第45話 二人っきりの夜は映画鑑賞でしょ


 父さんと葉子さんが新婚旅行に行って一日目の夜。

 風呂から上がってリビングへ向かうと、天音がテレビを見ていた。


「お風呂、あがったぞ。ん? 何を観てるの?」

「映画。ほら、一昨年ヒットしたアレ」

「それ、まだ観てなかったんだよな」

「じゃあ、一緒に観ようよ。まだ序盤だし……。ほら、こっち座って」

「うん」


 地上波で放送されていたのは、アメコミの実写版映画だ。

 アクション満載ではあるけど、コメディや恋愛の様子もしっかり描けていることから女性からも支持されている人気シリーズ。


 リーダーがパワードスーツを装着して戦う社長なのだが、ウィットにとんだジョークが面白いんだよな。


 カーペットの上に座布団を敷いて、俺達は隣り合わせで座った。


「こうして部屋を暗くしてると、映画館みたいだね」

「そうだな。……そうだ。今度のデートは映画にしてみようか」


 前回の水族館デートは本当に良かった。

 葉子さんにチケットを貰ったことがきっかけだったけど、今度は俺がしっかりとリードをしてあげないとな。


「えへへっ」

「なんだよ。急に笑って……」

「ちっちゃい時にお泊りごっこした時に、こんなことなかった?」

「ん~。いつだっけ?」

「ほら。幼稚園の頃にさ。春彦がうちに泊まりに来た時」

「あっ! もしかして妖怪ウォッチングのアニメを見てた時か!」

「そうそう」


 妖怪ウォッチングは俺達が幼稚園の頃に大ヒットした子供向けアニメだ。

 可愛いキャラたちがわきゃわきゃと活躍する様子は、男女を問わず大人気だった。


 もちろん俺達もハマって、よく一緒にアニメを見たものだ。


「あの時、タオルケットで身を包んで一緒に観たよね」

「なつかしいなぁ」

「あっ! そうだ! ちょっと待ってて」


 突然立ち上がった天音は二階に上がってしまった。

 何か思いついたみたいだけど、どうしたんだ?


 しばらくすると、夏用のタオルケットを持った天音が降りてきた。


「お待たせ」

「……タオルケット? それをどうするんだ?」

「こうするの!」


 ニヤリと笑った天音はタオルケットをブワッと広げた。

 そのまま自分と俺を包み込み、滑り込むように隣に座る。


「びっくりしたぁ~。いきなり被せなくても」

「こういうのは勢いが大切なの。一緒のタオルケットで映画を観よ」

「うん」


 どうやら天音は幼稚園の時に体験したことを、もう一度やろうとしているみたいだ。


「私達、子供の頃と同じ事をしているんだね」

「うん。なんか、恥ずかしいけど、うれしいよな」

「そうだね」


 なつかしさと、好きな彼女と一つのタオルケットを共有しているという状況が、くすぐったい感情を刺激する。


 この感覚を味わうたびに、『ああ、俺って天音のことが好きなんだな』って実感するんだよな。


 よ……よし! ここはちょっと背伸びをしてみよう!


 小さな覚悟を決めた俺は、隣に座る天音の肩に手を回した。

 ゆっくりと彼女の肩を抱きしめて、少しだけこちら側に寄せる。


 俺の突然の行動に、天音は驚いた様子で訊ねてきた。


「どうしたの? 急に肩を抱いて……」

「えっと……。その、男らしいかなと思ったんだけど、変だったかな」

「えー。春彦って男らしさなんかを意識してたの? 似合わないんだけど~」

「ひっどいなぁ」

「まぁ、私はいつもの春彦でも、すごく好きなんだけどね」


 なんだよ。俺がカッコつけているのに、なんか天音の方が男前みたいじゃないか。

 天音って締めの言葉が上手だから、自然に振る舞っているつもりでもカッコイイところがあるんだよな。


 まぁ、でも……。それ以上に可愛いんだけどさ。

 そして俺はそんな天音が好きでたまらない。


 天音は映画を観ながら、うっとりした様子でささやく。


「彼氏に肩を抱かれながら、一緒のタオルケットに包まれるのって、すごく幸せ。こんなに幸せな気分になれるんだね」

「うん」

「春彦……。私、幸せすぎる……」


 徐々に声がちいさくなっていく天音。

 まるで、二人の世界に溶け込んでいくようだ。


 それからしばらくして映画が終わった。

 人気シリーズということもあるが、今回のは特に面白かったな。


「映画、終わっちゃったな……って、天音?」

「すー……。すー……」

「寝ちゃったのか」


 隣を見ると、天音は気持ち良さそうに眠っていた。

 天使の寝顔ってこういうのなんだろうな。


 でもここで寝てしまったら風邪をひいちゃうし、部屋まで送ってやろう。


 あれ? そうなると……お姫様だっこするってことか?

 もっと言うなら、天音の部屋に入っちゃうってことか!?



■――あとがき――■


いつも読んで頂き、ありがとうございます。


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