第23話 家族四人で夕食
自宅に帰った俺は、夕食ができるまで自室で勉強をしていた。
すると玄関のほうでドアが開く音がする。
きっと女子三人でカラオケに行っていた天音だろう。
「せっかくだし、玄関まで出迎えてやるか」
教科書とノートを閉じた俺は、天音に会うため玄関へ向かう。
すると天音がちょうど靴を脱いで、スリッパに履き替えるところだった。
「おかえり。楽しかったか」
「ただいま。うん、まぁね」
リビングに向かう途中、天音は日七瀬さんとLINEを交換したことや、月野さんと初めてデュエットしたことを楽しそうに話してくれた。
途中で俺の好きな女性のタイプの話になって、バチバチになったらしいが、とりあえず丸く収まったらしい。
どうやら仲良くなっても修羅場は継続して発生しそうだ。
そしてリビングに入った時だった。
俺の父さんが天音を見て「おぉーっ!」と声を上げた。
「天音ちゃん! パパだよー! おかえりぃー!」
「純一郎さん!?」
普段は深夜しか帰ってこない父さんだが、今日はめずらしく早い。
なんでもクライアントが急に企画内容を変更したらしく、今日は早く帰ることができたそうだ。
満面の笑みの父さんを見て、葉子さんはクスクスと笑った。
「純一郎さんったら、久しぶりにみんなで夕食を食べられるからってはしゃいじゃって。子供みたいね、ふふふ」
「お~っとぉ、葉子さん。そこは純粋な心を大人になっても失っていないと言って欲しいな」
「あらあら。それってこっそり買った高額フィギュアのことかしら?」
「…………………………!?」
高額フィギュアの事を持ち出され、変顔で驚く父さん。
そういえば父さんの趣味ってフィギュアなんだよな。
多分ネットで買ったんだろうけど、それを葉子さんに見つかっちゃったんだ。
俺は父さんの金遣いに口を出すことはなかったけど、家計を守る葉子さんの立場からすれば、高額フィギュアをこっそり買うのはダメだよな。
こうして俺達は夕食を食べるために食卓についた。
目の前に用意された豪華な食事を見て、俺は感激する。
「デミグラスハンバーグのアルミホイル焼き! すごい!!」
俺のリアクションがオーバーだったからなのか、天音は首をかしげて訊ねてきた。
「お母さんの得意料理の一つだけど……、ちょっと感動しすぎじゃない?」
「だって、少し前まで食事と言ったら、冷凍食品とスーパーのお惣菜だけだたんだぞ。こんなに手の込んだ料理なんて初めてなんだ」
すると葉子さんが俺にお茶を差し出してくれる。
「このハンバーグ。見た目のインパクトはあるけど、そんなに難しくないのよ」
「そうなんですか?」
「私は効率重視だから、こだわった料理なら天音ちゃんの方が得意かもね」
天音の料理が美味いことは知っていたけど、凝った料理なら葉子さんよりも上手なのか。
へぇ……。ということは、まだ天音は本気を見せていないってわけだ。
俺の知らない天音のいいところが、まだまだありそうだな。
「な、なによ……。そんなにジロジロ見て……」
「あ、ごめん。そんなつもりは……」
「作って欲しいなら、今度作ってあげるけど?」
「いいのか?」
「まぁ、春彦だし」
サクッと言っているが、よくみると天音の唇が緩んでいた。
きっと嬉しいのだろう。
可愛いんだよな、こういうところが。
……ここで父さんが、俺達のやり取りを見て、茶々を入れてきた。
「おっ! なんだぁ、春彦。ずいぶん天音ちゃんと仲良くなったみたいじゃないか」
「ま……、まぁな」
「ラブラブだねぇ。まるで俺と葉子さんみたいだ」
すると葉子さんはパンッと父さんの肩をはたく。
「もう。純一郎さんったら、何言ってるんですか」
「照れるなよ。そうだ! 今日は一緒にお風呂に入ろうか!」
「あらあら。調子に乗ってると、こっそり課金しているゲームのデータを消しちゃうわよ」
「…………………………!?」
ついさっきまでテンションMAXだった父さんは、ゲームに課金していたことをばらされて、変顔で絶句してしまった。
っていうか、ゲームに課金なんて俺も聞いてないんだけど?
すると父さんが何かを思い出して、真面目な顔で俺の方を見た。
「そうだ、春彦……。今さら言う必要はないだろうが、天音ちゃんは義理とはいえ妹。ましてや高校生なんだから、手を出すのは厳禁だぞ。まぁ、春彦はしっかりしているから大丈夫だろうが」
やべっ! てっきり和やかなムードで油断していたけど、父さんは俺と天音が付き合うことに反対だったんだ。
さっきのやり取りで気づかれてしまったか!?
返事をしない俺を見て、父さんは眉を歪める。
「ん? どうした。なんで黙ってるんだ?」
くっ! まだ付き合っていることを言うのは早い!
だけど天音のいる前で、ウソでも『そんなことはない』とは言いたくない。
どうすれば!!
その時、葉子さんが動いた。
「純一郎さん。お風呂に入ったら背中を流してあげるわね」
「ええぇーっ!? 本当!! 嬉しいなぁ!! でへへ~っ!!」
「もうっ、純一郎さんってちょろいんだから♡」
「何か言った?」
「ううん、な~んにも。うふふ」
葉子さんは俺と天音を見て、こっそりブイサインを出す。
俺達の事をフォローしてくれたようだ。
助かったぁ……。
でもできるだけ早く父さんを説得する結果を出さないと……。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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