第2話


 優奈ゆうなはキョロキョロと辺りを見渡し、納得したように考え込んでいた。


「…優奈ゆうな、どうしたの?」

「…何で貴方は触れるんですか? この切符に」


「…それは…多分、私がアレの初めての契約者だから…じゃないかな」

「「!?」」


 私よりホラー知識があるから、私が気づいてない事にも気づいたのかもしれない。けど、優奈ゆうなはこっちが聞かないと最低限しか教えてくれないので聞いた。

 優奈ゆうなの質問の意味を理解する前に、突然の情報に頭が混乱する。


「…あなたが? 何のお願いを?」

「私は…ただ、身分差の恋を叶えたかっただけなんだ」


「…なら、貴方のお願いは叶えてあげられないか」 「え?」

「全員のお願いを叶えたら全員出れるのかなって思って」


 身分差の恋?と一瞬首をかしげたが、武士とかいた昔なら確かに差が激しいと難しいのかもしれない。でも、駆け落ちとか方法はあったように思うけど。

 優奈ゆうなの言った言葉に、思わず言葉を失った。私はこの切符以外の方法はないと思ってたけど、優奈ゆうなはそれ以外の可能性も考えてたんだ。


「…わかってたよ。彼女が。死んでしまう程の月日が、たったことは…。…どんなに長い月日がたっても、あの子の笑顔を想ったら…」

「…だったら、その子がいる場所に早く逝ったらいいのに」


「! …はは、それもそうだね…でも、触れても…馴染んでしまった私には、願いが叶うまで出られないんだ。出る資格がない」


 心底悲しそうな顔で話していたが、想い人の事を考えてた時だけ、嬉しそうな笑みがこぼれていた。

 心がズキ、としてつられて泣きそうになったけど、優奈ゆうなは彼をジッとみていた。


「…この駅から出たら、どうなるんですか?」 「!?」

「あぁ…外は出れないが…出ないほうがいい。一生戻れなくなる」


「…貴重な情報をありがとうございました」

「あぁ…君の名前は?」 「? 優奈ゆうなと、美琴みことです。では」


 突如心配どころか全く関係のない話をし始めた彼女に驚いたが、彼はなんとも思ってない表情でお辞儀をしてパチャパチャと水音をならしながら駆け足で行く。

 後を追うと、優奈ゆうなは立ち止まってくれた。


「ま、待って優奈ゆうな!」 「…なに?」 「何かあったの?」

「…いや、時間がどれだけあるかわかんないから」 「え」


「タイムリミットは傘に色が付くまでか、電車が来るまで。

お兄さんを探すのもだけど、他の人の話も聞きたいし…」

「…そう、だね」


 …そっか、優奈ゆうなは不器用なんだ。だから、目的以外の話は情報としてしか入ってこないんだ…。…なんか、ちょっと寂しいな…。

 そう思ってるのに気づいてないのか、優奈ゆうなは私の手を掴んで話してくれた。


「あの、まだ所々透明な傘の人がお兄さんの友達で契約した人だと思う」

「えっ。っ…!」


 優奈ゆうなの言う方向を見れば、私達を襲ったあの男と同じ服装の人がいて。傘は赤色に変な水色の模様が入っていた。

 優奈ゆうなはずかずかと彼に近づいていく。


「ゆ、優奈ゆうな。大丈夫なの?」

「多分? あの体は偶像が乗っ取ってたんだろうし…あの、」


「? ……お前…お前も、願いごとをしたのか?」


 どこか嫌悪するような鋭い目で見てきた彼に、余り恐怖を感じなかった。

 現実離れした現状に感覚が麻痺ってきたのかもしれない。と思っていたら優奈ゆうなの握る力が強くなった。…そっか、人苦手なんだっけ。


「…い、いえ…あの、まことさんを知りませんか?」

まこと…? …さあな、そこらへん探索でもしてんだろ」


「ありがとう。他の人は?」 「話してねーよ。なんか不気味だし…」

「あなたは何のお願いを?」 「…言うわけねーだろ」


 本当に知り合いなんだ。そう思っていれば、優奈ゆうなが私の後ろに隠れるようにして質問をしてくれたが、流石にお願い事は教えてくれなかった。

 この人ゲームだったら役に立たないなぁ、なんて思いながら別の人に話しかけた。


「…あの、」 「…へえ、今度は二人組? 珍しいわね」


 赤い着物をきて、深い青色の傘を持っている美しい女性。

 こちらに顔を向け傘を少し持ち上げると、白い肌に赤い唇と目じりが印象的で、花魁と表現するのがあってる風貌だった。


「あの…私達より先にあのお兄さん以外に誰か来ませんでした?」

「えぇ…来たわよ、貴方達みたいに話しかけてきた人が。どこに行ったかは、知らないけれど」


「そうなんですか…貴方のお願い事は、なんだったんですか?」

「私は…大切な人に身請けされたいって願ったのよ。それより高貴な方に身請けされてしまって…ふと、願ってしまったの」


 お兄ちゃんもやっぱり皆に話しかけたんだ。でも、…この人も、かなえきれない願いだった。身請けなんて何十年前か…。


「…ありがとうございます」

「――あぁ、そうそう。お2人さん、気を付けた方がいいわ」


「え?」 「どうしてですか?」

「傘を奪われれば、その人が切符を持ってこの空間から出てしまうんよ」


「!?」


 優奈が質問したそうなこともなかったので、別の人に話かけにいこうと手を引けば、背後から彼女が言った言葉に足を止めた。


「…それは、すでにやった人がいるんですね?」

「…えぇ。後、他の人は話しかけないほうがいいわ。もう…長い間ここにいたせいで、狂ってしまったから。何もしなければ何もしてこないわ」


「…なら、彼等の願いとかは…知ってますか?」 「…さあ」


 この世界から出た人はどうなるんだろう?アレがあの人の体を操ってたってことは元の傘の持ち主の体に入り込む形なのかな。

 まぁ、害がないなら別にいいかと思って念のため聞くが、はぐらかされてしまった。そりゃあ、他人の願い事なんて、言いふらせないか。


 でも、そしたら…することがなくなってしまった。安全の把握…駅内の案内図とかないのかな、と少しだけ歩いて辺りを見渡す。


「? どしたの?」 「案内図とかないかな~って」

「あ…そっか」 「ん~あるかなあ」


 考え込んでたらしく、うろちょろしてる私に気づいたのか聞いてきたので答えれば、本当に忘れてたらしい。方向音痴の人以外滅多に使わないしね…。

 元々階段を上れば夜空が見える外で、改札や駅員室すらないホームなので案内図などは見当たらず、兄も見当たらない。


「…上、いっちゃったのかな」 「…行ってみる?」

「でも…戻れないって…」


「戻った人が居ないだけで戻れるかもじゃん」

「…意味一緒じゃない?」 「…2人なら大丈夫だよ」


「それに、お兄さん助けに行くんでしょ!」 「!」


 階段の向こう側は、夜空が見えるから雨は降ってないんだろう。傘をさす必要がないという意味では、探索ははかどるだろうけど…階段が登りだけあって、この先に何があるかわからない。

 あの男の人の言葉もあり不安で足が止まるが、優奈ゆうなが笑って背中を押してくれて、2人で階段を上った。

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