失敗しないピエロ

久住 海

第1話 いつからか...

俺は、優しくて真面目な良い人だ。



決してこれは、自慢じゃない。

自意識過剰とかでもなくむしろ自虐だ。


「良い人止まり」「優しすぎる」「真面目でつまらない」


俺にはこう聞こえるし、そう言ってるに違いない。


いつからこうなったのか、こう思わせるようになったのか...



確か、高校生の頃までは、自分にも欲があった気がする。ただ反対に、中学生の頃には、「良い人」「優しい人」なんて言われていた気もする。

そして、中学生の頃はまだそれを誉め言葉として受け取れていた。




俺は、サッカー部だった。

チームとしては、弱小だったが俺は小学生の頃からやっていたこともあり、部の中じゃ上手い方だった。3年生の時には、キャプテンにもなった。


おかげで、中学生らしいちょっとヤンチャな奴らとも仲が良く、女子ともそれなりに仲が良かった。


それでも、1年生の時には生徒会もやっていたし、勉強もそれなりにできていた。

多分、中の上か上の下。

さすがに、本当に頭の良い奴らに勝てる程ではなかったが、少なくとも、そいつらと同じレベルの会話ができていた。


ヤンチャな奴らは、そいつらに

「な〜宿題見せて〜ってか見せろや!」


なんて、半ば強引にノートを取り上げていた。


でも、それはまだ良い方で、先生に宿題の提出を促されても

「は?やっとるわけないやん!笑」

なんて、堂々と言う奴もいた。


当然、真面目な俺は宿題をやってこないなんて事は無かったし、忘れたとしても先生に堂々と言うなんて事はできなかっただろう。


だから、頭の良い奴らとも

「この問い3できた?」

「いや、それ僕も分からんかった...」

「マジ?難いよね?

俺さ、最初この公式使えると思ったんやけどさ−」

「そうそう!僕もそう思ったけど、ここがこうなっとるけんさ−」


なんて、問題の解き方についての議論を繰り広げる事もできていた。


まさに、文武両道だった。

陽キャとも陰キャとも仲が良かった。

男子とも女子とも仲が良かった。


この頃はまだ、そんな自分が誇らしかったし、チヤホヤされるのが嬉しかった。

そして、そんな自分になるため、そんな自分を続けるための努力もできていた。


だからこそ、「真面目」とか「優しい」なんて言葉が誉め言葉として聞こえていた。




高校生になってもこれは続いた。

いや、藁にもすがる思いで続けていた。


文武両道。

陽キャとも陰キャとも仲良しで、男子とも女子とも仲良しな俺。


違うことと言えば、サッカー部じゃない事や生徒会じゃない事くらいだった。成績も、中の上か中の中くらいだった。


この頃は、まだ欲があったから失ったものを補おうとしていた。



足が使えないなら手を使えば良いと、テニス部に入った。そこでは、一生懸命にはやらず適度にサボることで、中途半端な成績と生徒会じゃない事への言い訳を作り、サッカー部に劣る華やかさも付け足した。

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