第50話 昼食もやっぱり修羅場?
夏休みの課題を進めた後、俺達は昼食を食べることにした。
だけど二人の様子に変化はなく、また修羅場が発生している。
「春彦君。はい、あ~ん♡」
「春彦様。こっちの方がおいしいですよ。どうぞ♪」
目の前には美味しそうが食事が並んでいるんだけど、左右に座った彼女達がそれぞれ俺にご飯を食べさせようとしていた。
月野さんが食べさせようとしているのは、ジューシーな唐揚げ。
そして日七瀬さんはサーモンのカルパッチョ。
両方美味しそうだけど、さすがにこれを同時に食べるのはちょっと……。
「あの……さ。一人で大丈夫だから……」
とりあえずこのままでは食事ができないと思って一人で食べようとした。
ところがこの言葉がさらに火をつけてしまう。
月野さんはわざとらしい微笑みを日七瀬さんに向けた。
「そう言ってるわよ、日七瀬さん。あとは私に任せて、日七瀬さんはゆっくりと食事を楽しんでね」
「お気遣いなく。春彦様は私が全面的にサポートしますので、月野さんはいなくても大丈夫ですよ」
「あら、優しい。でも遠慮しないで♡」
「大切な人のお世話は、メイドである私の方が適任です♪」
「ふふふ……」
「えへへ……」
「クスクス……」
「あはは……」
こわぁぁぁぁぁぁぁぁいいいいい!!
殺気を全開マックスにしたまま、笑い合うのはやめてぇぇぇぇぇ!!!!!
だが彼女達の戦いはさらにエスカレートする。
「春彦君、早く私を食べてね。今が旬の丸ごと果実が食べ頃だから♡」
「春彦様が食べたいのは私ですよね? むしゃぶりついてくださって大丈夫ですからね♪」
再び俺に体をくっつけてきた二人は、胸と太ももで俺をサンドイッチにする。
もう食事どころではない。……っていうか、二人の会話は完全に別の方向へ向かおうとしていた。
いつになったら、昼飯を食べられるんだ……。
その時、天の助けが舞い降りた。
「ただいまー」
天音だ! 天音が帰ってきた!!
同時に彼女の声を聞いて、月野さんと日七瀬さんはビクッと体を震わせた。
そして素早く俺から離れて座る。
二人とも、悪いことをしているという自覚はあったのか……。
とりあえず俺は玄関に天音を出迎えに行った。
「お……おかえり、天音。早かったね」
「ただいま、春彦。モデルの仕事が早く終わったの。家は大丈夫だった?」
「うん。大丈夫だよ」
「日七瀬さんは? 家事を押し付けるような形で出かけてしまったから申し訳なくて、これを買ってきたの」
「ケーキ?」
「うん。みんなで食べようと思って」
白い小型のスイーツボックスには、ショートケーキやモンブランなど、様々な種類のケーキが入っていた。
今はちょうど昼食の時間帯なので、食後のデザートに買ってきてくれたのだろう。
するとリビングに通じるドアを開いて、月野さんがおずおずと挨拶をしてきた。
「あー、えーっと……。こんにちは、天音さん……」
「月野さんも来てたんだ」
「うん……。迷惑だったかな?」
「ううん、そんなことないよ」
やっべ。天音が留守の時に女子二人を家に連れ込んでいたとなると、誤解されかねない。
ちゃんと説明をしておこう。
「じ……実はあの後、月野さんも来てくれて、みんなで夏休みの課題をしていたんだ」
「そうなんだ」
「いちおう言っておくけど、変なことはしてないからな」
「あはは、なにそれ」
軽い調子で笑った天音は、話を続けた。
「もしかしたら月野さんも来るかもって思ってたから、月野さんのケーキも買っておいたの」
「えっ!?」
「みんなで食べよ」
まさか月野さんがくることまで見越していたとは……。
「月野さんと日七瀬さんって春彦に迫ってくることもあるけど、私は二人のことを信じてるの。だって同じ人を好きになった友達だもん」
その言葉を聞いて、月野さんと日七瀬さんは気まずそうな顔をした。
そりゃそうだよな。
ついさっきまで天音の事を考えずに、全力で俺を取り合ってたんだから……。
さらに天音は目を閉じて……静かに、じっくりと語る。
「一緒に遊んで、一緒に笑って、一緒に勉強をして……。学生時代の思い出ってこうして紡がれていくんだなって……。そう思うと、二人が友達で本当に良かったって思う」
友達を想う天音の言葉を聞いて、月野さんと日七瀬さんは罪悪感で悶え始めた。
月野さんは真っ青になって胸を押さえて、日七瀬さんは頭を抱えてガクガクブルブルと震えている。
そして二人の表情は苦しみに染まっていた。
あまりの罪悪感に耐えきれなくなっているようだ……。
「今日は来てくれてありがとう……って、どうしたの?」
天音が目を開けて顔を上げた時、月野さんと日七瀬さんは床に倒れて、ピクピクと痙攣していた。
さすが天音。
無自覚で完全勝利を収めてしまったか……。
■――あとがき――■
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