でも二人そろって否定するってことは、そうなんだろうか?
あ! これってもしかして、女子ならではのジョークを交えた挨拶ってことか。
きっとそうだ。そうに違いない。
男同士でもそういうのってあるもんな。
ケンカしているようなやりとりをしていても、実はいじり合って楽しんでいる時がある。
こういうのって、本当に仲がいい関係じゃないと成立しないから難しいけど、もしかすると月野さんと日七瀬さんもそういう関係なのかもしれない。
そう思った矢先、二人はシンクロするように同じ言葉をつぶやく。
「「あー、早く本気で戦いたい……」」
「本当にケンカじゃないんだよね!? なんでサイヤ人みたいな思考になってんの!?」
やっぱりこの二人、仲が悪いような気がする。
むしろ仲が悪いという共通の考えが二人を繋いでいるような気するらしてくるくらいだ。
「そんなことより、春彦君のサプライズの話が聞きたいな♡」
「くっ! 矛先がこっちに来た!」
「そんな嫌そうな顔をしないで♡♡♡」
ああ、もうっ!
逃げられない状況で、なおかつ嫌な予感がすっごいするんだけどぉぉぉぉぉ!!
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