第22話 修羅場にカノジョが現れたら?


 視聴覚室で俺は日七瀬さんに襲われる。

 どうやら彼女は俺のことが好きで、強引に関係を持とうとしていたらしい。


 しかし、突然現れた月野さんのおかげでピンチを乗り切ることができた。


 でも月野さんと日七瀬さんは今も一触即発の状態……。

 この事態を収めるには、ちゃんと俺にカノジョがいることを言った方がいいよな。


 よし!


「日七瀬さん、言わないといけないことがあるんだ」

「なんですか?」

「俺、天音と付き合ってるんだ。もうカノジョがいるんだよ」


 すると日七瀬さんは信じられないという顔で驚いた。


「天音って……空野天音様ですか!? 春彦様、付き合っている人がいたんですか!?」

「え……うん。まぁ……」

「そんな!! 陰キャボッチで、私以外の人間から絶対にモテないと思ってたのに!!」


 ん? 日七瀬さんって、実は俺の事をバカにしてない?


 さらに月野さんが話に入ってきた。


「わかるわ、その気持ち……。モテなさそうだからこそ、安定した独占欲が満たされそうで惹かれるのよね」

「はふぅ! そ……そうなんです! 私だけを見てくれそうって思っちゃうんですよね」

「そうそう。そうなの。日七瀬さん、わかってるじゃない」


 月野さんは腕を組んで、「うんうん」と深く頷き、日七瀬さんはテンション高めでブンブンと手を動かして喋っている。


 っていうかさ……。本人のいる前で、そういう話で共感し合うの、やめてくれない? 傷つくんだけど……。


 その時だった。


 ガラガラ……と、視聴覚室のドアが開く。

 そして俺が最もよく知っている声がした。


「……みんな、何をやってるの?」

「あ……天音!?」


 そう。このタイミングで現れたのは俺の幼馴染で義妹でカノジョの天音だった。


「まったく……。春彦だけでなく月野さんまで帰ってこないからどうしたのかと思ったら、やっぱりこんなことになってたのね」


 そして天音はチラッとすぐ近くにいる日七瀬さんを見る。


「それにしても……、まさか日七瀬ちゃんまで……」

「わ、私は……本当に春彦様のことが好きなんです!」

「うん。でも、春彦は私のカレシだから。これ、決定事項ね」

「~~っ!」


 様子から察するに、途中からの会話は聞かれていたみたいだ。


 怒っている様子はないけど、『私の春彦に手を出したら許さない』というプレッシャーが凄まじく出ている。

 俺でさえ足が震えそうなくらいだ……。


「でも……、でもぉ……」


 カノジョの登場に日七瀬さんは完全に戦意を喪失し、元の小動物系の性格に戻っていた。


 ブルブルと小刻みに震えながら、それでも負けることを拒否するように、彼女は構えを解こうとしない。


 そんな日七瀬さんに近づいた天音は、優しく微笑んだ。


「じゃあ、とりあえず……。友達になろっか」

「へっ?」


 一瞬にして、辺りを支配していた殺気が消え去る。

 そして代わりに、天音の優しさが部屋を満たしていた。


 日七瀬さんは戸惑いながら天音に訊ねる。


「友達? 私、敵ですよ?」

「別に同じ人を好きになったからって、いがみ合う必要ないじゃん。普通に友達になって仲良くやろうよ」


 いつもの調子でサラッという天音だが、その言葉は優しさに満ちていた。

 本当に日七瀬さんと仲良くなりたい。……そういう気持ちが伝わってくる。


「……わ、……私は、春彦様を無理やり手籠めにしようと……」

「でも上手くいかなかったでしょ?」

「それは……そうですけど……」

「春彦はさ。普段はパッとしないけど、何かトラブルがあった時はなんだかんだで切り抜けちゃうんだよね。私、春彦のそういう土壇場の力はいつも信じてるから。いちおうカノジョだし」


 肩をすくめた天音は困った表情を作りながらも、かわいらしく笑う。


 ああ、そうか。そうだった。

 俺、天音のこういう竹を割ったような性格に惹かれて好きになったんだ。


 ただ幼馴染だから好きになったんじゃない。

 俺は天音という一人の女性が持つ魅力に惚れていたんだ。


 日七瀬さんはようやく構えを解き、ほんわかとした笑顔を見せた。


「なんだか……、嫁力を見せつけられたみたいです……」

「じゃあ、友達成立ってことで。はい、握手」

「は……はひ。よ……よろしくです……。えへへ」


 ニコニコ可愛らしく笑う日七瀬さん。

 天音と友達になれて、本当に嬉しいのだろう。


 ……と、すぐ側で月野さんがモジモジしていた。


「天音、ちょっと……」

「なに?」

「月野さんがソワソワしながら見てるぞ」


 もしかして月野さんも本当は天音と友達になりたいんじゃないだろうか。

 俺視点だと、二人は修羅場を繰り広げる時の方が多い印象があるけど、どうなんだろうか。


 すると天音はサクッと軽い調子で言う。


「え……、月野さん? もうとっくに友達のつもりだけど……違うの?」


 その言葉を聞いた途端、月野さんの表情がパァッと明るくなった。


「ううん。違わない♡ もちろん私もそう思ってたから。超余裕っ♡」


 リズミカルにスカートを揺らしながら喜ぶ月野さん。

 メチャクチャ喜んでる!!


「じゃあ、放課後は三人でどこか行く?」

「とりあえずカラオケかしら?」

「はわわ……、わ……、私……。あがり症だから……」

「大丈夫。こんなのノリだから。一緒に歌お」

「は! はひぃ!」


 友達であることを確認し合った女子達は、すでに放課後に遊びに行く話をしていた。


 でも、なんか俺、忘れられてない?


「あのさ……、天音。 俺は?」

「女子三人の会話に入ってくる自信あるの?」

「ぅ……。家で大人しく待ってます……」


 まっ、女子達が仲良くなったんだ。

 これはこれで良しとするか。



■――あとがき――■


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