第15話 俺の寝室にカノジョが訪問したら……


 夕食を終えて風呂に入った後、俺は自分の部屋でベッドに寝転がっていた。


「父さんに俺達のことを納得させる方法か……」


 葉子さんの言う事が確かなら、今すぐ父さんに打ち明けてしまうと、天音と一緒に住めなくなってしまうかもしれない。


 だからと言って天音と別れるわけではないのだけど、会える時間が少なくなるのは嫌だ。


 なにより、天音が俺と一緒に居たいと言ってくれた。

 そんな嬉しい事を言われたら、頑張りたくなるのが彼氏ってもんだろ。


 なんとか父さんに俺達の関係を認めてもらわないと……。


 コンコン……。


 部屋のドアをノックする音の後に、天音の声が聞こえた。


「春彦、起きてる?」

「ああ、起きてるよ。どうしたんだ?」

「あのさ、部屋に入っていい?」

「えっ!?」


 俺の部屋に、天音が!?

 

 いや、そりゃあ、俺としては全然かまわないんだけど、男の部屋に女子がくるってかなり特別なことなんじゃないのか!


 なにより、俺と天音は付き合っている。

 ベッドがある部屋で二人っきりになったら、そういう展開だってありえるわけで……。


「春彦?」


 混乱している俺に、天音は怪訝そうな声で訊ねる。


 ヤバい!

 これ以上、引き延ばしたら変なことを考えていることがバレる!!

 なんでもいいから返事をしないと!


「まぁ、いいと言えばいいんだけど、……でも俺達まだ手を握っただけだし」

「……何の話?」

「いや、だから! いきなりその先となると、ちょっと勇気がいるというか……。あ! でも! アレだぞ! 俺はいつでもいいって言うか! もちろん天音の気持ちが一番で!!」


 ああ、ダメだ! 混乱して言ってることが支離滅裂だ!

 でも、こういう場合、どうしたらいいんだ!?


 すると天音は、淡々とした口調で言い放つ。


「めんどくさっ。入るね」

「思春期の男子の葛藤をめんどくさって、ひどくない?」


 俺があれだけ悩んでいたのに、天音はあっさりと中に入ってきた。

 こういう場合、女子って警戒するもんじゃないのか?

 それとも俺が考えすぎなだけなのか? むぅ……。


「お邪魔しま~す……。ふぅ~ん。ここが春彦の部屋なんだ。意外と片付いてるのね」

「あんまりジロジロ見るなよ」

「いいじゃん。私達、兄妹でカレカノで幼馴染なのよ。プライバシーは共有しないと」


 いけしゃあしゃあとよく言うよ。

 この状況だと共有されているプライバシーは俺の方だけじゃないか。


「じゃあ、俺が天音の部屋に入ってもいいのか?」

「それはイヤ」

「一方的すぎじゃね?」

「女子の部屋は聖域で、男子の部屋は無法地帯だからオッケーじゃない?」

「全国の男子高校生に謝れ」


 女子の部屋が聖域なのは認めるけど、男子の部屋が無法地帯というのは言いがかりだ。

 そりゃあクラスの中には人に見せられないものが転がっている男子の部屋もあるらしいけど……。


 天音は部屋の中をサクッと見渡した後、俺のベッドに腰を下ろした。

 同時にそんな彼女の行動に、俺の中で妙な期待と感情が跳ね上がる。


 すぐに目を逸らしたけど、こっちの気持ちに気付かない天音は首をかしげていた。


「それでさ。さっきの話だけど、どうするの?」


 さっきの話というのは、俺と天音の関係をどうやって父さんに理解してもらうかということだ。


 俺は勉強に使っている椅子を持ってきて、天音の前に座った。


「それなんだけど、俺が天音のことを大切に考えてるってことを証明することが大切なんじゃないかなと思うんだ」

「証明?」

「例えばだけど、将来設計を明確にして、そのために行動をしていることを示すとかどうかなと思って」

「それって、ランクの高い志望校を目指すとかそんな感じ?」

「詳しいことはまだ決めてないけど、そんな感じ」


 父さんが心配しているのは、トラブルが起きて新しい家族がバラバラになることだ。

 だったら、信用を得るために結果を出すことが必要だと考えた。


 天音は俺の考えに頷いて返す。


「なるほどね。……いいんじゃない。春彦って勉強は結構できるのに、将来なりたい仕事とか全然考えてなかったでしょ」

「うっ……。それを言われると辛い」


 バツの悪そうな顔をして頭を掻く姿が面白かったのか、天音は唇を隠して笑っていた。

 目がいたずらっ子モードになっているから、きっと心の中でバカにしているんだろうな。


「あともう一つ。変な噂が立たないように注意すること」

「変な噂?」

「月野さんの時みたいに可愛い子から言い寄られて、それが噂になったらどう?」

「俺が女遊びをしていると誤解されかねないか……」

「うん。だから変な噂が立たないように」

「わかったよ。注意する」


   ◆


 そして翌日の朝のことだった。


 俺と天音が登校して廊下を歩いていると、教室の方から生徒たちが騒ぐ声が聞こえた。


 休憩時間の気軽な雰囲気とかではなく、妙な緊張感が漂っている。


「なんだか騒がしいね」

「うん。なにかあったのかな……」


 天音とそんなことを話していると、教室の前でみんなに落ち着くようにと叫ぶ学級委員長の月野さんと目が合った。


 だが彼女は俺達を見て、ギョッとした表情をする。


「春彦君に天音さん!?」

「月野さん。なにかあったの?」

「ダメッ! 今は来ちゃダメ!!」


 うーん、どうもただ事ではないみたいだな。


 とはいえ、教室に入らないわけにはいかないので、俺と天音は後ろのドアから入ることにした。


 だが、そこで目にしたものは驚愕すべきことだった。


 教室の黒板に大きな文字で、俺に向けてのメッセージが書かれている。

 それは……。


『私は高峰春彦君のことが大好きです!! はやく抱いてください!!』


 え……、なにこれ?

 なにこれ?


 なにこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!



■――あとがき――■


いつも読んで頂き、ありがとうございます。


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投稿は一日二回

朝・夕の7時15分頃です。

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