第35話 イルカショーの会場で
水族館でデートをしていた俺達は、イルカショーの会場にやってきた。
この水族館は特にイルカショーが人気で、これを見るためだけに県外からやってくる人もいるのだと言う。
まだ時間に余裕はあったが、俺達は中央付近の席を確保することができた。
「ちょうどいい席が空いていてよかったな。でも思ったり時間が余ってしまった。あと二十分もある」
「じゃあ今のうちに、ちょっと友達に電話をしてくるね」
「ああ、わかったよ」
そう言って、天音は自分の座っている場所にポシェットを置いて、会場を出て行った。
電話って言っていたけど、たぶんトイレだろうな。
俺は決して気が利く方ではないが、こういう時は何も言わないことが吉だと言う事くらいは知っている。
まだ準備中でイルカのいないプールを、俺はぼんやりと眺めた。
「ふぅ……。今のところ、デートは順調かな」
すると後ろから同い年くらいの女子の声がした。
「順調でよかったわ。でも疲れたでしょ? はい、これドリンク」
「ありがとう……。……。……んっ? んんんんっ!?」
ドリンクを差し出したのはボブカットが似合うメガネ巨乳美少女……、月野優香さんだった。
今はなぜかキャスケットと呼ばれる帽子を被っている。
「月野さん!? いつのまに!?」
「来ちゃった♡」
電車の中で隣の車両に乗っていたからもしかしてとは思っていたけど、まさかこんなに直接接触してくるなんて。
たぶん天音がいなくなったことを確認して、すかさず声を掛けてきたのだろう。
だけど、今日の俺は違う。
今は天音とデートをすることが第一優先だ。
そのことはきっちりと伝えておこう。
「ごめん、月野さん……。今日は天音とデートしてるんだ」
「そ……、そんな……」
月野さんはショックを受けたようによろめいた。
「春彦君……。疲れすぎて妄想と現実の区別がつかなくなってるのね。かわいそう……。私が癒してあげる。バブバブしていいよ?」
「遠回しにバカにしてるよね?」
「冗談よ。本気にしないで」
イタズラ好きな月野さんらしい会話だ。
真面目で優等生の学級委員長……っていうのが、他の人達の印象だけど、たぶん月野さんの本性を知っているのは俺と天音と日七瀬さんくらいだろう。
月野さんは天音の席とは逆側の場所に腰を下ろして、肩をすくめて苦笑いをした。
「実を言うと、今日は二人のデートを邪魔させないために来たのよ」
「邪魔をさせないため? よくわからないんだけど……」
「今朝ね、日七瀬さんから電話が掛かってきたの。なんでも霧咲のお嬢様が二人のデートに乱入するって言い出したらしいわ」
「えっ!?」
「それで私と日七瀬さんで、なんとか霧咲さんの暴走を止めようとしているわけ。まったく……日曜日の朝からいい迷惑よ」
「わざわざ俺達のために……」
「これに関しては、春彦君というより天音さんのためよ。恋敵とは言っても友達だし、初デートを嫌な思い出にするなんてダメでしょ」
天音・月野さん・日七瀬さんってたまに修羅場を繰り広げるけど、いざとなると協力し合える仲みたいだ。
女同士の友情の成せる業といったところか。
「イルカショーで春彦君を見つけたのは偶然だけど、私と日七瀬さんで霧咲さんを遠ざけるようにしてるから、今日はゆっくりデートをしてて」
「月野さん。……巻き込んでしまって、ごめんね」
「いいのよ。天音さんと別れた後は私の番だし、今のうちにポイントを稼いでおかないといけないでしょ♡」
「ん? 今、別れた後とかなんとか聞こえたけど……」
「きっと気のせいね」
あれ? もしかして、漁夫の利を狙ってるだけなのか?
女同士の友情ってこえぇぇ……。
……と、ここで天音の声がした!
「春彦~。どこ~?」
後ろを見ると、天音が別の場所で俺を探していた。
どうやら座っていた場所を見失っているみたいだ。
でも今ここには月野さんが居る。
バレるとヤバい!
「やっべ! 天音が戻ってきた!!」
「イルカショーも始まる! あぁ、どうしよう!! 立ち上がって移動したら天音さんにバレる!!」
「反対側に距離を取って座れば、バレないんじゃないか!? いちおう帽子もかぶっているし!」
「そ、そうね!」
月野さんは素早く距離を取って、下を向いた。
そのすぐ後に、天音がやってくる。
「あ、いたいた。お待たせ。……あれ? なんだか焦ってるみたいだけど、どうかした?」
「い、いや……なにも……。はは……」
「ふぅん。そっか」
少し離れたところに月野さん。
そして何も事情を知らない天音。
これは何かが起きそうな予感……。
■――あとがき――■
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