第56話 一時帰宅しました

『レオン様』


『ルディか! 連絡取れなくて、心配してたよ。もう大丈夫なのか?』


『ご心配おかけして申し訳ありません、すっかり回復いたしました。』


『あぁ、よかった! で、その話聞きたかったんだ』


『そうですね……もうお話ししても問題ないでしょう』




 こうして、ベルゼブブとアスモデウスが城に帰った後の報告を、この時すべて聞いた。


『はぁ!? そんな大変なことになってたの!?』


『大事な作戦の最中に、レオン様を煩わせなくない一心で、あえて報告しませんでした。申し訳ありません』


『いや、そんなこと気にしてないよ。力になってやれなくてごめんな。それなら、いったん様子見に帰るよ。ルディ迎えにきてくれる?』


『かしこまりました』



 次の瞬間には空間移動で、ルディがあらわれる。

 顔色は問題ないみたいだ。表情もいつも通りみたいだし、本当に元気になったみたいだな。


「ちょっとノエルに伝えてくるから、待っててくれる?」


「かしこまりました」


 俺はちゃんと反省したんだ。勝手にいなくなるのはいけないと。みんなに心配かけないためにも、自覚を持たないとな。


「お! レオン、ちょうどよかった! これから飲まないか?」


 ノエルの部屋に向かう途中で、テオと鉢合わせる。明日帰るので、最後の夜に飲みたいんだろう。


「ごめん、テオ。今夜は城に戻らないといけないんだ」


「何かあったのか?」


「ちょっと大変なことになってて、様子見に行かないと」


「ふーん、それなら俺も行く」


「え? なんで?」


「ノエルがアリシアとデートしてきたのに、オーラが黒いんだよ。全然休めねぇ」


「あー、わかった。じゃぁ、一緒に行こう」


 きっとアリシアのことで、何かあったに違いない。ノエルはそっとしておくことになったので、レイシーに伝えて俺とテオはルージュ・デザライトの城に戻った。




     ***




「ベルゼブブ、起きてるか?」


 ノックの後にそっと扉をあけて、声をかけてみる。ベルゼブブは、意外な人の声に慌ててベッドから飛び起きた。


「主人殿! 戻ってきたのか!」


「うん、こっちも大変だったって聞いて。ベルゼブブ、よく頑張ってくれたな。ありがとう!」


「そのようなことは構わぬ。それよりも、我もアスモデウスも倒れてしまってな。先程、起きたばかりなのじゃ。面目ない……」


「何言ってんだよ。治療薬も開発したんだろ? すごい事やり遂げたんだから、しばらくゆっくり休んでいいよ」


 ベルゼブブはすごいしかめっ面で、涙をこらえている。人前では泣きたくないらしい。元気そうな顔を見れて安心したし、休ませてやりたいから他の城の様子でも見てくるか。


「じゃぁ、アスモデウスの様子も見て、城を一通り回ったらブルトカールに戻るな」


「うむ、た、頼む……」



 こぼれる涙を誤魔化すベルゼブブに気づかないフリをして、テオとふたりでアスモデウスの部屋にむかった。

 眠っているかもしれないから、ノックの後はそっと扉を開ける。


「アスモデウス……と、フィル?」


 フィルが手伝ってくれてるのは知ってたけど、まさかここにいるとは思わなかった。

 そして、フィルがアスモデウスの手を握って眠りこけている。こんなこと、アルブスで見たことがなかった。思わずテオと顔を見合わせる。


「起こしちゃ悪いし、フィルがいるなら大丈夫だよな」


「そうだな、いま起きたらむしろ面倒だ。レオン、さっさと次行くぞ」


 治療に役立ちそうな薬草をブルトカールで見つけたので、そっとベッドサイドのテーブルに置いて、部屋を後にした。




     ***




 その後は城の様子を見て周り、ついでに前に連れてきた奴隷たちを解放して歩く。俺が城に戻ってくるまでに、どうしたいか決めてもらうように伝えてたら、泣いて喜ぶ人たちもいた。力になれてよかったと思う。

 俺とテオはブルトカールに戻る前に、私室で一休みしていた。



「フィルがアスモデウスを好きなんて、意外だったな……」


「なんだ? アスモデウスを取られたくないか?」


「いや、そんなんじゃないよ。俺さ、今までそういうの真面目に考えた事なかったから、もうフィルもそういう歳なのかと思って……」


「お前は……どんだけガキなんだよ。好きな女とかいなかったのか?」


「ガキ……かな。……好きな人は、嫌われてると思ってたしなぁ、アルブスにはいなかったな」


ねぇ……」



 両親が亡くなってから、ノエルとふたりで生きてきて、俺は家族を、国を守ることしか考えてこなかった。

 自分のことだけ考えたのは、ここに来てからだ。



「大切にしたい人とか、ずっと側にいてほしい人とか、そう思う奴はいないのか?」


「大切なのは、みんなそうだし。側にっていうか、自由にして欲しい」


「……じゃぁ、居なくなったら嫌だなって思う女は?」


「それは————」



 ここまで言われてようやく気づく。


 あの時、一緒に燃え尽きてもいいと思った。ベリアルがいない世界に興味なかったんだ。

 俺の人生の一番のどん底で、ずっと支え続けてくれたひと。



「そっか……」


「お、気づいたか?」


「え……テオはわかってたのか?」


「おう、多分だけど、ノエルとエレナも気づいてるな」


「えええ……それ、めちゃくちゃ恥ずかしいし」


「レオンがガキすぎるんだよ」



 レオンは耳まで真っ赤にして、反論できずに押し黙る。


 ていうか、これどうしたらいいんだ? 好きって気づいたら、みんなどうしてんだ?


「なぁ、これ、どの後どうすればいいんだ?」


「はぁ、そんなん知るか。自分のものにしたいなら、さっさと捕まえろ。先輩からのアドバイスは以上だ。あとは自分で考えろ」

(あんだけ惚れられてんのに、どするもこうするもないだろ。ま、時間の問題だろうから、ほっといてもいいか)


「……………」




 ブルトカールに戻ったレオンは、一晩中眠れずに悶々としていた。

 翌日、ノエルたちを見送ってからもずっと上の空で、密かにベリアルたちから心配されていた。


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