第3話
意外と長い階段を上がっていくと、雨が弱まっていくのと同時に、騒がしい音が遠目に聞こえてきた。
「…お祭り?」 「っぽいよね…あ、
「なんだっけ、よもつへぐい?はしないようにね」
「あぁ…それは流石にわかるよ」 「ふふ、そりゃそっか」
ヨモツヘグイとは、黄泉の食べ物を食べたら戻れなくなるよ、というやつ。ジブリでも似た表現あったような気がするし、結構有名なんじゃないかな?
私がここに残らない様に少しの事でも情報共有してくれるのは、若干嬉しかったが同時に少し子供っぽい扱いに思えた。過保護なだけだと思うけど。
階段はのぼりきるころには雨は止み、傘を閉じて2人で手を繋いでいた。
「おぉ…なんか、夏祭りみたいな…」 「…きれい…」
目の前には、大量の人。大きな道の左右には屋台があり、大声で人を呼んだり料理を作っている。提灯や屋台の火など、淡いが確かな灯りがともっていた。
「…お面?」 「…隠した方がいいのかな」
「でも…売ってる店あるかな。まず通貨が同じか気になるし」
だが、一部だけおかしな点があった。それは、お祭りにいる人は全員顔を隠している事。お面だけでなく、表情のついた紙とか。
服装だけなら、普段着だったりじんべえや浴衣等をつけていて、普通に見える。
警戒しつつ人込みの中に入っていくと、凄いぶつかってくる割にわいわいと話していて、まるで私達の事が見えてない様だった。
「ひ、人多過ぎて探すどころじゃないんだけど…」
「…これ、お兄ちゃんが仮面被ってたらわかんないかもしれないんだけど」
「あ~…声頼り?」 「だね…無理ゲーすぎる…」
人の波にのまれつつ、屋台や人を見ていくが若干楽しい。お兄ちゃんを探す為とはいえ、お祭りで周りがわいわい楽しそうだからかな?
「へ、ぅわあっ!」 「っ、
――急に、
思わず振り向くと目が合うが、互い手を伸ばしても
「
歩き回ってもどこにも
…油断した、私のせいだ…いや、
「? …あれ、? う、そ」
バッグにつけていた
「ねエ、お嬢チャン」
「っ!? え、」
急に肩に手を置かれて振り向けば、私より背の高い男性2人がいて。やはり顔には仮面がついていた。
「ひとリ? 僕らと遊ばナい?」 「一緒に、あソぼ」
「っ…大丈夫です、っわ…」
「失礼、私のツレなんで、」
運が悪い…なんだコイツら、と思いながら逃げようとしていれば、誰かに手を掴まれる。もう一人いたのかと警戒したが、すぐにあの2人から歩いて離れた。
相手を見ると若い男性で、色染めかアルビノか白い髪をしてた。
「…あの、もう大丈夫です」 「…そう」
「ありがとうございました」 「…来て」
助けてもらったのはわかったためお礼を言うが、引く手を離してくれることも足を止める事もなく、一言だけ言って歩く。
どこに向かうかわからないが、今のところまだ直線な為まっすぐ後ろに向かって歩いていけば駅に戻れる。
「それで…」 「っ、お兄ちゃん?!」
「えっ、っ
「は? 馬鹿、お兄ちゃんも一緒に帰るんだよ!」
「!? 口調おかしくない?!」 「怒ってるんだよ!?」
彼の連れてきた先には、屋台の人と話すお兄ちゃん。仮面もつけてないし、何も食べてる様子はないが詰め寄っててを引いて駅へ歩いていく。
「ど、どうやってきたんだ? まさか、願い事じゃ…」
「気が付いたらいたの! 帰るよ! ぇ、…」
数歩しか歩いてないのに、すぐ目の前に駅の階段があって驚く。
…いや、ここは普通の世界じゃない。これくらいで動揺してたらダメだ。そう思って傘を取り出すと、傘に微かに色がついてるのがわかった。
「っ…」
とはいっても、白い壁にあててやっとわかる程度。これくらいならまだ大丈夫。
「…あれ、お兄ちゃんの傘は?」 「あぁ…あげちゃった」
「えっ、なら一緒に入ろ」
雨が原因で色がつくわけじゃないのかもしれないが、色が付くのは悪い事だろうというのはわかる。だから、階段を下りながらまた雨音がして祭りの音が遠ざかっていくのを、お互い無言で聞いていた。
ホームに降りても、透明の傘は見当たらなくて。…いや、
「!」 「? これは…?」 「…元の世界に帰る為のやつだって」
切符を持った状態で駅の電車に近づくと、駅の扉が開いた。本当にこれで帰れるんだという安堵と、
兄は特に気にしてない様子で、私がチケットを1枚渡せば受け取った。
「…
「あ…先行ってて! 私、ちょっと落とし物しちゃったか、ら…え」
振り向いて聞いてきたお兄ちゃんに、少しだけそれでもいいかもしれないと思った。だって私の本来の目的の、救出作戦は達成した。
だけど、
そう思って、私より長い間いるお兄ちゃんをここに居させない為に明るく電車に押し込むと、電車にお兄ちゃんが乗った瞬間、――――消えた。
「…え…? …き、消えた…?」
なんで、と思って片足を電車に入れて中をのぞいた。
「きゃっ?!」
ホームについていた足の安定感が突如なくなり、電車のドアに手を伸ばしたが、届くことはなく。
ホームの天井から降ってた筈の雨はいつの間にか止んでおり、傘から手が離れる。やばいと思って天井へ手を伸ばせば、突如眩しくなり思わず目を瞑った。
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