彼
バブみ道日丿宮組
お題:小さな保険 制限時間:15分
彼
1つだけ、たった1つだけ願いが叶うのだとしたら。
そんな謳い文句が言えるならば、夢は叶ってただろう。
いや……夢を叶えてしまったから、こんな未来を掴んでしまったのかもしれない。
「……」
こうしてベッドに横たわり、ただ天井のシミを見つめるなんて人生にはたどり着かなかった。
別に無理をした記憶はない。誰かに恨まれるようなことをしたつもりもない。
だけど、こうなった。
動けない身体を構成してしまった。脳がいかれてしまった。
毎週やってくるかかりつけ医は、身体に異常はないといつもいってる。つまり脳に異常はない。自分で異常に感じてても、医学では健康そのものだ。
ようは気持ちの問題なのだ。
どうにかしたいという私の感情とは異なり、肉体はびくともしない。
電気信号は脳の中だけで止まってる。
「……」
生きてる意味がない。まさにそんな状態だ。
世界にはこのような肉体になっても生きたいと願う人々がいる。
とても素晴らしいことだと思う。未来を求めて、前に進んでるのだと思う。
じゃぁ僕はどうなのか?
進むこともできず、戻ることもできない。
ただ迷惑をかけてるだけだ。
「……」
自殺できるのであれば、そうしたい。そうすれば、負担になることはなくなる。
負担をかけてる相手である恋人は、今だって隣で静かに本を読んでる。
「……」
目線を送ると、視線に気づきにっこり笑顔を返された。
優しい人だ。
こんな僕でもずっと付き合ってくれてる。
もし叶うのであれば、彼に生命を奪ってほしい。
それを口にできれば、きっと僕は楽になれる。彼もきっと楽になれる。
「……」
だというのに、口も震えるばかりでまともに会話さえできない。
てんで駄目だった。
たった1つ願いくらい、神様どうか許してください。
彼 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
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