第17話 信頼の理由
黒板に書かれた落書きのせいで、俺は女遊びをしている男という噂が立ち始めた。
そこでこの状況を収めるために、月野さんに全てを打ち明けて協力を得ようと考えた。
付き合っていること、両親が再婚したこと、さらに同居していること……。
一通りの説明を終えた時、月野さんは腕を組んで冷静に聞いていた。
「つまり、春彦君と天音さんは義理の兄妹ってこと?」
「ああ、そうなんだ。でも変な噂が立ったら父さんから付き合うことを反対されるかもしれないんだ」
「へぇ……。法律的には問題ないけど、親御さんの立場で考えたら複雑な心境よね」
月野さんは組んでいた腕をほどき、やさしく微笑んだ。
「わかった。さっきは冗談でからかうようなことはしたけど、二人がうまく行くように協力してあげる」
「ありがとう、月野さん」
すると隣にいた天音が話に入ってくる。
「ねぇ、さっきも言ったけど本当に月野さんを信用していいの?」
「大丈夫だって。月野さんは信頼できるから」
「……そうかな」
天音にしてみれば、一昨日から何度も修羅場を繰り広げた相手なので信用しにくいのだろう。
俺が月野さんを信じるのはちゃんと理由があるのだけど、それを説明するのは後の方がいいだろう。
すると月野さんが話し始める。
「黒板の落書きは、とりあえず不審者のイタズラだったってクラスのみんなに説明するわ。それで一旦は落ち着くでしょ」
「助かるよ……」
「先生からも今朝の騒動を何とかして欲しいって頼まれてたから大丈夫よ。それに放っておくと、みんな悪ノリするし……」
そうなんだよなぁ~。うちのクラスってどうでもいいことだけ協力的なんだよな。
「あの……」
ためらいがちに声を上げたのは天音だった。
「今まで月野さんとそこまで話したことがないからわからないんだけど、どうして私達のことを応援してくれるの?」
「それは……」
何かを言いかけた月野さんだったけど、天音は畳みかけるように質問をする。
「私が引っ越すことだって、月野さんが春彦に教えてくれたんだよね? 春彦のことが好きなら、放っておけば月野さんが春彦と付き合えたんじゃない?」
天音から見れば月野さんの行動はおかしいところばかりだろう。
もしかしたら黒板の落書きは月野さんが犯人ではないかと疑っているかもしれない。
だけどそうではないと俺は確信していた。
そして月野さんは『春彦と付き合えたんじゃない?』という言葉に苦笑いで答える。
「あはは……。それはちょっとできないかな。だって春彦君が天音さんに振り向いて欲しい一心で頑張っていたことを知ってるから」
「え……、どういうこと?」
驚く天音に、月野さんが話を続けた。
「春彦君の一学期中間テストの成績、学年二位なのは知ってる?」
「うん……」
「春彦君がそこまで勉強ができるようになったのは、学園一の美少女って言われていた天音さんに追いつくためなのよ。すごく頑張ってたんだから」
ちなみに、俺に勉強を教えてくれたのが月野さんだった。
彼女いわく、「コツを教えただけで、結果を出せたのは春彦君の努力よ」と言う事だが、俺にとって月野さんは恩人のような存在だ。
「春彦って私の知らないところで、そんなに頑張ってたんだ……」
「まぁ……、なんていうか……。何をしていいかわからなかったから、勉強をするしかなかっただけなんだけど」
天音は月野さんの方を見て、肩をすくめつつも爽やかに笑った。
表情の変化が少ない天音が、俺以外の人間にこんなしぐさを見せるのはめずらしい。
天音はずっと月野さんのことを警戒していたけど、もしかするとこれで仲良くなるかもしれない。
「とりあえず教室に戻ろう。うちのクラスメイトは悪ノリする奴ばっかりだから、帰ってくるのが遅いとまた変な噂を立てられる」
こうして俺達は用具室から出ようとした……が、そこでアクシデントが起きた。
「きゃっ!」
「ひゃんっ!」
まず、月野さんが転んだ。
そして、天音が巻き込まれた。
続いて、二人を受け止めようと俺が下敷きになる。
ズドォーンという大きな音と共に、俺達は床に倒れてしまった。
「いてて……。大丈夫?」
「うん。って、春彦!? どこ触ってるの!!」
偶然ではあるが、俺の右手は天音の胸を触っていた。
すごく柔らかい。とても柔らかい。
まるで天国のような揉み心地……ではあるが、そんなことを考えている場合じゃない!
「あっ! ごめん」
慌てて俺は立ち上がろうとするが、手に別の何かが引っかかる。
すると今度は月野さんが……。
「春彦君、そ……そこはさすがに、恥ずかしい……かな」
「え!?」
なんと、俺の左手は月野さんの股間を掴んでいた。
とっさのことだったので、とんでもない位置に手が行ってしまったのだ。
もちろんこれは事故だ。ワザとじゃない。
繰り返そう!
これは事故だ。ワザとじゃない!!
さらに追い打ちをかけてトラブルが発生する。
用具室の扉を開けて、クラスメイトの男子が入ってきた。
「お~い! 春彦~! いつまで、片づけを……って、え!?」
「「「あっ……」」」
クラスメイトの男子が見たのは、天音の胸を揉み、月野さんの股間に手を突っ込んでいる俺の姿だった。
改めて言うが、俺は無実だ。
「えーっと……。すまん……」
男子生徒は気まずそうに扉を閉めた。
そして走り去りながら、大声で言う。
「みんなぁぁぁぁぁぁッ!! 春彦が天音さんと委員長で3Pしてたぞぉぉぉぉぉぉッ!!!!」
「やめてくれぇぇぇl!!」
それから俺達はちゃんと事情を説明して、クラスメイト達の誤解を解くことができた。
改めて言おう……。俺は無実だ。
だけど天音の胸は柔らかかった。
■――あとがき――■
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