第6話 クランクアップ

例のドラマが映画化され、公開が終わる頃にはもう、周りは「自分自慢」を「自己PR」という言葉に上書きし、添削された見劣りする過去を黒く塗り潰していた。



これまでずっと自己をPRしてきた俺にとって、それは簡単だった。



これまで同様、あっさりと進路は決まった。


達成感ではない、それ以外の感情が首を絞めていた。




社会人は、大学生よりも関係は薄いが、重要度は高く、隠と陽ではなく、役職や仕事とプライベートも分けられ、より多様化していた。



「仕事が良くできてもダメ」

「仕事が出来なくてもダメ」

「プライベートが充実してないとダメ」

「大人としての品位がないとダメ」

「行動力がないとダメ」

「忍耐力がないとダメ」


「結婚」「出産」「給料」「貯金」「待遇」

「役職」「安定性」「夢」「介護」「自分」



頭は真っ黒だった。

「社会人だから当たり前だ」と言われればそれまでだ。

確かに、中学生の頃と根本は変わらない。


大学生の頃、少し明るくなったように感じただけだ。


その明るさも、作ったものだと自覚していた。

終わりがくると自覚していた。


また、過度な演出が必要になると分かりきっていた。


だからこそ、良い人で止まっていたかった。


これからは、どんな人になればいい?


仕事のできる人?嫌味のない人?

理想の後輩?部下?理想の先輩?上司?

理想の夫?理想の父親?

理想の息子?


そもそも理想の基準は?誰の理想?





監督は逃げ出した。

それでも支配は続いている。




この先、どう演出していけばいい?

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