第16話 用具室で男一人・女子二人
学校に登校すると、黒板に『高峰春彦君のことが大好き』という文字が書かれていた。
書いた人間は不明。
イタズラなのは間違いないと思うが、これによって朝の教室は騒然となる。
俺はというと、クラスの男子から「裏切者!」「陰キャが調子に乗るな!」と罵声を浴びせかけられる目に遭ってしまう。
そして一限目の体育の授業が終わった後。
用具室で片付けをしながら、俺と天音は話をしていた。
「困ったことになったな……」
「そうね。一部で春彦が女遊びをしているって噂が流れ始めてるし」
変な噂が立たないように注意しようって言った矢先にこれだよ。
こんなに騒ぎになってしまったら、できるだけ早く誤解を解かないといけない。
そのためには落書きの犯人を見つけるのが一番なんだけど……。
と、ここで用具室に学級委員長の月野さんがやってきた。
「二人とも、片付けは進んでる?」
「月野さん」
そうだ。月野さんに俺達のことを明かしてみてはどうだろうか。
月野さんは俺が天音のことを好きで応援してくれると言ってくれている。
さっきの騒ぎもみんなを落ち着かせようとしていた。
少なくとも彼女は犯人じゃないだろう。
「なぁ、天音。俺達のことを月野さんに明かして、仲間になってもらうのはどうだ?」
「えぇ……、大丈夫?」
「きっと大丈夫さ」
俺は深呼吸をして、月野さんにカミングアウトする覚悟を決めた。
「月野さん……。話があるんだ」
「真剣な顔をしてどうしたの?」
「実は俺、……天音と付き合ってるんだ」
さすがに両親が再婚をして義理の兄妹になったということまでは言わなかったが、俺と天音が付き合っていることを伝えることができれば十分だろう。
すると月野さんはさびしそうに下を向いた。
「……そっか。やっぱりそうなんだ。最近の二人って一緒に居ることが多いし、そうじゃないかって思ってたのよね」
そして顔を上げて、無理に笑顔を作った。
「でも、春彦君がずっと天音さんのことを好きなのは知っていたから、祝福してあげないとね。よかったね。春彦君」
「月野さん、ありがとう」
「うん。そうなると、ますます黒板の落書きの犯人を見つけ出す必要がでてきたわね。幸せな二人の関係を潰そうなんて、許せないわ」
よかった。わかってくれたようだ……と思ったが、俺のこの考えは甘かった。
「じゃあ、犯人探しの話も詳しくしないといけないよね」
「――ッ!?」
そう言って、月野さんはなぜか俺の腕を組んできた。
そう……、腕を組んできたのだ!
たっぷんという効果音がしそうな胸が、俺の腕にポニュンと密着する。
体操着ということもあって、彼女の胸の大きさがより強調されていた。
突然のことに俺が硬直していると、天音が顔をひきつりながら月野さんに近づく。
「つ……月野さん? 私のカレシに何をしてるのかな……」
「なんのこと?」
「腕……」
「あ、ごめんなさい。私ったらつい……」
月野さんは俺から離れて、わざとらしく笑う。
なんか、怖い……。
「でも、天音さんと別れた後は私と付き合うかもしれないし、今のうちに腕を組んでおくのもアリかなと思うのだけど?」
すると天音も上品な作り笑いをする。
「うふふ。月野さんのジョークって面白い」
「ふふふっ。楽しんでもらえて、私も嬉しいわ」
怖い、怖い、怖い!!
月野さん、応援してくれるって話はどうなったんだよ!
さっき祝福してくれるって言ったよね?
よかったねって言ってくれたのは何だったの!?
俺の心配をよそに、二人の修羅場は続いた。
「まぁ、どちらにしても天音さんは私に勝てないから」
「どういうこと?」
「だって、今の私は……ノーブラだから」
「ノ……ノーブラ!?」
え……、どゆこと?
ノーブラ? ノーブラってつまり、ブラジャーを付けていないってことか!?
じゃあ、さっき腕を組んだ時の感触は、生乳感覚!?
「はっ!?」
生乳感覚を体験したことに戸惑っている俺を見た天音は『ぷーっ!』っとほっぺたを膨らませた。
そして何を考えたのか、天音は自分の体操着に手を突っ込んで、ブラジャーを取ろうとし始める。
「んんんんん~~~~っ! わ、私だって! で、できるし!!」
「ま、待て、天音。冷静になれ! 今、体育の授業中だぞ!」
「止めないで、春彦! 負けるわけにはいかないのよ!」
「ここ学校だぞ!!」
その時、月野さんがとんでもない事実を明かす。
「ちなみに、ノーブラっていうのはウソだから」
「「……えっ?」」
「ウソ。冗談。面白かったから二人をからかったの。驚いた? うふふ」
「「……」」
この時ようやく俺達は気づいた。
月野さんの本性って、小悪魔系女子なんだ……。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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