第十一話 【ポイント】
day.4/16 [第一言ノ葉学園:河鹿寮三階]
この言ノ葉学園には、ワードマスターという称号がある。
これは、学年ごとの成績優秀者から六人が選ばれることとなるのだが……前回、須黒の時のようなイレギュラーさえなければ、基本は譲渡不可な称号なのだ。
では、どうやってワードマスターになるのか。
まず一つ目のやり方。これは、今現在のワードマスターたちがそうであったように、入学前の試験で優秀な成績を収めること。これにより、入試成績上位六名は入学と同時にワードマスターの地位を得ることができる。
では、そのあとからワードマスターを目指すものはどうすればいいのか。
それを叶えるのが『評価ポイント』というシステムだ。
評価ポイントとは、試験や何らかの学業的イベントにて好成績を収めることで獲得されるポイントだ。入学時に、ワードマスター以外には百ポイントずつ。ワードマスターにはそれぞれの順位に応じたポイントが与えられる。
そして、ワードマスターになるためには、まずその評価ポイントを、現在のワードマスターよりも多く獲得しなければならない。
つまり、何らかのイベントにて、優秀な成績を収める。それが、ワードマスターへの挑戦権を獲得することにつながるのだ。
「で、そんなことがあってな」
「はー。それで、昨日からなんか様子が違ってたんだな、おまえ」
同室の向井木達に、俺は昨日あったことを伝えた。岸良には配慮しつつ、俺がワードマスターを目指すことを伝えたのだ。
そう、あれから。俺は岸良の頼みを承諾した。
少なくとも、遊びで頼んできているような雰囲気ではなかったし、彼女にも何か深刻な理由があるのかもしれない。そう考えた俺は、その話を了承した。
そして、なぜ彼らにワードマスターになることを伝えたか。それには、理由がある。
「俺が目指すのは、今岸良が就いている第四位ワードマスター。岸良は現在、550ポイントの評価ポイントを持っている。対する俺たちは増減なしの100ポイント。そして、これから増えていくだろうこの評価ポイントだが、俺たちが増えるのならば、岸良も絶対に俺たちと同じペースでポイントを増やすことになるだろう。これじゃあ、アキレスとカメ。永遠に続く追いかけっこに成っちまう。だから、狙うのはここだ」
そうして、俺は先週のホームルームで手渡された一か月の予定表の中から、とある日付に指を刺した。
「クラス対抗の球技大会か」
「学級委員のコネを使って野極先生に聞いたら、男子はサッカーをやるらしい。そして、なんとゴールを決めた生徒には50ポイント与えられるんだとか」
そう。この球技大会とは、いわば評価ポイントのボーナスステージ。つまり、俺はこの球技大会にて、多くのゴールを決めて岸良のポイントに追いつくという算段を建てたのだ。
「だから、お願いだ! 俺のポイントのために協力してくれ」
だからこそ、俺は彼らに頼み込んだ。
サッカーは団体競技。つまり、俺がポイントを獲得するためには彼らの強力が必要不可欠なのだ。
頭を下げた俺の肩に、向井木の手がのせられる。
「名に湿気たこと言ってんだ。俺たちは友達だろ? 須黒の時もそうだったように、友人が助けを求めるなら、当然助けてやるに決まってんだろ!」
そういう向井木に追従して、福ノ宮と唐栗の二人も、俺の要請に応じてくれた。
「ジンには、いつもお世話になってるからね~」
「他の四人も呼んでおいた。あいつらにも事情伝えたら快くOKしてくれたから、今から夜まで作戦会議だぜ!」
そうして、遅れてきた別室のクラスメイト四人と共に、俺たちは勝つための作戦会議をするのだった。
「目標は、四月二十日の球技大会だ! 絶対に勝つぞ!」
――――それから
day.4/18 『第一言の葉学園:第一グラウンド』
「サッカー経験者は手上げろー……居ねぇのか」
「中学時代に野球はやってたけど……」
「僕はテニスをやっていたね」
「文化部だったからそういうのはやってないべ」
今は体育の時間。それも、二日後の球技大会に備えるための時間だ。
そんな中で、体育の教師の代わりとして来たのは野極先生だった。いつもであれば、体育教師が担当するのだが、今回は球技大会の備えのため、クラス別の体育となった結果、俺たちの指導に野極先生があてられたらしい。
そして、そんな野極先生が、誰か経験者はいないかと問いかけてきたが、生憎と一年E組の男子の中にサッカー経験者はいなかった。
「まあ、人数も少ないしな。こればっかりは仕方がない」
少しばかり残念がりながら、野極先生は備品のサッカーボールを地面へと落とす。
「しかし、経験者がいなくとも大丈夫だ。なにせ今回の球技大会は、評価ポイントが付与される大会だ。そして、この学園にて評価されるものとは何だと思う?」
そういいながら、グラウンドに並んでいた俺へとサッカーボールをパスしてきた。つまり、俺に答えを言えということだろうか。
そうだな。この学園は、言霊という力を行使するために作られた学園だ。なら、この学園における評価とは、言霊をどれだけ扱えるかどうか、という力が審査基準になってくるだろう。
「まさかですけど、言霊の使用ありのサッカーですか?」
そう。野極先生の口ぶりからして考えられるのは、言霊を交えたサッカーだ。
その答えを言いながら、サッカーボールをパスしてみれば、返答か肯定だった。
「その通り。いわば、この学園から送る言霊使い教育第一弾だ。だからこそ、評価ポイントが加算されるわけだが……もちろんそんな簡単な話じゃない。試しに、今から俺がこのボールを全力で守りつつ、さっき設置したゴールにシュートする。その間、お前ら八人でそれを防いでくれ」
野極先生がそういうと、すぐさまドリブルの姿勢になって三秒数え始める。それも、おそらく野極先生の装具である【極】と刻まれた温度計のようなものが握られている。
それを見て、急いで俺たちは各々の装具を構えた瞬間、野極先生の行動は開始された。
「――――【極:速度極化】」
野極先生が手にもつ温度計には、三本のメモリがある。そのうちの一本が、野極先生の言霊の発動キーであろう詠唱に合わせてどんどんと満たされていく。
まるで、何かしらの数値の急上昇を表す様に、メモリいっぱいに赤い液体が満ち満ちたところで、野極先生は一歩を踏み出した。
その一歩で、野極先生は五メートルは離れているであろう俺の隣まで、一瞬で移動してきた。
「――なッ!?」
言われた通り、即座に俺は【木】の言霊を行使する。だが、能力を発動するころには既にそこに野極先生の姿なく、また俺以外の生徒も各々の言霊を使って対応をしようとしたが、その悉くの対応を野極先生は置き去ってぽすん、とゴールに球をけり込んだ。
「さて、今見たと思うが、このように、言霊同士を使った対戦は何が起きるかわからない。その対応力を磨くのが、今回の球技大会の主目的だ。何か質問はあるか?」
そして、野極先生は、先生という俺たちの一段上に立つモノの実力を見せつけたうえで、俺たちにそう問いかけてきた。
ゴールを背にして、圧倒的な実力者として構える野極先生に対して、一人の生徒がとある質問を出した。
「あの、先生。けがとかはどうするんだべ。オラのはそこまでじゃないけんども、ながには、攻撃的な言霊を使うやつだっているだ」
そんなことを言ったのは、クラスで一番の巨体を誇る『北沢 祐介』という生徒。彼は、百九十を超える背丈を誇り、非常に目立つ。ただ、その温厚な性格ゆえに、普段は花壇などで花をめでるというった趣味を持っているために、誰かがけがすることを危惧した質問を飛ばしたのだろう。
そして、その質問に追従するように問いかける生徒もいた。
「確かに、北沢君が言うように危険な言霊ははままある。僕の【雷】だって、下手をすれば人を殺せるような代物だ。その点を、教師たちはどう対処するのだろう?」
その言葉は、クラスの中でも一目見て攻撃的だと言える【雷】なんて言霊を持つ、『舞殿 漣』のもの。上流階級出身の彼だからこそ、リスクヘッジには敏感なようだ。
そんな二人の問いかけに野極先生は、安心しろと枕詞を添えつつ答える。
「そこら辺の抜かりはない。そこの学級委員のそこそこの大けがを治せる言霊使いがいる。更に、体育教師の無蓋先生の言霊は【保険】というもので、こっちは特定の条件下でダメージを肩代わりしてくれる言霊だ。この二つを使えば、即死だってせずに万全な状態で言霊を使った競技をすることができる様になっている。ああ、もちろん既に教師の身で人体実験してるから大丈夫だぞ。ダンプカーに轢かれたって数秒後には完治してたからな」
そんなことをいう野極先生だが、生徒は若干引き気味だ。まあ、被検体となったことがある(意図したわけではないが)俺だけは、ギリギリで納得することができたが、間違いなく安心しろと言われても安心できるような内容ではないだろう。
ただ、いちおうは学校行事ということもあって納得したクラスメイト一同。毎年恒例でもあるようなので、まあ大丈夫だろうと向井木が収めてくれなかったらどうしたのだろうか。
「まあ、懸念事項はここまでとして……細かいルールの説明をするぞ」
「はーい」
野極先生の切り替えの声で、なんとかムードを変える。そして、ここからは二日後に行われる球技大会の詳しいルールについて説明された。
まず、大会で行われるのは、通常の十一対十一のサッカーではなく、日本では室内サッカーと呼ばれるフットサル形式のものとのこと。
更に、男子は各クラスに八名ずつ在籍しているため、通常の五名によるフットサルではなく、六名+控え二名によるオリジナルルールになるそうだ。
各試合ごとに十分ずつに試合を区切り、五分ほどの休憩を三回挟みつつ計四ラウンドのマッチになる。一ラウンドごとに、必ず控えのメンバーを試合に出す必要があり、一試合を通して、全員必ず一度は控えに入らなければいけない。
つまり、どの生徒も四ラウンドすべてに顔を出すことはできない。必ず、四ラウンド中三ラウンドは出場することになる。
言霊での妨害などが認められるため、原則レッドカードはなし。ただし、故意に人命を害するような行動や、サッカーとは関係のないいやがらせ目的の行為はまた別のペナルティが入るようだ。
試合時間は計四十分。キックオフにより試合が開始され、ラウンドごとに得点不利のチームから開始されることになっている。
試合コートは、四十二メートル×二十五メートルのモノを利用する。
欠員が出た場合は、ベンチにいる生徒を補充要員として出場させる。
そんなもろもろのこともありフットサルではあるが、言霊が絡むためにあくまでフットサルという形式でやる別のスポーツととらえた方がいいらしい。
ある程度はフットサルのルールに準拠するが、レッドカードがなかったり、本来では五人以下であるはずが六人でプレイしたりと変則ルールが適用されている。
その中で、俺たちは競い合い勝利を目指す。
「本選はトーナメント形式で進むことになっている。そして、ワードマスタの権利として、上位のワードマスターが在籍しているA組とB 組がシードとしてトーナメントに参加する形となっている」
トーナメントと形式か。……これは、現ワードマスターがいる組をシードに配置したあたり、実はワードマスターへの配慮ではなく、ワードマスターを抱えていない組への配慮だろう。
野極先生の説明では、得点を入れたもの以外にも、勝利することで勝利チーム全員に50ポイントの評価ポイントが与えられる。ワードマスターは成績優秀者。簡単に言ってしまえばこの球技大会の優勝候補だ。それをシードに据えることで、ワードマスターのいるクラスには、最低でも四位でおわるというそこそこの特典を、そして、ワードマスターのいないクラスには多くの評価ポイント獲得のチャンスを与えている。
だからこそ、狙うべきだ。ワードマスターの称号を。
――――ただ……
「……」
「どうした、ジン。浮かない顔して」
「え、そんな顔してたか?」
「ああ、なんかボケっとしてたぞ」
皆が球技大会に備える中、俺は向井木にそんなことを指摘されてしまった。
指摘されるほど何かに思い悩んでいるわけではない。ただ、一つ引っかかる。いや、もやもやと何か変な感情が、俺の中でくすぶっている。その事実を、俺は何だろうと不思議がっているだけだ。
そのもやもやとした感情がなんなのかはわからない。だけど、球技大会はすぐそこに迫っている。
「……気を引き締めとくか」
球技大会は、他のクラスもワードマスターを狙って必死で挑んでくるだろう。だからこそ、俺たちも兜の緒を締め、試合に臨まなければな。
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