第21話 視聴覚室で女子と二人っきり


 暗い視聴覚室で、俺は霧咲さんの付き人・日七瀬ひなせさんに抑え込まれていた。


 見た目は可愛らしい女子高生だけど、その正体は護身術を極めた最強系美少女だったようだ。


 そして彼女の言った一言に対して、俺は質問をした。


「霧咲さんに復讐? どういうことだ……」


 俺の言葉に日七瀬さんは言う。


「お嬢様は春彦様のことを好いているわけではありません。ただ単純に暇つぶしで、あなたと恋人ごっこをしたいだけなんです」


 まぁ……。なんとなく本気じゃないとは思っていたけどね。

 いくら変わり者だとしても、成績が近いというだけで人を好きになるなんて考えにくいからな。


 日七瀬さんは声のトーンを抑えたまま、話を続けた。


「お嬢様はすごい御方です。学業もですが、スポーツも万能で、すでにお父様の仕事を手伝って結果を出されています」

「だったらなぜ?」

「だって……。お嬢様はいつも私の大切なものを奪っていくんです……。無自覚なのかどうかはわかりませんが、よりによって春彦様を!」


 日七瀬さんはぎゅっと、俺を掴んでいた手に力を入れた。

 そして決意を込めた瞳で、静かに俺を見る。


「春彦様、私とエッチしましょう」

「はぁっ!? 何を言ってるんだ!」

「今まで私はお嬢様に奪われ続けました。だから、今度は私が奪います。……お嬢様からあなたを」


 すると日七瀬さんは制服のリボンを取り、ブラウスのボタンを外し始めた。

 さらにスカートをめくり上げようとする。


 ヤバいぞ、これは!

 日七瀬さん、完全に自分を見失ってる!!


「待って! 待って! 落ち着いて! 復讐なんかのために、こんなことをしちゃダメだって!!」

「復讐だけじゃありません。私の想いは先日、黒板に書いた通りです」

「黒板?」


 どうしてここで黒板の話が?

 私の想い? なんのことだ?


 確か黒板に書かれていた内容は、『私は高峰春彦君のことが大好きです!! はやく抱いてください!!』だったよな。


 んん? んんん!?

 これって、つまり……。


「も……もしかして……、朝の教室に黒板に落書きをしたのは……」

「はい、私です。朝一で登校して、こっそり書きました」


 マジか!! 誰が犯人なのか全くわからなかったけど、正体は日七瀬さんだったのか!!


 すると日七瀬さんは顔を可愛らしく赤く染めて、モジモジとし始める。

 小動物モードの日七瀬さんだ。


「こ……告白します。わ……わわ……私は春彦様のことが……すすすすすすすす……しゅき……、好きです。去年の秋、体育祭の実行委員で助けてくれたときからずっと……。はぅにゅ!」


 全ての気持ちを伝え終えた日七瀬さんは、恥ずかしさの余り顔を両手で抑えた。

 さらに落ち着かない気持ちを表現するように、脚をムニムニと揺らしている。


 っていうか、俺にまたがってそんな行動をされると、ふとももの感触がダイレクトにですね……。ごほん、ごほん!

 いや、あれだぞ。……俺は全然、エロい事なんて考えてないからな。


 しかし……、俺が去年、彼女を助けた?

 体育祭の実行委員で?


 なんのことだ……と思い返した時、去年の秋の事を思い出した。


「あっ! ミーティングの時に書記をやってた子か!」

「は……はひゅ! わ……私が困った時、春彦様はいつも助けてくれました。そしていつも頑張っているあなたを見て、私は……、私は! あなたのことが好きになってしまったんでしゅヴッ!」


 噛み噛みだけど、彼女が俺のことを好きだという気持ちはものすごく伝わってきた。


「だから、これは復讐のためだけではありません! 私自身の願いなんです!! お願いします!! 私、あなたのためならどんなことでもします!」


 ダメだ! 興奮している彼女を止める術はない!

 この体勢だと身動き取れない!


 っていうか、なんでこんなに力が強いんだ!!

 俺、陰キャだけど、そこそこ腕力はあるほうだぞ!!


 必死にもがくが、俺は彼女の組み伏せられ体勢から体を起こすことができなかった。


 日七瀬さんはというと、俺にまたがったまま、ゆっくりとスカートを持ってめくり上げようとしている。


 そして日七瀬さんのパンツが見えようとした瞬間、よく知っている女子生徒の声が、彼女の行動を止めた。


「は~い、ストップ♪」

「あなたは委員長の月野優香! どうしてここに!!」


 いつの間にか近づいていた月野さんに警戒した日名瀬さんは俺から離れて距離を取った。


 一方、月野さんはいつものように優しく微笑んでいる。


「うふふ。春彦君が視聴覚室に呼び出されたと聞いて、ピーンと来たわ。泥棒猫が悪さを企んでいるって」

「たったそれだけの情報で、どうしてバレたんですか!?」

「だって、私も春彦君を学校で迫るなら、視聴覚室か保健室にしようと思ってたから」


 会話がマニアックすぎるつーの!


 二人の間に、激しい火花が散っていた。

 殺気が膨れ上がり、周囲の空気がピリピリと音を鳴らしているような気がする。


 月野さんは微笑みながら殺気を放つ。


「春彦君の初めては……私のモノよ! 失せなさい!」


 日七瀬さんも負けずに応戦する。


「渡しません! 春彦様の純潔は私が頂きます!」


 また修羅場かよ!

 いい加減にしてくれよ、本当にさぁぁぁぁ!!


 でもその前に、言っておくことがある。


「あのさ……、月野さん。白熱しているところ悪いんだけど……、ちょっといいかな?」

「なに? 今は真剣な場面なの。気を散らさないで」

「俺が天音と付き合ってるってこと、覚えてるよな?」

「……。……。……もちろん」

「ついさっき、思いっきり『私のモノ』って言ってたけど?」

「……い、……言ったかしら。き……聞き間違いじゃない?」

「顔が引きつってるけど?」


 月野さんって、本当に俺と天音のことを応援してくれてるのか?



■――あとがき――■


いつも読んで頂き、ありがとうございます。


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投稿は一日二回

朝・夕の7時15分頃です。

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