第40話 新婚旅行はどこへ
夜の七時すぎ。
食卓を家族四人で囲って、夕食を食べてた。
俺は小鉢に入った肉じゃがを口に入れ、その美味しさに舌鼓を打つ。
「おぉ! すごく美味しい!!」
すると天音が照れながら唇を尖らせる。
「あ、ありがと」
今は父さんや葉子さんもいるから、思い切って喜ぶことができないようだ。
天音のクールな一面は、どうやら俺以外の人間に発揮されてるらしく、特に葉子さんの前だとその傾向が強い。
俺もしばらく父さんと二人暮らしだったからわかるんだけど、親を助けたいと思うと早く大人になろうとして、感情の出し方が不器用になってしまう時がある。
大人になればどんな時でも冷静でしっかりしているはずだ……という思い込みからくるものだと俺は分析しているけど、ぶっちゃけのところはよくわかっていない。
気づいたら、俺は陰キャ・天音はクール系という性格になっていた。
でも二人っきりなると、俺達は素の性格に戻れる。
それはカレカノだからというだけでなく、幼馴染という理由が大きいんだろうな。
するとここで葉子さんが「あっ」と、なにかを思い出したように声を上げた。
「そういえば、あの事を話しておかないといけないわね」
「どうしたんですか?」
「二人が夏休みに入ったら、一週間の新婚旅行へ行くつもりなの。ヨーロッパかハワイに行くつもりなんだけど、二人の希望とかある?」
そっか……。再婚とはいえ、二人は新婚さんなんだ。
だとすれば新婚旅行に行くのはむしろ普通か。
でも、せっかくの機会なのに俺達までついて行ったら、それはもう普通の家族旅行になってしまうんじゃないのか?
「あの……。新婚旅行ですよね? 俺達も行っていいんですか?」
「もちろんよ」
葉子さんが優しくほほえむと、隣に座っていた父さんがニヤリと笑って親指を立てた。
「俺達は家族なんだぜ! 一緒に行くのは当たり前じゃないか。それにこんな時じゃないと海外旅行なんてできないからな!!」
父さんは天然なところはあるけど、家族を大切にするという点ではいままでブレたことがない。
いつも俺の事を第一に考えてくれていた。
正直、こうして新婚旅行の時でさえ俺や天音のことを優先して考えてくれることは嬉しい。
でも……、だからこそ、俺は父さんと葉子さんに新婚旅行を楽しんで欲しかった。
俺達がついて行っていいのだろうけど、できれば新婚旅行は二人で羽を伸ばして楽しんで欲しい。
とはいえ、俺だけの考えで発言するのはよくないな。
俺は隣に座る天音に、小声で相談をすることにした。
「天音はどう思う?」
すると天音も小声で返事をする。
だけどその調子は予想外にあっけらかんとしていた。
「春彦こそ、思ってることがあるんでしょ?」
「まぁ……、そうだけど……。天音の考えもあるかと思って……」
「私の事を気にしてくれてるんだ。春彦らしいね」
「茶化すなよ」
俺が照れるのを見て小さく笑った天音は、落ち着いて自分の考えを教えてくれた。
「たぶん、私は春彦と同じ考えだと思う。だからそのまま春彦の考えを言ってみて」
「わかった」
その言葉を聞いただけで、天音の考えていることはすぐにわかった。
きっと天音も俺の考えていることは全て理解しているのだろう。
だったら、ちゃんと両親にそのことを伝えないとな。
「父さん、葉子さん。新婚旅行は二人で行ってきなよ」
俺の言葉に驚いたのは父さんだった。
「えっ? でも春彦、海外旅行に行きたいってよく言ってたじゃないか」
「興味がないわけじゃないけど、二人とも再婚してから俺達のことをずっと気にしてたじゃないか。せっかくの機会なんだし、二人っきりでゆっくりとしてきなよ」
「しかし……、親の俺達がお前達に甘えてしまっていいものかどうか……」
父さんが申し訳なさそうにこめかみをかいた時、葉子さんがまったりとした口調で話に入ってきた。
「純一郎さん。二人は私達が思っている以上に大人なんですよ」
「葉子さん……」
「ここは二人の言葉に甘えて、私達だけで行きましょう」
父さんはすぐに返事をせず、しばらく考えていた。
だけど、フッと笑って、大きく頷いて見せる。
「そうだな……。じゃあ、新婚旅行は俺達だけで行くことにする。二人ともありがとう!」
こうして夏休みに入ったら、父さん達は新婚旅行へ行くことになった。
それはつまり、俺と天音が二人っきりで一週間生活することになるのだけど……。
まぁ、……大丈夫だろう。
■――あとがき――■
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