第14話 夕食で知る事実


 俺は天音と付き合っていることを葉子さんにカミングアウトした。

 どんな反応が返ってくるか心配していたが、葉子さんはすんなりと俺達のことを認めてくれる。


 そのことを帰ってきた天音に伝えると、彼女は「ふぅん」と軽く返事をする。


「そっか。お母さんに話したんだ」

「うん。ちょうど話をする機会があったからね。それで葉子さんは俺達のことを応援してくれるってさ」


 表面上は特に大きな感情の変化がないように見える天音だが、わずかに唇の端が緩んでた。


 きっと嬉しいんだろうな。

 こうして一緒に暮らすようになってから気づいたけど、天音のクールな性格は半分演技なのかもしれない。


 中途半端にプライドが高いところがあるから、つい冷めたような態度を取ってしまうのだろう。


「でもちょっと意外。お母さんは私に好きな人がいるなんて夢にも思ってなかっただろうから、もっと慌てると思ってたけど……」

「んんん? ……葉子さん、天音が俺の事を好きなことを知ってたけど?」

「ふふふっ。めずらしいね。春彦でもそんな冗談言うんだ。あの天然キャラのお母さんが気づいてるわけないじゃん」


 あれ? もしかして天音は自分の気持ちがずっと前からバレていたことを知らないのか?


 でも……そうか。

 葉子さんは天音のことを生まれた瞬間から知っていて、ずっと大切に育ててきたんだ。

 天音自身が気づいていないことを、葉子さんは知っている場合はあるだろう。


「まぁ、暴走しなくて一安心ね。SNSで拡散されたらどうしようかと思ってたから」

「さすがにそれは……」


 するとキッチンから戻ってきた葉子さんが、エプロンで手を拭きながら会話に入ってきた。


「あら? SNSに二人のコラ画像を公開しちゃったけどダメだった? もう一万いいねをもらったのに」

「「えっ!?」」

「冗談♡ うふふ」


 まさかの発言に驚く俺達を見て、葉子さんは嬉しそうに微笑む。

 冗談って言うけど、こういう心臓に悪い事はやめて欲しい……。


 再び葉子さんがキッチンに戻るのを確認して、天音は小声で耳打ちしてくる。


「ね? 油断できないでしょ」

「う……うん」


 それからしばらくして、俺達は夕食を食べることにした。

 今日も父さんは遅くなるので、夕食は外食で済ませてくるらしい。


 父さんはゲーム業界のプログラマーなんだけど、遅くなる時は連続で泊まり込む時もある。

 どうも今は忙しいみたいで、しばらく帰ってくるのは遅くなりそうだ。


 夕食を食べ進める途中、俺は気になっていたことを葉子さんに訊ねた。


「そう言えば葉子さん。父さんの反応が気になるって言っていたけどどういうことでしょうか?」

「そうね。天音もいるし、ちゃんと話した方がいいわね」


 食べ終えた葉子さんは箸を揃えて茶碗の上に乗せる。

 そして静かに姿勢を正した。


「実はこうして同居生活をする前に、高校生の男女が一つ屋根の下で暮らして大丈夫かどうかで、純一郎さんと話し合っていたの」

「父さんが俺達のことで?」


 こくりと頷く葉子さん。


「私と天音が初めてこの家に来た時、春彦君はすごく驚いていたでしょ? たぶん純一郎さんはギリギリまで同居生活をすることを話していなかったと思うのだけど、どうかしら?」

「……はい、そうです」

「その理由は直前まで純一郎さんは同居生活をしていいかどうか悩んでいたからなの」

「あの父さんが……、そんなことを……」


 今にして考えてみると、再婚したことや一緒に暮らすことをギリギリまで話さないのは不自然だ。

 最初は父さんも天然だから適当なことをしたのだろうと思っていたけど、本当は俺の事で悩んでいたからだったのか……。


 でも考えすぎて、報告が直前になってしまうってところは父さんらしいかもしれない。


「純一郎さんはもちろん二人のことを信じているわ。でも男女の仲って簡単じゃないでしょ?」

「そう……ですね」

「ああ見えて純一郎さんは極力トラブルがない様に立ち回る人だから、二人が付き合うことは認めても、別々で暮らそうって言い出すんじゃないかしら」


 すると天音がポツリとつぶやく。


「私は……一緒に暮らしたいかな……」

「……天音」

「だって、せっかくこうして近くにいられるようになったのに、また別々で暮らすなんて……さびしいよ」

 

 俺も同じ気持ちだからよくわかる。

 別々で暮らしている時はここまで思わなかったけど、いざ好きな人と一緒に暮らすようになると、片時も離れたくないという気持ちが強くなる。


 わがままかもしれないけど、少しでも一緒にいてあげたい。

 天音にさびしい想いはさせたくない。


「大丈夫だよ、天音。俺がなんとかするから」

「春彦……」


 安心させてあげようと言葉を掛けると、天音は嬉しそうに笑う。

 やっぱり俺も、ずっと彼女の傍にいてあげたい。


 そう思った横で、葉子さんがニマニマしながら一言。


「いいわね、青春って感じで。写真撮っておこうかしら♡」

「「やめて!」」



■――あとがき――■


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