第24話 一緒に勉強をしない?


 夕食を終えた後、俺は自室でテスト勉強をしていた。


 その時、ドアのノックする音が聞こえる。


「春彦、お願いがあるんだけど……いいかな?」

「うん、いいよ。入って」


 部屋に入ってきた天音は、まだ部屋着のままだった。

 そして手にはノートや教科書がある。


「どうしたの?」

「あのさ。勉強、教えてくれない?」

「えっ……、俺? 別にいいけど、天音もそんなに悪くないだろ。教えられることなんてあんまりないと思うけど……」


 すると天音は恥ずかしそうに苦笑いをした。


「実は物理と数学が苦手なんだよね。数学はギリで理解できるけど物理とか本当にダメ。いつも詰め込みで点数を稼いでるだけなの」

「それなら俺の得意科目だから教えてあげられると思うよ」

「本当? よかった」


 天音は安心したように微笑んだ。


 モデルもしている彼女は、学園トップクラスの美少女ということで皆から特別視されている。

 男子だけでなく、女子からも人気があるほどだ。


 直接見たわけじゃないけど、女子からラブレターを貰ったという話も聞いたことがある。


 そんな天音が頼ってくれるというのは、なんか嬉しいな。


 こうして俺達は期末テストにむけて勉強をすることにした。


 しばらくして一息ついていた時、天音がホットミルクを飲みながら訊ねてきた。


「あのさ……。純一郎さんってなんで私達が付き合うことを反対してるのかな?」

「それはこの前、葉子さんが話してたじゃないか」

「うん、そうなんだけど。他に理由があるんじゃないかなと思って……」

「他に?」

「義理とはいえ兄妹だから……、まだ高校生だから……って、聞けばそれっぽいことを言ってるけど、なんか純一郎さんっぽくないんだよね」

「ああ、それは俺も思ってた」


 俺の知っている父さんは明るく陽気で天然。

 その場の勢いで場違いなことを平気でいうような人だ。


 俺達が付き合うことは法律上問題ないのだから、今までの父さんなら「まー、いいんじゃね? あっはは!」とか言って認めてくれると思っていた。


 でも今回に関してだけは、再婚前から不必要に警戒していた節がある。


「父さんが俺達が付き合うことを反対する本当の理由か……」


 もしかすると俺は、父さんのことを知っているようであんまり知らないのかもしれない。


 俺は手に持っていたホットミルクを一口飲む。

 隠し味に入れたバニラとハチミツの香りが口の中に広がった。


 ……と、ここで再びドアをノックする音が聞こえた。


「春彦君、いる? 話があるんだけど……」

「え!? 葉子さん!!」


 突然葉子さんがやってきたので、俺は慌てて立ち上がった。

 その時、手に持っていたホットミルクをこぼしそうになる。


「わわっ!」


 何とか体勢を維持して、ミルクを机の上に置く。

 だが……、


「春彦、大丈夫?」


 俺を支えようと天音も立ち上がった……が、その時に足を滑らせてしまう。


「きゃっ!」

「うわっ!」


 ズッデーンと、俺達は二人そろってひっくり返る。

 ちょうど俺が天音の上になるような体勢だ。


 見ると天音は突然のことに戸惑いながらも、顔を赤くしている。


 や、ヤバい! なんかすごい体勢になってしまった!!


 さらに事態は悪化の方向へ……。

 部屋の中で起きたことを心配した葉子さんが入ってくる。


「大丈夫? すごい音がしたけど……、あら?」

「「あ……」」

「あらあら、ごめんなさい。私ったらなんだかすごい現場に遭遇しちゃって。うふふ」

「ち……違いますよ?」

「いいのよ。お邪魔虫はすぐに出ていくから。二人とも頑張って」

「何を!?」


 そう言って葉子さんは廊下に出て、ドアを閉めた。

 だけど……気配がまだするんだよな……。


「あの……、そこにいますよね?」


 ゆっくりとドアを開けた葉子さんは顔を出して、にっこりと笑う。


「バレちゃった?」

「バレバレっすね」

「ところで……続けないの?」

「何もしませんって!!」

「あら、残念♡」


 こうしたドタバタはあったが、葉子さんは俺に話があるらしい。

 とりあえず内容を聞いてみよう。


「それで、話ってなんですか?」

「今日純一郎さんが早く帰ってきた理由は覚えてる?」

「確か、クライアントさんが急に企画内容を変更するって言い出したからですよね?」

「ええ、そうなの」


 そう。普段の父さんはこんなに早く帰ってこない。

 こうして帰ってきたのは、仕事の予定が急に変更になったからだ。


 このことについて葉子さんは話を続けた。


「それでさっき純一郎さんと話していて知ったのだけど、そのクライアントさんっていうのが純一郎さんと小さい頃からの友達みたいなの」

「そうなんですか」

「私が知っている純一郎さんの昔からの友達って一人しかいないのよね。確か名前は……霧咲……さんだったかしら」

「えっ!? 霧咲ですか!」

「そっ。確か天音と同じ学校にも霧咲さんっていたから、もしかしてと思って。だからどうってことはないのだけど、いちおう伝えておくわね」


 そのことだけを伝え終えると、葉子さんは部屋を出て行った。


 天音もさっきの話に驚いた様子で訊ねてくる。


「ねぇ、春彦。純一郎さんのクライアントさんって……」

「たぶん、霧咲志保さんのお父さんだ」


 そういえば日七瀬さんが言ってたっけ。『すでにお父様の仕事を手伝って結果を出されています』って。


 じゃあ、企画内容を変更したのって……俺達が知っている霧咲さんが原因なのか?



■――あとがき――■


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