第32話 駅に向かって
日曜日の朝。
朝食を終えて支度を整えた俺は、玄関前で天音を待っていた。
今日の目的は水族館デートだ。
小学生の頃はよく天音とお出かけする時もあったが、高校生になってからはこれが初めて。
やっぱり緊張するよな。
いつもよりヘアースタイルもちゃんとしておいたし、服装だって一番オシャレなものを選んだ。
きっとこれなら大丈夫だろう。
そう思いながら、スマホで髪型をもう一度チェックしていた時、準備を整えた天音がやってきた。
「おまたせ」
「――ッ!?」
デート用の天音の服装は、いつものクールな印象とは別の、清楚系のコーデだった。
フェミニンなノースリーブのシャツにフレアスカート。
可愛さと上品さがちょうどいい具合にバランスが取れている。
普段とは違う天音の魅力に、思わず見とれてしまった。
「な……なに?」
照れくさそうに訊ねてくる天音に、俺は慌てて答える。
「そ……その服、似合ってるよ」
「ふふっ、ありがと。春彦もカッコいいじゃん」
「本当?」
「お世辞半分だけどね」
「ひっで」
「あはは。それじゃあ行こうか」
こうして俺達は水族館に向かうことにした。
葉子さんからもらったチケットの水族館は、県の一番中心となる駅のすぐ近くにある。
メジャーなスポットではあるが、俺達学生はあまりそっちに行くことは少ない。
近場にも遊べるところはあるし、なにより電車の移動が大変だからだ。
あえて行くとすれば、なにか大きなイベントがある時くらいだろう。
逆に言えば、知り合いと遭遇する確率が低いので、安心してデートを楽しむことができる。
駅に向かって歩きながら、何気なく雑談をすることにした。
「それにしても水族館なんてひさしぶりだな」
「そうね。……ねぇ、春彦。小学生の頃に一緒に行ったこと、覚えてる?」
「ああ、三年生くらいの時だろ」
「あの時、春彦って迷子になって、私が助けてあげたんだよね」
「え? 逆だろ。天音が迷子になって、俺が迎えに行ってやったんじゃないか」
「そうだったかな? まぁいいや」
「さては覚えていて、わざと思い出を改ざんしようとしたな?」
「さあ? 子供の記憶なんて曖昧なんだからいいじゃない」
「ったく、しょうがないやつだな」
他愛もない雑談だが、これがデート中だと思うと無性に楽しくて仕方がない。
緊張感と幸福感が入り混じって、テンションがおかしくなりそうだ。
天音も同じ気持ちだったらしく、声を小さくして言う。
「なんかさ……。いつも一緒に居るのに、デートって意識すると緊張するね」
「そ……そうだな」
「私達……付き合ってるんだよね」
「そう……だな」
改めて言うと、恥ずかしい。
恥かしいが、嬉しい。
もう、なんなんだよ! このもどかしさは!
とても落ち着かないのに、すごく嬉しい。
逃げ出したいけど、ずっとこのままでいたい。
さらに天音は大胆なことを言い出した。
「う……腕とか……組んじゃう?」
「あ、ああ! い……いいいいい、……いいよな! 腕な! うん!」
「ちょっと。そんなに緊張したら、こっちまで恥ずかしくなるじゃない」
「ご、ごめん」
こうして俺達はギクシャクしながらも、腕を組んで歩くことになった。
もう幸せでたまらない。
「えへへっ」
天音が嬉しそうに笑う。
可愛いすぎるだろ!
「もしクラスのみんなに見られたら、恥ずかしさで卒倒しちゃうかも」
「さすがに日曜日の朝の電車で会う事なんてないさ」
「それもそうね」
こうして俺達は腕を組んだまま歩き、最寄り駅に到着した。
改札を抜けて駅のホームに立つ。
そして電車に乗り込んだ時、隣の車両を見た天音が驚きの声を上げた。
「は、春彦……、ちょっと……」
「なに?」
「月野さんがいる!」
「えぇっ!?」
天音が指さす方向を見ると、確かに隣の車両には学級委員長の月野さんがいた。
俺達には気づいていないみたいだが、どうやら同じ方向へ向かっているみたいだ。
「なんでこんな時間に……。日曜日なんだから、午前中は自宅でゴロゴロするのがセオリーじゃないの」
天音の疑問を聞いて、俺はあることを思い出した。
「あ……、もしかして……。水族館横の図書館に向かってるのかも……」
「えぇ!?」
「月野さんって、よく図書館で勉強するんだよ」
「バレたらたぶん、デートどころじゃないよね」
「うん……」
どうも今回のデート、波乱の予感がする……。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
「面白かった」「続きが気になる」「天音ちゃんと腕を組みたい!」と思って頂けたら、
【☆☆☆評価】【フォロー】をして頂けると嬉しいです。
皆様の応援がモチベーションに繋がります。
よろしくお願いします。
投稿は一日二回
朝・夕の7時15分頃です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます