第2話 周知と羞恥

俺は、中学3年生の夏、最後の大会で足を怪我した。

トーナメント2回戦。前半終了間際だった。


2回戦なんて、お互い下手くそ同士。

スライディングの当たりどころが悪いことなんて、よくあった。

中学生だし、意図的にやってる部分もあったかもしれない。


それでも俺は、相手を恨むこともこの結果に悔やむこともなかった。

1番最初に感じたのは、安堵感だった。


負けても惨めじゃなくなるから。

綺麗にサッカーを辞められるから。



部内では、中学内では、俺は上手いとされていた。

でも、本当は周りも自分の実力を知ってるんじゃないかと、ずっと怯えていた。


普段のキャラや連んでる奴らの雰囲気もあってか、実際に「下手くそ!」なんてバカにされることはなかったが、それが逆に勘繰らせた。 


「相手に勝つ方法」ではなく、「恥ずかしくない負け方」ばかりを考えていた俺は、最後の最後で最高の敗北を達成した。

そして、大義名分を振りかざした。



「キャプテンが削られたから負けた」

「惜しかった。キャプテンが怪我してなければきっと... 」

「あの時の怪我が尾を引いてるらしい」



簡単だった。

簡単過ぎて、この反応にすら疑いの目を持っていた。


確かに、血は出たが、選手生命を絶たれる程の怪我ではなかったし、俺が怪我をしなくても負けてだろう。


そんなことは、周りも知っていたのかもしれない。


なんせ、1回戦を突破したのさえ、1年ぶりだったのだから。


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