第6話
月曜日。それは最も休みから遠く、多くの人から嫌われている曜日である。
しかし、蓼食う虫も好き好きというように、月曜日を好き好む人というのもいるらしい。
俺よりも十分ほど早く家を出た成田は、月曜日の朝だというのに、特有の憂鬱さを感じさせることなく、むしろいつもより元気なんじゃないかと思える雰囲気をまとって学校へと向かっていった。
そんな成田は、今日も今日とて教壇の前に仲間と集まってお喋りに夢中だ。
その景色を軽く眺めながら、朝飯代わりのパンを自販機で買ってきた缶コーヒーで流し込む。味もろくについてないコッペパンが缶コーヒーを口の中で吸って何とも言えない感じになるが、すっかり慣れた朝の味だ。
「おはよう佐倉」
「おう、おはよう」
視界を遮るように前の席に座った勝浦は、あんまり美味くなさそうな飯だな、などと俺の朝食を好き勝手に言っている。
「いいんだよ、別に。腹に入れば一緒だ」
「自分の食事に対して無関心すぎるだろ」
「なにを今さら。朝、昼とコンビニで買ってきたパンなのは知ってるだろ。加えて夕飯はスーパーの総菜って生活に慣れれば関心なんてなぁ」
人として駄目だこいつ、と言いたげな視線を向けてくる勝浦を横目に、手元に残った僅かなパンを流し込んで、そのまま空になった袋と缶をすぐそこのゴミ箱に放り投げる。
吸い込まれるようにしてゴミ箱に入っていった缶は、すでに入っていた空き缶とぶつかって音を響かせる。
「そういえば、昨日からなんだろ。なんかなかったのか?」
唐突に勝浦が切り出した。
なんかというのは間違いなく新生活についてだろう。だが、勝浦の期待しているようなことは一切なかった。食後に少しは話したが、そのあとは各々の部屋に戻って顔を合わせたのは朝になってから。それも出掛ける準備万端の成田と寝起きの俺がちょっと廊下で顔を合わせたくらいだ。
「ある訳ねぇだろ。部屋片づけてるうちに終わってたわ」
「それもそうか。じゃあ、昼飯とかは?」
机の横に引っ掛けてられたレジ袋をヒョイと持ち上げて見せる。中身は先ほど流し込んだパンと同じものが二袋。勝浦もよく知る俺の昼飯である。
「女子は弁当持ってきてるし、そのおこぼれでも貰ってるかと思ったが、違うのか」
「弁当箱すら持ってないのが俺なんだから、そんなことにはならねぇんだよな」
「自信満々に言うなよ。まあ、なんとなく分かったわ。もうちょいなんかあると思ったけど、そんなもんか」
勝浦が言い終えるのを待っていたかのように、ちょうどチャイムが鳴って、教壇にはやる気のなさそうなあくびと共に先生がやって来た。
我らが担任、千葉先生である。
担当科目が公民なのに白衣を羽織り、俺らとは十歳も違わないはずなのに、春夏秋冬一年どんな季節でも覇気がなく疲れ切った雰囲気を醸し出している。まあ、一言でいえば変わった先生だ。しかし、授業は分かりやすく、一部の女子生徒からは歳の近さもあって人気らしい。
「月曜からわざわざ登校お疲れさん。前々からやりたがってた席替えだが、今からやろう。どうせ一限は俺の授業だし、月曜の朝一から授業は嫌だろ?」
朝の
「まあ、否定はしねぇよ。どう考えたって五日間の疲れが二日で抜ける訳ないんだし、休みてぇよ。で、どうする? やらなくていいなら授業やるけど」
普通の先生なら、否定しそうなところを認めてしまう担任の発言にクラスメイトが一斉に笑い出し、やるに決まってるじゃん、と影響力の高そうな声も聞こえてくる。クラスメイト以上に、先生の希望である席替えが可決された瞬間だ。
うちのクラスの席替えは、くじが入った箱と机の配置を大まかに示した黒板の図を使って行う。くじを引いて、その数字が書かれた場所が新たな自分の席となる。
運に任せた席替えは、窓際の席に座っていた人から順番に行われていく。
教壇に近い席を引いたクラスメイトの落ち込む声や、窓際一番後ろの大当たり席を引いて喜ぶ声に耳を傾けながら、残った席の中の当たりを探していると、いよいよ俺の番がやってきた。
箱の中に手を突っ込んで、残り少ないくじの中から一つを取り出す。開いたくじに描かれていた番号は9番。廊下側の一番前から順番に番号が振られているので、座席はほとんど変わらず、可もなく不可もなくといったところ。
「佐倉、どうだった?」
「ほとんど変わらん」
俺が引くや否や振り返って結果を聞いてきた勝浦の手には、一番後ろの席の番号が書かれたくじが握られている。それを見ながら俺の手元のものを見せれば、しきりに頷くばかり。
なんとも言えない引きで悪かったな。でも、露骨に悪い席じゃないだけマシだ。
そんなことを思っていられたのも僅かな時間だけだった。
全員がくじを引き終わったようで、少しの騒がしさと共に移動が始まった。一席分の移動で終わってしまった俺は、他にすることもなくその様子を眺めていた。
クラスメイトの大半が席の移動を終えて、俺の隣の席にもクラスメイトがやって来る。俺はその顔を見て思わず頬が引きつってしまった。
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