第1話

 神社に行くと、お互い少しその場に立ち尽くした。

 優奈ゆうなは偶像をジッとみていて、私は兄がいなくなったここであの時の事を思い出していた。


「…優奈ゆうな、やろ」 「…うん」


 私のお願いで、偶像は私のバックに入れてもらうことにしてもらった。もしかしたら兄がいるかもしれないのだ。そこは優奈も譲歩してくれて、触ったらすぐに入れてくれた。


 やはり車じゃない分時間はかかり、昼食を食べた後本当はバスに乗る予定だったが、突如雨が降り渋滞になって急遽予定を変更して歩きになった。


「はあ…やっとついた…」 「ん…電車も遅延してるって」

「マジ? はぁ…急いだ意味よ…」


「…あれ、ねえ。美琴みこと」 「ん? どうしたの? 優奈ゆうな


 電車の駅でスマホを触ってる優奈ゆうなを横目にコンビニで買った傘を閉じていると、急に平淡な声で話しかけてきて違和感を感じ見た。


「…お兄さんが[この山から出ればあいつは追いかけてこれない]みたいなこと言ってた気がするんだけど……これ、出してよかったのかな」

「…さあ? でも、どうなったとしてもお兄ちゃん助けきれたらいいし」


「…そっか」


 たとえあの悪魔が出てきたとしても、お願い事をすればいい。私が大切な人って思えるのはお兄ちゃんだけだし。優奈ゆうなは親友だし。

 そう思っていれば、優奈ゆうなは少し悩んだ後軽く微笑んでいった。


「は~…やっと座れた…」


 やっと来た電車に乗れば、人はある程度居たが座る事は出来た。



 ――――




「―――と、美琴みこと」 「んん…? 優奈ゆうな…? …え、寝過ごした?」


 タタン、タタンと規則的な揺れに身を任せていればいつの間にか寝ていたらしく、優奈ゆうなに起こされた。顔を上げれば、私と優奈ゆうな以外車両には誰も居なくて。


「わかんない…でも、変だよここ」 「変…?」

「スマホが文字化けしてるし…暗すぎて外の景色わからないってある?」


 困惑した様子の優奈の言葉に、バッとスマホを見た。私の携帯も文字化けしてて、ロック解除すらできない。外の景色も、何もわからない。


「! あの偶像は…!」 「!? ない…え、アレのせい?」

「かも…! 他の車両にお兄ちゃんいるかもしれない!」 「!」


<終点~、終点~>


 私が抱きかかえていたバッグに入っていたはずの偶像は、なくなっていた。

 もしあの偶像の奴の中なら、ここにお兄ちゃんがいるかもしれない。そう安直に考えて立ち上がると、突如そう聞こえてスピードが下がっていく。

 外を見れば、いつの間にか地下鉄のホームが見えて。数人だが人もいた。


「今の…変過ぎ。どうする?」 「…終電なら、下りないと。わ」


 電車から降りようとした優奈ゆうなは、驚いたように後ずさった。何かあったのかな?と思って近づけば、駅内では雨のように水が降っていた。


「あ、あめ…?」 「大丈夫? え…」

「う、うん。多分普通の雨…どういう原理なんだろう」


「今の科学では解明できないと思うな…」 「ふふ」


 雨に、電車に行くまでの雨を思い出した。こういう時優奈ゆうなはすぐにどうなってるか理屈を知ろうとするから、少しずれてる気がする。

 …まぁ、控えめに笑う優奈ゆうなに緊張がほぐれてるのも事実だけど。


「傘買っててよかったね」 「確かに」


 駅構内にいた数人も、色とりどりの傘で顔は見えなかった。というか服装も、古いスーツや着物、ボロボロの服だったり…。

 コンビニで買ったビニール傘をさして駅に行くと、タイミングよく扉が閉まった。


「…見られてるのかな」 「え?」

「いや…閉まるタイミングが丁度だったから。何でもない」


「! …共通点はなさそうだけど…あの偶像に関わった人とかかな?」

「それなら昔神社を管理してた人とかいそうだけど…」 「あ、そっか」


 ホラーでは定番だからスルーしてしまいそうだったが、確かにそうかもしれない。私より優奈ゆうなの方がホラゲーをしてるのに、よく気付くなあ。

 もし見られてるなら、弱い所を見せないようにしないと。と思って話したが冷静に返されて気づく。確かにそういう袴とかの服の人はいない。


「…どうしよっか。話しかける? 話せるかわかんないけど…」

「そうだね…周辺の安全確認からしないと」


 確かに…こういう時、優奈ゆうながいてくれて安心する。優奈ゆうななら多分1人でも行動できるんだろうな…。

 歩いて近づいていく優奈ゆうなの後を追えば、優奈ゆうなに近づく人が居た。


優奈ゆうな!」 「? !」


 真っ黒の傘をさした綺麗な着物を着た男性。優奈は振り向く時気づいたみたいで、近づいてきた男を警戒した。が、男は近づいたらこちらにチケットを渡した。


「? これ…?」 「優奈ゆうな、大丈夫?」 「う、うん」


 チケットを出したまま微動だにしない男性に、優奈ゆうなは手でチケットに手を伸ばす。背後から近づいて話しかければ、普通に受け取った。

 それは古いタイプの切符のようで、2枚あった。


「これ…きっぷ?」 「みたいだね…」

「…! れ…な…?」 「? うわっ!」 「!?」


「れな…なのか…?」 「え…?」 「れな…?」


 男が傘を少し上げたと思えば、どこか切望するような表情で優奈ゆうなの肩を掴んだ。

 だが、すぐに離れたかと思えば頭を振って呟く。


「いや…違う、彼女は…だが…」 「何、この人…」

「…? …大丈夫ですか?」 「あ、ぁ…大丈夫だ」


 頭を手で押さえながら少しフラフラとした足取りで距離をとったかと思えば、少し辛そうな顔で軽く手を振った。


「すまない…君が、私の思い人に似ていて…ごめんね、怖がらせちゃったかな?」

「い、え…」 「あの、この切符は…?」


 最初無言だったから話は通じないと思っていたけど、意外にも愛想いい笑みを向けてくれた。


「これは…この場所から出るための切符だよ」 「なんで私達に…」

「君達は、まだ生きてるし…傘も透明だから」 「傘?」


「ここに来た人は、最初は皆透明な色の傘だったんだ。不思議に思ったけど…次第に色がついてきて…完全に色が付いた人は切符を触れないんだ」


「…生きて…ないんですか?」

「あぁ…願い事をしてしまった人は、叶うまで…体が死んでも、閉じ込められるんです」

「そんな…」


 彼が誰かと一緒に出ればいい話。それなのに私達に渡した理由が気になったが、体が生きてないから私達に渡したのかもしれない。

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