第7話 サイカイ

初めて1人で呑みに出かけた。


酒の弱い俺は、呑みに行きたいと思うことはこれまで無かったが、会社の先輩と数回行った小さな呑み屋には、スイーツもあり、甘党の俺はそれにはまっていた。


その先輩は転職する前から俺に、「たまには1人で出かけろよ!」と言っていた。

彼女のいない俺にマッチングアプリを登録させようと、無理矢理携帯を取られたこともあった。


その先輩に言われたからではなかったが、なんとなく、その日は、外で甘いものが食べたかった。




「いらっしゃませ〜って、あら、今日は1人ですか?」

「それが、先輩転職しちゃって、今もうこっちいないんですよ!」

「えー!そうなの⁉︎最後、顔見せに来てくれたらよかったのに〜」

「ですよね〜自分にもギリギリまで黙ってたんですよ?ひどくないですか?」



男2人で酒よりもパフェを食べに来る客だったからか、そんなに多くの回数は来てないのだが、顔は覚えてもらえていた。



「なので、彼女も友達もいない俺にはここのパフェしか癒しがないんですよ〜笑」

「なら、今日はチョコ多めにかけとくねー!」

「えぇー、いいんですか⁉︎ありがとうございますー!!」



呑み屋の店員さんだからか、この人は察する能力が高いのか、深入りし過ぎない範囲でコミュニケーションをとってくれる。


それもこのお店に1人で来れる理由かもしれない。





カウンターで、パフェを食べる客の相手をしてくれていた店員さんが、


「いらっしゃいませ〜!」


と仕事を再開した。


「3人なんですけど、空いてますか?」

「大丈夫ですよ!奥のテーブル席へどうぞー!」


すぐ後ろから聞こえる声色は華やかで、どうやら、3名の女性客が店に入ってきたようだ。


やはり、このお店はスイーツも美味しいからか、狭めの店内には、女性も多かった。



「ここのパフェってやっぱ人気なんですか?」

「まぁまぁかな?おかげさまで!笑

でも、一応呑み屋なんで、パフェ目当てのお客さんは珍しいですけどね笑」

「せっかく、勇気出して1人で来たのに〜!」


なんて、会話をしながら、ふと目を店の奥に向けた。




「どうしました?一目惚れ?笑」



店員さんが、意地悪な笑みを浮かべながら言った。


「いや、初恋です。」





逸らすことができない目線の先には、自分が演出に支配されていることに気づかせてくれた相手がいた。



「え!どのこ⁉︎あ、あの背中向けてる子⁉︎

声かけてきたら⁉︎」


なぜか、俺よりも嬉しそうにはしゃぐ店員さんに



「すみませーん!」



とあの子が振り返った。



注文するはずだったであろう、その声と目線は俺とぶつかった。




パフェの1番下に敷き詰められていた、コーンフレークは、アイスで少し柔らかくなっていた。

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失敗しないピエロ 久住 海 @SHINGARI

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